はなさないでね

まれ

はなさないでね

「はなさないでね」

 星羅せいらは昨日、きららに言われたことが頭から離れなかった。

 夕焼けの差し込む教室で唐突にきららがそう言った。



 僕は彼女のことが好きだ。

 出会った瞬間、電気が身体中に走るように恋に落ちた。

 綺麗だと思った。

 深夜に月が照らしたその髪の美しさに。

 いわゆる、一目惚れというやつだ。

 だからこそ、僕は彼女を"離したくない”と思ってる。

 何がなんでも彼女が辛い思いをするようなことはさせたくない。

 僕の自己満足だとしても。

 それぐらい僕の心の内に重い想いがある。

 一度溢れてしまえば無くなるまで止まることは無いだろう。

 僕は彼女が好きだ。



 私には気になってる人がいる。名前は星羅くん。

 初めて会ったあの深夜からずっと。

 あの日以降、彼と関わることが増えた。

 嬉しい。そう思う。

 それと、同時に羨ましいと思う。

 彼の好きなものに対する愛情の深さに。

 私はあそこまで愛と熱を持って一途に振るう勇気がない。

 学校でも他の男子生徒としゃべっているだけで嫉妬してしまう。

 ”話さないで"って。

 私を見てって。

 でも、見られるのは恥ずかしくて。

 あれ?私、星羅くんのこと好きすぎじゃない?

 ヤバい!どうしよ。想いが止まらないよ!

 顔が熱い。

 きっと凄く赤くなってるんだろうな。

 それを感じて、更に赤くなってる。

 陽の連鎖だ。



 ある日、とある委員会で一緒になった。

 きららは委員会にもともと所属していたが、星羅は委員会に入っていない。

 ではなぜ、星羅がここに居るのか。

 それは、きららの所属する委員会の男子生徒が休みなんだそうだ。

 人数が足りないため、頭数を合わせるために近くで教室に残っていた星羅が担任に呼ばれ、ピンチヒッターを務めることになった。

 これは、両者とって千載一遇のチャンスである。

「よろしくね」

 きららに突然話しかけられ、星羅は動揺する。

 が、そんな場合ではないことを星羅もわかっていた。

「今日はよろしく。数合わせだけど」

 何とか話を繋げた星羅だったが、それ以上会話が続くことはなかった。

 二人が無言なまま、委員会は始まった。

 きららの所属する委員会は飼育委員である。

 飼育委員は朝、昼、放課後、土日をシフトを入れて運営している。

 かなりハードな委員会の一つだ。

 それだけ、生き物の世話というのは大変なことがわかる。

 今日の議題は普段とは違い、特殊なものだということがわかった。

 委員長が重く暗い表情のまま、口を開いた。

「えー、今日集まって貰ったのはひと月程前から起こっている、連続飼育動物誘拐事件についてです」

 内容は簡単、二週間に三回飼育小屋から動物が誘拐されているという事件だ。

 未だに犯人は見つかっていない。

 小屋の鍵が壊されているわけではなかったことから、飼育委員の犯行であることが高いのは必然である。

 なぜなら、小屋の鍵は飼育委員のみが扱うことができる。

 もちろん、この場にいる星羅以外全員が容疑者である。

「私も疑われてるよね」

 きららは星羅に耳打ちした。

 その返事として、星羅は小さく頷いた。

「犯行の日とその前後の日のシフトに当たっている委員の可能性が高いと警察の方々はみて捜査して下さっているが、依然として誘拐された動物の行方は欠片もわかっていない」

 そう、誘拐時羽根一つも痕跡が残っていなかったという。

 このまま犯人が見つからなければ完全犯罪となり、永久に犯人がわからない未解決事件として名を轟かせるだろう。

 だが、事態は思いもよらぬ方向へと向かった。

「事件前後に担当した生徒は一律罰を与えることにしようと思う」

 と、言ったのだ。

 そこには、きららの名前もあった。

 委員長はわからないから怪しいやつ全員連隊責任にしてやるという意図がバシバシ伝わる。

 星羅は許せなかった。

 だから、思わずそこで手を挙げてしまった。

「僕がやりました」

 星羅は言った。

「君は確か……」

 何の関係すらもないことを委員長もわかっていただろうが、今は手掛かりすらもない状況のため連れていくしかなかった。

 星羅は誰かを庇ったのだ。



 その後、きららは星羅と二人だけになった自身たちの教室で言った。

「星羅くん、どうして……」

 そう言いかけて

「ううん、はなさないでね」

 きららは星羅にオレンジ色に染まる二人きりの教室でそう言い放った。

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はなさないでね まれ @mare9887

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