次の町へ

 翌日。

 ベッドから起きて欠伸をする俺。


「ふぁぁ……ん~、買ったばかりの寝間着、着心地いいな」


 シルクみたいな肌触りで気持ちいい。リーンベルはどう思ったかな?

 着替えて一階に降りると、ムサシを撫でているエルサリーンベルがいた。


「よ、早いな」

「おはようございます。レクス」

「レクスくん、おはよう」

『きゅるる~』


 ムサシが俺の紋章へ飛び込むと、魔力が減った……朝食の時間だ。

 宿の食堂へ向かい朝食をオーダーすると、運ばれてきたのは朝粥だ。野菜や鶏肉を入れた、お腹に優しそうな粥料理……こういうのいいな、新鮮な気分。

 レンゲで粥を食べていると、リーンベルが言う。


「こういう朝食、はじめてかも」

「わたしもです。お米とかパンならわかるんですけど……おかゆ、でしたっけ」

「そういや、お粥って食べたことないんだな」

「はい。お米は炊いて食べる物だとしか……それに、貴族はあまり食べないので」

「私もほとんど食べたことないけど……でも、このおかゆ美味しいね」


 サラサラしたお粥は食べやすいし、あったかくておいしい。

 あっという間に完食し、食後のお茶を飲んでいた。


「で、今日はどうする? 観光するか?」


 俺がそう言うと、エルサが言う。


「昨日、いろいろ調べてみたんですけど……この『灰燐』はハルワタート王国とアールマティ王国を繋ぐ港町というだけで、際立って珍しい観光地ではないみたいです。でも、ここから先にある『天民てんみん』という町は、鳥の町として有名みたいですよ」


 出た、エルサのパンフレット!! 

 テーブルにいくつもパンフレットを並べる……かなりの数だ。

 するとリーンベルが。


「鳥の町……鳥料理が有名なの?」

「いえ。鳥の町『天民』は、特殊ジョブ『鳥使いバードラー』が集まる街みたいです。とにかく鳥が多い町で、けっこう有名みたいですよ」

「鳥使い……特殊ジョブ?」

「えっと。『竜滅士』がリューグベルン帝国だけにしかないジョブみたいな感じです。ちなみに、ハルワタート王国には『潜水士』で、クシャスラ王国には『吟遊詩人』っていう特殊ジョブがあるんですよ」

「し、知らなかった」


 特殊ジョブ……そんなのあったのか。

 後出し情報……まあ別にいいや。あんま関係なさそうだし。


「じゃあ、その鳥の町に行くか。あ……じゃあ今日は、この港町で旅支度をしていこう。その鳥の町までのルートはあるか?」

「はい。えっと……オスクール街道だと定期馬車で一日、徒歩だと三日。迂回ルートだと四日ほどかかりますね」


 エルサ、わかってるな。

 俺はリーンベルに聞く。


「な、リーンベル。オスクール街道は安心安全だけど、俺たちは迂回したりして景色を楽しんだり、野営とかもする。今回は……うん、最近ずっと高級宿でのんびりしてるし、野営しながら行きたいな。リーンベル、それでいいか?」

「もちろん。野営……私、修行時代はけっこうしたけど、最近はぜんぜん。たのしみ」

「エルサもいいか?」

「はい!! ハルワタート王国で買った食材とか使いたいですしね」

「よし。じゃあ今日はみんなで旅支度をして、明日は自由時間、明後日出発だ」


 宿を延長する必要はなくなった。

 こうして、俺たちは予定を立ててその日を過ごすのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日、三人で旅の準備をする。

 食材や保存食、薪、リーンベル用のテントや寝袋、野営道具……半日かけて準備を終えた。

 そして現在、港から少し離れたカフェ……茶屋だな、そこでお茶を飲んでいる。


「このお茶、不思議な味がしますね……」

『きゅるる~』

「なんか、黒い……?」


 いつもは紅茶だが、ここでは黒豆茶っぽいのが出てきた。

 文化違うなあ……でも、俺は紅茶よりこっちのが好みかも。

 お茶菓子も、クッキーなどではなく饅頭とか点心っぽいのだし。

 あんこ入り饅頭、黒豆茶にすごく合う。


「うまい。この饅頭、出発前にいっぱい買おうぜ」

「賛成。これおいしい……」


 リーンベルも饅頭をモグモグ食べている。

 すると、エルサが「こほん」と咳ばらいをした。


「あの、レクス、リーンベル……今夜の夕食ですけど」

「「?」」


 エルサは一枚のパンフレットを見せる。

 そこには「アールマティ王国名産の山菜鍋」と書かれていた。


「ハルワタート王国では海産がメインでしたけど、アールマティでは山菜が多く使われた鍋や、山の魔獣肉でしっかり味を出した肉鍋があるみたいです。その~……お鍋、食べませんか?」

「エルサ、ほんとに鍋好きだな……いや、俺も好きだけど」

「お鍋……うん、たべたい」

『きゅいい』

「じゃあお鍋にしましょう!! やったあ……ふふふ」


 エルサ、もしかしたら七国全ての名産鍋を制覇するかもしれん。

 その日の夜。

 エルサは激辛山菜鍋を大満足で完食。俺は肉鍋、リーンベルは山菜鍋を完食した。

 肉鍋うまかった……鳥メインでヘルシーだ。山菜鍋も山の幸がふんだんに使われ、いい匂いがしていた……激辛gはまあ、察してくれ。

 鍋屋で食後のお茶を楽しんでいると、俺たちの席の後ろから話が聞こえてくる。


「聞いたか、ついに出たってよ……」

「ああ。『四凶しきょう』だろ。話題になってたぞ」

「『天民』じゃ大騒ぎらしいぜ。もう災害レベルだ……『岩槍軍』も大変だ。冒険者たちも稼ぎ時といえばそうだろうけどよ」


 なんか聞こえてくるな。しきょうって何だろうか?

 ま、別にいいか。


「さて、腹いっぱいになったし帰るとするか」

「はい。明日は自由行動ですね、リーンベルは予定ありますか?」

「と、とくにないけど」

「じゃあ、わたしとお買い物しませんか?」

「い、いいよ。私なんかでよければ」

「ふふ、じゃあ決まりですね。あ、レクス……今回は女の子だけで行きますので、ごめんなさい」

「気にしなくていい。俺もムサシとのんびりする」


 こうして、港町での夜は過ぎていく。


 ◇◇◇◇◇◇


 そして翌日。

 午前中はムサシとのんびりし、午後は武器屋に行くことにした。

 港町の武器屋……銛とか売ってるのかなーと適当に考えていたが、売っているのは独特な武器だった。


「剣……青龍刀か? 薙刀、トンファーにヌンチャク、鉤爪とか鎖鎌……クセの強そうな武器が多いな」


 武器を眺めていると、新聞を読んでいた店主がジロっと俺を見る。


「……あんた、冷やかしかい。そうなら帰りな、ここは観光地じゃねぇよ」

「…………」

「……なんだ、その顔」


 俺は怒り……いや、ちょっと感動していた。

 これまでの武器屋は「やたらフレンドリー」で対応が少し鬱陶しかったが……この武器屋の店主は「ぶっきらぼうな髭面おじさん」だった。

 対応も異世界ラノベにありそうな頑固おやじの武器屋っぽいし……実はこういうの望んでいたんだよ。

 俺が笑顔なのに不信感を持ったのか、おじさんが言う。


「変なヤツだな。見たところ冒険者だろ? 四凶が出たってのに、お気楽なもんだ」

「しきょう?」

「……あんた。ああそうか、よそモンか。なら仕方ねぇな」

「そういや、昨日の鍋屋でもそんな話聞いたな。あの、その「しきょう」って何ですか?」

「……まあいい」


 おじさんは新聞を閉じる。


「『四凶』ってのは、この歴地の国アールマティに古くから存在する、討伐レートSS+の四体いる魔獣のことだ」

「と、討伐レートSS+って……そんなのがいるんですか?」


 魔獣の討伐レート。

 一般的なのはF~Bくらい。Aが出るとヤバイ、Sはかなりヤバイ、SSはマジでヤバイ。そしてSS+は騎士団とかが部隊を率いて戦うレベル。

 後で知ったことだが、サルワはSSで、タルウィはSS+だ。

 つまり、タルウィと同じ強さの魔獣が四体も、アールマティには存在する。


「や、ヤバイですね」

「ああ。今、冒険者ギルドと『岩槍軍』が手ぇ組んで討伐に動いてる。だが、なかなか上手くいかないようだ」

「あれ? アールマティには竜滅士……六滅竜『地』がいるはずじゃ」

「動かねぇんだよ」

「…‥え?」

「常駐の竜滅士を追い返し、六滅竜『地』がここに居座ってる。だが……国を守るでもない、怪しげな要塞みたいなのを建てて、引きこもってやがるんだ。噂じゃ、妙な魔獣を生け捕りにしたとか、討伐レートSの魔獣をとにかく捕獲してるとか……何度か使者を送ったらしいが、無視だとよ」


 どういうことだろうか?

 六滅竜『地』がいることは知ってるけど……常駐の竜滅士を追い出したってのは初めて聞いた。

 リーンベルは……まあ、嫌いって言ってたし知らないだろうな。


「あんた、鳥の町『天民』に行くつもりか?」

「ええ、そうです」

「気ぃつけな。あの町、四凶の一体『渾沌こんとん』の被害にあったばかりで、気ぃ立ってるらしいぜ」

「う……あ、ありがとうございます」


 四凶か……どういう魔獣なんだろうか。

 せっかくなので、武器屋でトンファーと三節混を買い、アイテムボックスに入れた。

 そして、宿に戻る道中、適当なベンチに座ってムサシを召喚した。


「な、ムサシ……アールマティでも厄介ごとになりそうな気がするよ」

『きゅるる~』


 ムサシは嬉しそうに鳴き、俺の周りを飛び回るのだった。

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