第3話 ロイアと王子の馴れ初め探究
女神様と話してから、俺は何だかスッキリした気分でいたのだが。
「転生、チキュー、……てか、異世界なんてあるんだな……。すっご」
教会から家に帰って、夕食を食べ、風呂を済ませた少し後。
寝る前に少しベッドでゴロゴロしながら、今日の女神様との会話を振り返っていると、一つの疑問にぶち当たった。
「ロイア・ファレスティか。異世界人が王子と婚約できたんだ……、王子と?」
どの年齢のロイアに憑依したのかは知るよしもないが、この世界の常識に合わないはずの異世界人が、どうして王子と婚約できるのだろう。
王家がたまに開くパーティーや舞踏会でも、参加させて貰えるほどの位ではない下級貴族が、そもそもどうして知り合ったのか。
あくまで噂程度の情報だが、王子は聡明な女性が好みらしい。
専門店で出会った彼女に、そんな様子は一切無かったが――。
「噂だもんな、関係ない!」
自分にそう言い聞かせて眠ろうとするが、一度気になると、解決するまで気になってしまう悪い癖。
全く寝付けずに、その日は深夜まで意識は手放せなかった。
「レドル、クマ酷いわよ? どうしたの」
朝、朝食を食べる俺に、心配そうに尋ねてきたのは、まだ出勤前の俺の母、ミルヴァー。
母のみでなく、弟まで心配そうな顔つきだ。
「何でもないよ。考え事してて、ちょっと寝付けなかっただけ」
軽く笑い流して済ませようとしたが、母の目はそう簡単に誤魔化せなかった。
「寝れなくなるほどの考え事ってなに? 天照のこと?」
「そうじゃないけど……。いや、ある意味そうかも」
「なんなの全く……。そういうのは寝る前じゃなくて、どこか他の時間見つけてやりなさいって、何回も言ってるでしょ」
「あー、うん。分かった。気をつける」
「嘘ばっかり。その台詞聞き飽きたわ」
少し大袈裟に肩を
「そういえばロビア、ロビアの入学式っていつだっけ」
弟の名前を呼ぶと、そういえば、弟とロイアの名前は似ているな、と、どうでも良いことを感じた。
「え? ……来月の、十日くらい?」
「そっか! ロビアももうすぐ学生だ!」
「ちょっとレドル、話逸らしたいのが丸わかり」
流石に言い方が嘘くさすぎたのか、母が呆れがちに呟いた。
それに気づかぬふりをした俺は、勉強してくる、と言った体の良い言い訳をし、街へ出た。
俺は街で、ロイア・ファレスティと王子の馴れ初めについて調べていた。
図書室、本屋から始め、そこらの大人や貴族に詳しい知人への聞き込み。
噂話や信憑性の欠片もない情報なら出てきたが、そこは王子の恋愛事情。欲しい情報が、そう簡単に出てくるはずもなかった。
唯一気になった情報は、知人から聞いた、二人の二ヶ月ほど前のデートについて。
王子としては相応だが、ロイアとしては不釣り合いな場所でのディナーが行われていた。
その日のロイアのドレスは、王子や他の客と比べると、どうしても見劣りするもので、店のスタッフ達は良く覚えていると言う。
実際にその店にも行ってみたが、スタッフ達の言質が取れた。
俺のような庶民でも話をして貰えるのは、やはり父の知名度や実績のお陰。
その息子である俺も、ある程度優遇して貰えるときがあり、申し訳なく思うこともあるが、大抵は有り難く感じるのみだ。
その情報により、ロイア・ファレスティが――ロイア家が、何らかの原因で成り上がった可能性が否定された。
つまり、二人が出会ったのは、社交の場であるはずがない。
仕事だとしても会えるはずもない、それ程の身分の差。
出会ったのはおそらく、王子がお忍びで街へ出たとき。
変装していたり、影に護衛が隠れていたりする王子と接触し、親密になること。その難易度の高さは計り知れない。
偶々ではまずあり得ない。
と言うことは、王子が来る場所、王子を惹きつける何か。
ロイアはそれを知り、持っていたことになる。
どうして?
こればかりは、ロイア本人に聞くことでしか判明しない。
彼女に偶々街で会うだなんて、そうそうないであろう。
邸宅に突撃もできるはずがない。
仮説として。
ロイア・ファレスティは、王子の個人情報について、チキューという異世界から何らかの形で入手していた。
この仮説が正しければ、彼女はこの先、情報を駆使して世界を脅かすかもしれない。
仮説その二。
ロイア・ファレスティは、上級貴族に知り合い又は友人がいて、その上級貴族と王子の仲が良かった。
俺的には、この仮説が合っていてくれると一番納得がいく。
仮説その三。
ロイア・ファレスティはいつの間にやら、心を読む魔法を身に着けていて、その魔法を利用して王子に接近した。
この仮説が正しければ、彼女は将来とてつもない権力を握るかもしれない。
全ての仮説が外れるかもしれないが、今の俺が主に考えられるのはこの三つ。
ロイアに確認できるのは来月初めの入学式から。
「楽しみになってきた……!」
そんな風に、つい町中で独り言を放ってしまうほど、俺の探究心は燃えていた。
ぶっちゃけると、ロイアや王子からすれば迷惑極まりないのだが。
それ以降、俺は特にすることもなく、穏やかに雲が流れるよく晴れた日、待ちに待った入学式はやってきた。
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