第3話 暴力装置重武装エルフ起動

一級冒険者には様々な恩恵がついている。



 例えば他国に入国する際の面倒な手続きが省かれ直ぐに入国することができる、人頭税やその他税金を滞在中は払わなくていい。等といった外交的な恩恵から、武器や防具の購入の際に2割ほどの金額を冒険者ギルドが負担する、又、今後の冒険者活動が不可能になるほどの怪我を負ってしまった場合はその後の社会復帰のためのサポートをするなど多岐に渡り、実際これらの恩恵を受けたいと必死に冒険者活動をして目指すものが多くいる。



 だが、一級冒険者にはその恩恵を受ける代償にやらなくてはならない義務もある。



 それは初心者冒険者の救出、初心者講習の教官をする等だが、一番危険なのはダンジョン下層区域の大規模掃討だろうと私は思う。



 ダンジョンにおいて必須とも言えるデメリット、魔物の異常発生によるスタンピートを防ぐために行うのだが危険度は半端ではなく一人二人はなくなってしまうことを視野に入れて行わなくてはいけない。非常に危険な義務…。



 だがそれと同時に私はこの義務が非常に大好きだ。



 何故なら合法的に大量の魔物達を鏖殺することができるからね。











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 今日も何時ものように重武装エルフは目覚めるが少し違う点がある。水浴びをし、歯を濯ぐのは同じだが一番違うのは装備の点検だろう。いつもの装備を別のものとくっつけ既存のものを外したりして変えている。



 黒鉄色の大甲冑、左腕に装備していた丸いラウンドシールドを取り外し代わりに腰部分に着けていた護拳付きの大型ナイフを皮鞘についているベルトで括り付ける。もう片方の右腕にも予備の同じ大型ナイフを括り付け両腕にはナイフを装備した状態にした。



 武器も何時ものメイスとは違いさらに大型な武器を出していた。



 全部が黒が濃い紅色をした両手で持つ大型のハンマーで、相手を叩き潰す部分には肉を柔らかくするためについているミートハンマーの様に四角錐がびっしりと均等かつ規則的に生えており欠けている所はなく鋭利な光が反射している。

 持ち手には申し訳程度に包帯状の皮布がまかれておりつい先ほど変えたのかまだ白っぽく綺麗な雰囲気を持っていた。


 腰には皮で製作された四角いサブバックが一つ、ベルトに通し固定され中には、丸く透き通る茶色っぽい野球ボールほどの水晶球が9つ。怪しく光る蛍光色のピンク色の液体が入ったガラス瓶が3つ。束にまとめられた投げナイフが1ダースと様々な道具が入っていた。



 そして装備、武器の確認が終わった重武装エルフは宿から出て、屋台の朝食を食べる暇もなくギルドへと足早に向かった。



 ギルドの中に入るとすでに五人一組のパーティーが計6組集まり何処か剣呑な様子で話し合っている。

 今日は一級冒険者以外はギルド内への立ち入りが一時的に禁止されているのでこのパーティー以外の人物はギルド職員しかおらず何処か寂しく感じている。



 このパーティーは全員一級冒険者なのだが、ソロは私しかいない。時間的にはもう少しでギルドの担当職員が今日の下層区域掃討の説明をするので入り口近くに設置してある複数の机椅子の一つである質素な木製の椅子に深く腰を掛け静かに待つ。



 「お待たせしました、一級冒険者の皆様。全員の集合を確認できたので今日行う第1202回目ベルゴン市支部ギルド管轄ダンジョン、亜人の地下墓、下層区域掃討のミーティングを始めます。」


 

 受付の奥より現れたギルド職員は、メガネをかけ精密な情報が記してある植物性の紙の分厚い束を片手で持ち私達に向かい説明を始めた。



 余りにも長く無駄の多い駄文をつらつらと喋っていたので分かりやすく要約すると


 ① 亜巨人種のオーク類・トロール類、亜小人種のゴブリン類が 前回の掃討より三割多く発生している。

 ② 悪魔種の上位個体を確認した。

 ③ 亜竜種の発生は今のところ確認していない。 

 ④ 亜巨人種、亜小人種を積極的に狩って欲しく、この魔物の魔晶石は市場価格の1.5倍でギルドが買い取る。


 とのことだそうだ。



 いや、よく偵察に行った冒険者は生きて帰ってこれたな。悪魔種の感覚器官は普通の魔物より優れていて見つかって直ぐに襲われるのに...と一人感心しているとギルド職員が下層区域にいく何時もの魔法陣に案内し始めた。どうやら後もう少しで開始するらしい。


 

 私はそそくさと列の最後尾に並び順番を待った。


 

 目の前の冒険者パーティーは覚悟を決めた者も入れば殺気だつ者もいて先程よりも鋭く、生命の危機に感じる冷や汗のような冷たさが各々のパーティーより放っている。


 

 そして最後の私の番がやってきた。目の前の魔法陣に乗る前にギルド職員から二つの物を渡された。

 

 一つ目は無限収納が付与されたマジックバッグ。一つ金貨1000枚する高価なもので小さい見た目に反して何tもの、物品戦利品を収納できる優れものだ。このゲームの主人公としてプレイしたときは当たり前のものだったが、よくよく考えてみればこんな便利グッズを序盤で渡す教育係は一体どれだけ金持ちなんだ…?(自我)


 二つ目は自分と他パーティーの場所が分かる下層区域の地図。これによって他パーティーと魔物の位置共有が容易になりカバーに入りやすくなる。ちなみに情報を伝えるマイクとスピーカーの代わりは、このドッグタグがする。…何時みても凄いな異世界魔法技術(称賛)


 

 渡されたマジックバックをベルトにくくり、折り畳んだ魔法地図を中に放り込む。



 準備ができた私はギルド職員に完了のサムズアップのハンドサインで送り、それを了承した職員は下層区域に転送した。



 視界を埋め尽くす眩い光がやみ、目を開けると何時ものセーフティゾーン。ただ、今は一級冒険者以外立入禁止なので誰もいない閑古鳥が鳴くようにスッカラカンな空間に仕上がっている。



 だが、そんなことは気にせず私は下層区域の一番下、下層区下階層に急いで向かう。他の冒険者は下層区域の上、中らへんの階層にて討伐しているが自分がやることはかなり危険なことを配慮してだ。この下階層は、ダンジョンコアの近くのためそこら辺の階層よりも丈夫である。


 そして下階層についた私はあるものをサブバッグより取り出した。 あの茶色い水晶球と蛍光ピンク色の液体入りガラス瓶、投げナイフの束より投げナイフ一枚だ。


 この茶色い水晶球は、イグニションボールという魔道具で魔力を込めた状態で強い衝撃を加えると爆発する謂わば手榴弾だ。


 蛍光ピンク色の液体入りガラス瓶は、魔物を興奮させる興奮剤で少しでも吸うと、その匂いがする対象に理性を失って追跡し始める前回私が使った陶器瓶入りの血の上位互換。


 おっと…紳士諸君はこれ媚薬じゃね?と思ったかもしれないがこの世界の媚薬はこの蛍光ピンク色に紫が混じったイヤらしい色をしてるから違うぞ。それにゲーム中にも正式に登場している健全な道具(笑)だ。確かにこれを使ったエロシーンは同人誌であったけど…


 そして最後は投げナイフ。ただの鋭利な鉄板だ。(適当)




 では、ここでキュ○ピー3分クッキングの始まり始まり!

 (テレレレレテンテンテン♪テレレレレテンテンテン♪テレレレレテテテテテン↑テン↓テン↑♪ キューピー3分クッキングのBGM)



 まずはこのイグニションボールに限界まで魔力をつぎ込みまーす!普通の場合黄色に変化するけど私の莫大な魔力量のせいで赤色になります。(鬼畜)


 次に暴発寸前のイグニションボールを地面におき、自分に掛からないように慎重に興奮剤を掛けます。仄かな甘い香りに思わず暴れまわりたくなりますが、ここは我慢、我慢ですよ…(苦渋の判断)…!


 最後にこれを地面、少しくりぬいた岩盤に嵌めて、離れたとこで専用の除去液を手と体にかけたら終了です。かかったタイムは…36、普通だな(RTA風淫夢)


 

 急ぎ近くの隠れ場所、死角になっている袋小路にてスネーク(ただ隠れているだけ)しているとドタドタと重い足音が津波のように聞こえてきた。


 そこから数分後にチラリとみる。何処かキョロキョロと探しているゴブリン、オークの群れが牛舎に閉じ込められた牛のごとくたくさん詰まっていた。何かにイライラしているのか、互いに攻撃していたり、変なダミ声混じりの叫びを上げたりとカオスすぎる空間だ。



 このぐらいで良いかと考えた私は持っていた投げナイフを嵌めていたイグニションボールに向かい投擲した。音を置き去りにする速度で飛ぶ投げナイフはボール一直線に飛びイグニションボールを二つにパキリと割った。



 そして白い光がここ一帯を埋め、遅れて振動と耳を破壊する轟音が響く。飛んできた何か分からない肉片と四肢の部位がビチャっと地面にへばりつき転がる。


 振動が収まり先程の空間を見ると、死屍累々の地獄が顕現していた。雑魚は木っ端微塵にとび砕けた魔晶石を残し、唯一の上位個体は下半身と泣き別れして上半身を短い両腕で引きずり動き、弾けた腕を探していたり、痛みに慟哭していたりと千差万別の反応だ。


 

 そんな魔物達に向かって私は威風堂々と重みのある歩みで近寄り頭をハンマーで削り取っていく。分厚く丈夫な首の骨は意味をなさず砕けちり、恐怖と苦痛で染まった醜い顔をポトリと熟れた果実が地面に落ちるように転がった。


 死んだ魔物達はただ、灰の山と淡く光る色とりどりの魔晶石、ドロップ品の品々のみを残す。


 こうしてドロップ品や魔晶石を回収したらまずは第一ウェーブの完了だ。



 これを後二回するのだが…正直いうと今すぐ群れに向かって正面から叩き潰したい。

 が、…誰かにIQ低い脳筋と言われそうなのでここで理知的アピールしなくては(真面目)。


 これは冗談にしろ流石にこれだけの相手をしたら体力が持たないので体力温存の意味を兼ねての計画だけどね…


 さぁ後二回頑張るぞー!!



 ーーーーーーーエルフ鏖殺中ーーーーーーー



 先程と、同じ作業を二回、合計三回やって得た戦利品は顔を綻ばせるのに十分すぎる量だ。


 亜人種の魔晶石、大中小合わせ約1200個

ダンジョン産の武器、弓・刀剣類等々あわせて計129本           

 亜人種のレアドロップ素材が147個

 亜人種産の特殊魔法薬が、258個

 その他希少鉱石、宝石等々が、8個


 

 大量の宝の山がマジックバッグに収まっている。これを全て売れば使った魔法道具の費用なんて賄えるしなんならかなりの利益を短時間で得ることができた。

 普段は、討伐数に制限がかかっていたりするのでこんなことはできず多くても金貨100枚が限界だ。

 しかし、これだけ売れば、金貨100000枚いや、114514枚が手元に入る。一級冒険者は、税が免除されるのでそのまま懐に入るのを想像したら口からヨダレが垂れるほど私は浮かれている。



 事実、この辺りは殺し尽くしてしまったので魔物が出てこずかなり油断をしていた。私の顔周りにはのほほんと花が漂っていそうな雰囲気。このダンジョンには似合わない。



 

 「一級冒険者シンラ聞こえるか?応答求む。」


 

 急に脳内へとドッグタグから発せられた念話が響く。その言葉にのほほんと油断していた私は引き締まり緊張を取り戻しその念話の相手に返信した。


 「こちらシンラ下層区域中階層にいる。どうぞ。」


 自分のいる場所を提示し、相手がより正確な対応ができるよう心掛ける。


 「下層区域中階層のトラップにかかり亜竜種1悪魔種2が出現。対応していた一級パーティー白ノ猟犬より救援要請が発信された。指定されたポイントに向かい至急対応してほしい。」


 

 取り出した下層区域の地図をみると他冒険者を表す黒点の他に赤い点が浮かび上がっていた。見る限り今いる場所から真っ直ぐ北西の所を指している。だが、このまま真っ直ぐ進めるわけではなく、入り組んだ迷路のごとき通路を進まなくてはならない。


 こんな所を真面目にいっていたら救援に間に合わない。


 以前白ノ猟犬のあるメンバーには、お世話になったので死なせたくない気持ちで一杯だった私はとんでもない行動に移した。



 全身にまわしている身体強化の魔力量をさらに費やし蜃気楼のごとき赤いオーラを纏う。そして






 

 






 普通なら壊れるはずのないダンジョンの壁が粉々になりながら粉砕されていく。私は瓦礫、唖然としている魔物を無視しラグビー選手顔負けの突進をスピード殺さず突っ切って行った。



 この方法を昔、阿保で幼稚な考えのもと実行したことがあるが、数分で魔力切れを起こし気絶したことを痛切に覚えている。だが、昔は昔今は今。これだけやろうが無尽蔵にわく魔力のお陰で疲労どころか魔力切れを起こす様子なく指定されたポイントにつく。




 目の前には大きな扉があり、普段は開いていたことを覚えていた。恐らくは、扉の中にいた魔物を殺そうとした際に、トラップが発動。扉は閉じてしまい強制戦闘の流れになったのだろう。だがこんなあからさまな罠に引っ掛かる筈がない。誰かミスったのかな?



 いやどうでもいいか。




 この先に白ノ猟犬がいるのならこの扉を破壊するまで。私は持っているハンマーに魔力をまわした。

 魔力が血管のような模様を浮かばせながら満ちていきより赤く赤く動脈血のように鮮やかに発光する。


 自分の身体強化した肉体のように頑健になったハンマーを振り上げ、力を限界までため、ギチギチと言う弓の弦が弾けるように行き場のなくなった力を石扉向かい振り落とした。




 あり得ない力を受けた石扉はバキバキとひび割れ土埃を上げながら崩れ落ちた。







 その時の様子を見たとある一級冒険者はこう綴る







 悪魔が来た。と

 

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