第4話 エルフ暴☆走☆中
「何だ・・・あれ・・・?」
最近一級冒険者にして白ノ猟犬のメンバーを巻き込んでしまった元凶であるレックスは無意識につぶやいた。
自分たちを殺さんとする悪魔種――山羊の頭に六つの目を持ち全身黒い体毛に覆われた5メートル程の巨躯を誇り、無骨なハルバードを持つバフォメット――よりも濃厚な殺気を辺りに無差別にばらまく悪魔、否たった一人の一級冒険者に恐怖をたたき込まれていたからだ。
そもそもの話、こんな分かりやすい罠に引っ掛かる自分が悪いのは重々承知している。もしもあの時、手柄を立てれずに焦っていた自分がこの大扉の向こうにいた弱いゴブリンに手を出さなければ、それを罠だと気づき止めようとした白ノ猟犬メンバーを巻き込まなければ、こんなことにはならなかった。
そんな絶望のもとでも必死に抗い、少しでも生存率を高めるために救難信号をリーダーにダメ元で出してもらい、その間を必死に耐えていた。
だが、来たのは何だ?一級冒険者・・・なのだろうと信じたいが初めに感じたのは魔物と同等、いや、魔物以上の魔力と殺意を周りに放つ大鎧の男だった。
土魔法が得意の魔法使い、リーナでも壊すことが出来なかった大扉を手に持つハンマーで屑石のようにバッキバキに壊し乱入してきた姿は新手の魔物、しかも階層主並の大物が介入してきたと錯覚してしまった自分は悪くないと思う。
もしもリーダー、――炎剣のナザリー――が「シンラが来てくれたのか・・・勝ったな・・・。」と小さく聞こえないような声でぼやいた言葉を聞き取らなかったら今持つ最高火力を誇る技をぶつけていたと思う。現に、リーナは土魔法で
そんな中、対峙していた悪魔に目が行く。敵と認めたのか、優先的に排除しなくてはと小さな脳みそで考えたのかは知らないが、目の前のバフォメットはその悪魔に向かって突進するかのように駆け出し、無骨なハルバードを音を置き去りにする速度で振り落としていた。チラリと見えたバフォメットは恐怖で小刻みに震えていて自分たちが相手にしていたときには見せなかった引いた腰は気のせいだろうと信じたい。いやそうであってくれ。
だが、即死級の技を食らった悪魔はどうなった?鎧もひしゃげることなく只そこに立っていた。細かな傷はあれど、不動で戦神のように堂々と足を踏みしめこの攻撃が塵芥に過ぎないと体現しているように立っていた。
これには自分たちのパーティーも目を見開いて口をぽかーんと開けるぐらいに驚愕した。だが”そんな驚きなんぞ知ったこっちゃ無い”と言わんばかりに持っていたハンマーで反撃をする。
一瞬だった。
振り下ろしたハンマーが頭を捉えてバフォメットの首がバターのように削り取られ地面のシミになったのは。
その呆気ない終わりにも目が行くが一番目が行ったのはかの乱入(救援)してきた一級冒険者だ。
そいつは嗤っていた。
バケツをひっくり返したような兜の下で引き裂かんばかりに口を開け嗤っていたような幻が垣間見える。
そしてその姿を見て精神が限界だった俺は情けないことに気を失ってしまった。
あぁ…こんな姿、一目惚れしたエルフの冒険者には見られたくないな…ちくしょう。
――――――――――――――――now loading
・・・何か弱くないか?このバフォメット?
私は最初に攻撃してきたクソ山羊悪魔の首を自慢のハンマーで削り取った後にふとこのように思った。今まで退治してきたバフォメットは一撃では首を刈り取れず何時も頭を陥没させてぶっ殺していたが、今日はバターを切り取るようにすんなりと殺せた。
もしかして誰かが弱体化の魔法をかけてくれたのか?と思うがここまで弱体化することは無かった筈だ。では・・・
…っと危ない。別にどうでもいいことだし今は白ノ猟犬メンバーの救出と悪魔種に亜竜種をぶっ殺さないと。恩のある姉御に手を出した罪はクッソ重いぞ。☆死んで☆償って☆。
深くに沈みかけていた思考を再浮上させた私はこの状況をひっくり返す為の行動を始める。
手始めにぶっ壊した出口に向かっていた白ノ猟犬メンバーを追いかけるバフォメットに向かいたった今ドロップした武器――黒山羊の大斧槍――を追いかけているもう一体のバフォメットの手に向かい投擲。手に当たった瞬間にはじけ飛び、筋骨隆々の手首から先が消し飛ぶ。消し飛んだ手首からは無理矢理千切れた筋繊維と砕けて尖った骨が飛び出て、紫色の血が壊れたホースのように辺り一面まき散らしながら溢れていた。
そのまま勢いを殺さずにバフォメットに接近した私は左脚の腱、足を削り潰し逃走と追跡を不可にした上で倒れ込んできた体のてっぺんにある山羊頭を粉砕する。その時の顔は山羊頭でも分かるくらい絶望に歪んでいたがその顔を見て自然と笑みが湧き出た。こんな感じで生態系の頂点が無様に地面を這いつくばる姿は興奮ものですよぉ~(ニコ)(外道)
っやべ。涎が出てきた失敬、失敬。ここまでが順調すぎて気が緩みに緩んでいた。もう白ノ猟犬のメンバーは脱出できたしもっと暴れるか。
そう考えた私は今までつけていた枷をもう一段階解放し、さらに魔力を綿密に練り上げ体を覆い、武器も深紅に染まり発光する。それはまるで、太陽のように紅くそして深く・・・
魔力を練り上げもはや核爆弾の様になったハンマーを両手で持ち、目の前の亜竜種に構える。
目の前の亜竜種は亀みたいな見た目だった。
人の身長ほどの分厚さを誇る深緑の甲羅にその巨体を支える分厚くて立派な足が6つ、亀独特の短い尻尾ではなく長く、殺傷用の鋭利な棘が規則正しく緻密に並んだ長い尾、ひょっこり出ている顔は亀をベースに、目は4つ――切れ長の鋭い眼光に金色――を携え嘴の代わりに鋭い牙がいくつも並ぶ口元に、そこから滴る唾液は地面に当たるたびにシュゥっと溶かす猛毒の黒紫色。
このゲームにおいて五本指に入る耐久力としぶとさを兼ね添えたゴミ魔物、亜竜種最防のタラスク。
こいつはこの高い防御力+早い再生速度+垂れ流す猛毒によるスリップダメージで出会ったら高火力武器で一気に殺すか逃げるかがこのゲームにおいての常識であり、得られる経験値も少ないうま味が全くない魔物だった。
この世界に来てからレベリングもスキルも無く、このような経験値は意味をなさないものになったが、それ抜きでもこいつ相手に持久戦は正直言ってこちら側が負けるのが目に見える。
だから私が取った手は動きを封じた上で高出力の攻撃で消し炭にするRTAの方法だ。
自分の有り余る魔力で再現できたこのゲームにおいて高火力の技。それをこいつにぶつける。
しかしこのタラスク・・・何か様子がおかしいことに気がついた。
ゲームの中だと勇猛果敢、プレイヤーからすればモンハンの狩りの邪魔をする鬱陶しい小型モンスターの如く、視界に入れば即攻撃。何人居ようが関係なしに突っ込んでくるピッーーーーーーモンスターだというのに、私に対して直ぐに攻撃せずされど焦点は私に釘付けのまま視界に収めていた。そしてどことなく後ろのジリジリと後退しているような…?気のせいか。そんな撤退を選ぶほどこいつ賢く無い筈だし竜種の無駄で馬鹿馬鹿しいプライドを持っている筈だからそれは無い。
最高火力の技を繰り出すときはゲームではお約束という法則があるように大きな隙が生まれる。そこはパーティーの仲間と協力したりすることでどうとでも立ち回る事が出来る。だがその反面、今の状況はそうソロ。ソロだ。分担する作業を一人でこなさなくてはいけない。
こいつに対するRTA走者御用達、何千何万と発見したバグ技を使うことも出来ないし、こいつに刺さるアイテムもナッシング。だが、この詰みだと思う状況は幾らでも挽回できる。
だってここは現実だもの。ゲームでは出来なかった足をもぎ取ってダルマにする動物愛護団体が助走をつけてドロップキックをするような惨い方法だってとることが出来る!!
6本あるご立派!な足に狙いをつけた私は何時もの瞬歩を繰り出し持っていたハンマーでぶん殴る。勿論、抵抗するタラスク相手に足を潰すと言うのは困難を極めるだろう。だが、今の無敵とも言える防御を持つ私にはそんな抵抗なんぞ蠅と同じ程度にしか思わん。
一回では削れなかった足に何度も何度も攻撃をして遂にその足が再生困難になるほど叩き潰した肉塊に向かいマジックバックから取り出した薬品をぶつける。それは何やら怪しい文様が描いてある粗野な瓶で中身は強烈な刺激臭を放つ薬品で満ちている。これはエロ同人誌御用達、服や鎧だけを溶かすあの薬である。今回は瓶を開けて中身をかけるのが非常に面倒くさかったので瓶をたたき割るようにぶつけたが効果はあるようで少し安心する。
もしかしたら私が何故服や鎧だけを溶かすあの薬を再生困難になった足にぶつけたのか疑問に思うかも知れない。確かに効果は無いように見えるが、あくまでもこの薬は鎧や服だけを溶かし、その下にある白く柔い女体をさらけ出すだけの目的があり、人の皮膚だけは溶かさない。そう、人の皮膚だけだ。
つまり人ではないタラスクにぶつけると…
目の前で再生しようと蠢いていた肉片が黄色い蒸気を大量に発し、嫌な臭いが充満する。そしてその煙が収まる頃には肉片は黄色い粘度のある液体を付着させながらワイン色の壊死した足のように焼き固められてしまい再生が不可能。治癒不可の傷を強制した。
人ではないタラスクにとっては自分の毒以上に凶悪な酸となりクソッタレな肉片を溶かすことが出来る。
そしてこの薬あと何本あると思う?正解は12本。予備もまだ沢山あるから何度再生しようが治癒不可の傷を何度も与えれる。
さぁ…ゴミ掃除の時間スタート!
潰れた足に気を遣いながら暴れるタラスク。他の足をジタバタさせてかの冒険者を潰そうと先ほどの臆病だった様子から一変し怨嗟を宿した殺意で襲い掛かる。
だがそんな攻撃をまるでステップを踏み、軽やかに地面を滑るように避け、すれ違いざまにハンマーで攻撃。痛々しい傷を残し攻撃範囲外に離脱する。
そこからまず17秒。二本目の足が薬品で焼かれて治癒不可の傷を作る。
16秒後、三本目の足が使用不可にされた。この時点でバランスが取りずらそうにふらふらしている。
13秒後、四本目の足がミンチになり腐臭にもとれる悪臭が立ち込む。不安定は先ほど以上に強くなるが対局線上に残った足で何とかバランスを取っていた。
11秒後、遂に五本目の足が持って行かれた。調子が良くなり力を増した重武装エルフにより根元から弾き飛ばされジェンガのように体崩れ倒れた。
この時点でこのタラスクは逃亡しようとジタバタしているが芋虫の如く藻掻こうが決してその体は動かない。
7秒後、最後の足が持って行かれてダルマになる。自重で潰れた足からは黄色い膿のような塊と紫色の血と混じり吐き気を催す甘く酸っぱい悪臭が鼻をついた。再生しようにも傷口より上の肉まで削がないと再生できない上に出来ないこの状況はタラスクにとっての詰み。絶望ものだ。
ダルマになったタラスクの目にはその冒険者を映していた。こちらが毒ガスを流そうが苦しむ様子もなく、質量攻撃をしようが避けられて、挙げ句の果てには毒ブレスも正面から突破してくる。こいつは人間じゃない…!化け物だ…!そういいたげに恐怖で流したことのない涙を人間らしくポタポタにじませているが弱肉強食の法則があるように慈悲はない。この場で死ぬ以外の選択肢は存在しなかった。
かの王妃を処刑し生首を大衆にさらした斧のように、即死級の威力が内封されたハンマーは硬く強靱な首の骨をたやすくかち割り冒険者によってもぎ取られた頭は虚ろな眼でその恐怖の存在を映した。
その恐怖は掲げた生首を高々と持ち上げ嬉しそうに悪魔のような笑みを浮かべていた。
そしてその場には魔晶石を抜かれて灰になった体と前腕ほどの大きさがある魔晶石が黒紫色に光り残るだけだった。
――タラスク+バフォメット×2討伐、白ノ猟犬救出――完
って結局大技使わなくても討伐できたじゃん。
最後まで締まりの悪いエルフだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます