第三章 地歴の国アールマティ

歴史ありそうな風景

 水路船に乗ること一時間……ハルワタート王国とアールマティ王国の国境に到着した。

 国境の町。やはり海沿いなので港町だ。港町テーゼレを思いだす。

 船から降り、俺、エルサ、リーンベルの三人は船着き場へ立つ。


「港町か……何というか、雰囲気が違う気がする」

『きゅるる~』


 ムサシも俺の肩で首を傾げる。

 するとエルサ、またどこかで見つけたパンフレットを片手に言う。


「ここは港町『灰燐ハイリン』っていう、アールマティに属する港町みたいです」

「はいりん?」

「はい。地歴の国アールマティでは、町や人の名前も独特みたいですよ」


 港町灰燐か……どことなく、日本風というか、中華風っぽい。

 建物も木造やレンガではなく、円柱の家屋に反り返った屋根っぽい……ボキャブラリーがないから表現しにくいが、角ばった感じではなく丸っこい建物が多い。

 道行く人の服装も、漢服やアオザイみたいな、中国拳法とかやってそうな人が着る服が多いし……マルセイさんが「ハルワタート王国の気分で行くと驚く」って言った理由がわかった。

 地球人っぽく言おう。

 クシャスラ王国がオランダ、ハルワタート王国がハワイだとすると、アールマティ王国は中国だ。

 そう理解しウンウン頷いていると、リーンベルが日傘を開いて言う。


「とりあえず、宿を取って観光する?」

「そうだな。そういやリーンベル……この国に六滅竜『地』がいるって聞いたけど、知ってたか?」

「あのおばさん? あの人、嫌いだしどうでもいい……」


 お、おばさん……ヘレイア様って確か二十六歳じゃなかったっけ。

 リーンベルは言う。


「私、この国のことは何も知らないの。それに……レヴィアタンの力を使いすぎたから、大きな力は使えない。一人の冒険者として一緒にいれたらいいな、って思ってるから」

「ああ、わかってるよ。せっかく一緒なんだ、楽しもうぜ」

「うん、ありがと」


 リーンベルは日傘の下で微笑んだ。

 エルサも嬉しそうだし、ムサシもいつの間にかリーンベルの日傘の上にいる。


「よし、宿を探すか」

「でしたら……町の中央に『府勝亭』っていう人気のお宿があるみたいです」

「じゃあ、そこに行って、夜まで自由行動しよう。晩飯は夜の町で食べよう」

「うん。えへへ……なんだかわくわくするね」

『きゅい』


 こうして俺たちは、地歴の国アールマティに属する『灰燐』へ踏み込むのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 エルサの言った『府勝亭ふかつてい』……一言で言うなら『三重塔』だった。

 京都にある観光名所みたいな寺……としか思えない。

 こんな感覚になるのも、俺が日本人の魂を持つからだろうか。


「珍しい形ですね~」

「歴史を感じる……のかな? 珍しいとしか思わないかも」


 女子二人は感心していた。

 さっそく中に入ると、漢服を着た受付の男性が頭を下げる。


「いらっしゃいませ。本日はお泊まりでしょうか?」

「はい、えーっと……とりあえず三日で三部屋」

「かしこまりました。それではお支払いをお願い致します」


 それぞれ冒険者カードで支払いをする。支払いすれば、そのまま部屋のカギになるしな。

 とりあえず三日で支払ったが、それ以上滞在したければその都度延長すればいい。

 部屋は二階、中央が吹き抜けになっており、中央を囲うように部屋がある。

 さっそく部屋に入ると……。


「……おお~」


 うん、中華風だ。

 なんか全体的に赤い。ベッドも机も椅子も赤い装飾が施され、部屋の明かりはランプではなく提灯みたいなのが吊るしてあった。

 文化の違い……これが地歴の国アールマティなんだな。

 とりあえずソファに座り、窓を開ける。


「いや~……ハルワタートとは全然違う」

『きゅるる~』

「あ、そういえば……ムサシ、新しい属性は手に入れたか?」

『きゅい?』

 

 右手の紋章を見るが、特に何か変わったところはない。


「うーん。まだ国境だし、ちゃんと入国してしばらくしないとダメなのか? この辺の条件も知りたいな」

『きゅう』

「ムサシ、新しい属性はたぶん『地』だぞ。『水属性アニマ』、『風属性シューマッハ』ときたら『地属性ワースティータス』かな」

『きゅ~』


 ムサシはどうでもよさそうに欠伸をし、俺の紋章に飛び込んだ……ああ、昼寝するのね。

 さて、自由行動だ。


「何すっかな……エルサ、リーンベルは……いや、自由行動だしな」


 と、窓から町を眺めていると、ドアがノックされた。


「はいはーい。と……リーンベル?」

「レクスくん。ちょっといい?」

「ああ。まあ入れよ」


 リーンベルを部屋に案内する。


「何か用事か?」

「ううん。自由行動って何をすればいいのかな……って」

「え……」

「エルサは『パンフレット集めします』って出て行ったの。私は……こういう時、普通の人ならどうするのかよくわからなくて」

「そっか。お前は『六滅竜』として忙しい……ってか、六滅竜ってどういう仕事あるんだ?」


 ふと思った。リーンベルは『水』の六滅竜……部下とかいるのかな。


「私の場合、水属性の竜滅士たちの訓練を見たりしてたけど……あんまり指示とかするの苦手だったから、一人の竜滅士を滅茶苦茶鍛えて、指導とか全部お任せしてる」

「そ、そうなのか?」

「うん。だから、私は基本的に、王都にある自分の家で本を読んだりしてた。王家から依頼とか来れば、レヴィアタンとお仕事してたけど」


 ちなみに、買い物とかは家政婦を雇って任せていたらしい。

 それ以外はずっと家……なんというか、引きこもりって言えばいいのか。

 でも、外に出たがらないわけじゃないし……うーむ。


「それで……自由行動って、どうすれば」

「じゃ、じゃあ、俺と出かけるか? 土産屋とか見たり、武器防具屋覗いたり、パン屋で焼きたてパン買ったりして過ごせばいいと思うぞ。それに、今日の夜に食う店とかも下見できる」

「おお、楽しそうだね」

「よし。じゃ、行くか」

「うん!!」


 というわけで、リーンベルとお出かけすることにした。

 それと今更だが……エルサ、自由行動のタイミングでパンフレット集めしてたんだな。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 さて、リーンベルと港町を歩く。


「不思議な服……」

「なんていうのかな。漢服? アオザイ? お、チャイナドレスみたいなのもある」

「レクスくん、詳しいね…‥」


 詳しいというか、前世の知識を当ててるだけ。

 正式名称は不明……お?


「リーンベル。服屋ある、行ってみるか?」

「わあ、面白そう」


 ということで、服屋へ。

 思った通り、中華系の服がいっぱい並んでいた。漢服っぽいのがメインで、道着みたいのもあればカンフーマスターみたいのが着る服もある。

 いろいろ眺めていると、アオザイみたいの着た女性店員が近づいてきた。


「いらっしゃいませ。どのような服をお探しで?」

「あ、えっと……アールマティ王国の服って珍しいのでつい見ちゃって」

「ああ、『歴服』のことですね。男性用、女性用共に珍しいですよね。観光客の方もよく買われますよ」


 リーンベルは人見知りなのか、俺の後ろに隠れてしまう。

 六滅竜としての性格だとキツい感じになるし……まあいいけど。


「そうだなー……寝間着とかありますか? 着心地いいやつ」

「ございますよ。男性、女性用とあるのでご覧になりますか?」

「はい。実は寝間着、破れちゃったんだよな……リーンベルはどうする? 俺が奢ってやるけど」

「い、いいの?」

「ああ。寝間着だけど」


 寝間着を奢るなんて、どんな異世界ラノベを読んでもないイベントだよな。

 店員が持って来たのは、赤と青、男女用のお揃い寝間着だった。

 見た目は漢服っぽい。これが『歴服』っていうアールマティの歴史が生んだ服なんだな。


「サイズは合うな。じゃあ俺、これ買おう。リーンベルはどうする? 俺とお揃いが嫌なら……」

「い、いる!! 欲しい!!」

「お、おお……じゃあ、これください」

「ありがとうございます!!」


 冒険者カードで支払いを済ませ、服の包みをリーンベルに渡す。


「あ、ありがと……レクスくん」

「ああ。さっそく今日から使うか」

「う、うん」

「さて……少し喉乾いたな。適当にカフェでも入るか?」

「行く。えへへ……なんかすごく楽しいかも」


 リーンベルは嬉しそうに笑い……そして、俺は今気づいた。

 まるでこれ……デートみたいだと。

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