幼馴染、妹と再会

 さて、タルウィ・シャークを討伐して二日が経過。

 水麗騎士団、青麗騎士団の活躍で奇跡的に死傷者はゼロ。歓楽領地ササンのビーチもあっという間にいつもの賑わいを取り戻し、観光地らしさを取り戻していた。

 驚いたのは……タルウィ一連の騒ぎが『ササンのイベント』と思う観光客もいたことだ。まあ、恐怖してトラウマになるよりは全然いい。


 タルウィ・シャークは完全に消滅。

 同時に、本体のタルウィが死んだせいなのか、眷属であるアパオシャとティシュトリヤも消滅したらしい。リーンベルの予想では、これまで何度も倒して復活するのは、全て海の中で倒されたり封印したせいかもしれないとのこと。なので、空中でブレスにより消滅したことで、復活しないかも……とのことだ。

 まあ、百年後にならないとわからないし、今後のことは後世に任せよう。


 さて、風車の国クシャスラに続き、麗水の国ハルワタートでも大活躍してしまった俺たちだが……タルウィ・シャークを討伐後すぐに逃げ出した。

 リーンベル、アミュア、シャルネの三人が残って騎士たちに事情を説明するとのことだった。逃げる時にアミュアが『話あるから消えたら許さない』というので、とりあえずササンの宿屋で休むことに。


 二日ほど休み、俺は魔力が全快したが……エルサはまだだった。

 普通に動いたりはできるが、戦闘したりは厳しいとのこと。

 魔力は自然回復するのに時間が必要だが、栄養を取ったりすることである程度は回復速度を早めることができるらしく、もう数日はササンでのんびりする必要がありそうだ。


 そして、タルウィ・シャークを倒して五日後……リーンベル、アミュア、シャルネが俺たちの宿にやってきた。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、俺の部屋に集まったエルサ、アミュア、シャルネ、リーンベル……お、女の子ばっかり。

 一応、シャルネは妹だが……転生者である俺にとっては妹でもあり異性でもある。正直、アウェーな気がしてならないんだよね。

 すると、リーンベルが言う。


「レクスくん、エルサの二人は今回の件に関わっていないことにしたから。安心していいよ」

「そりゃ大助かりだ。ありがとな」

「ありがとうございます、リーンベル」


 俺、エルサがペコっと頭を下げる。


『きゅるる~』

「あはは、くすぐったい」


 ムサシもリーンベルに甘えていた。

 とりあえず今回の件は、リーンベルがタルウィを討伐し、アミュアとシャルネの協力を得て第二形態も討伐することができた……ってことにしたらしい。

 すると、シャルネが言う。


「いやーリーンベルには助かったよ。あたしとアミュアがクシャスラ王国を出てハルワタート王国に来た理由になってくれたしね」

「う、うん」


 よくわからんが……シャルネ、アミュアはクシャスラ王国でサルワの確認に同行したんだが、『ドラグネイズ公爵家の用事』とやらを理由にして、本来ならリューグベルン帝国に帰還するはずなのにハルワタート王国に来たらしい。そしてその理由を『リーンベルの手伝い』ってことにしたそうだ。

 リーンベルは言う。


「いちおう、私の直筆の依頼書も渡すから、ドラグネイズ公爵に見せるといいよ」

「ありがと~!! ん~、やっぱ幼馴染っていいね!!」


 シャルネがリーンベルの腕を取って甘えると、リーンベルが恥ずかしそうに照れた。

 さて……ここでようやく本題である。


「レクス……」

「アミュア……その」

「なんで家を出たの? ううん、家を出るのはいい。なんで……私とシャルネに何も言わなかったの?」

「…………」


 アミュアは怒っていた。

 そりゃそうだ……挨拶もなしに家を出たんだしな。

 

「兄さんには、会うなって言われたよ」

「……フリードリヒ様が?」

「うん。お前たちが悲しむからってな。それに……お前たちはきっと、俺が追放される……いや、俺が家を出るって言えば反対したし、父上に抗議しただろ?」

「……あはは。実はあたし、もうしたんだよね」


 やっぱりな。

 こんな言い方、していいのかわからないが……言おう。


「俺さ、父上にムサシのことで文句言われた時、チャンスだって思った。アミュアにシャルネ、それにリーンベル……こんな言い方、お前たちを侮辱するような言い方だけど……俺さ、竜滅士に興味なんてないし、なりたいとも思ったことないんだ」

「「「…………」」」


 三人は驚いていた。

 そりゃそうだ……竜滅士なんて、なろうと思ってなれるジョブじゃない。


「俺は、自分で父上に追放を提案した。そうすれば、この広い世界を、自分の足で歩いて旅ができると思ったからな。最低だよな……俺は結局、自分の都合しか考えていない」

「……」

「俺は旅がしたかった。だから、お前たちに家を出ることを告げて、父上に抗議とかされるのが嫌だった。だから何も言わずに家を出た……嫌ってもいい、二度と顔を合わせたくないならそれでもいい。これが俺の偽りのない本心だ。お前たちと別れることより、俺は旅をすることを優先したんだ」


 クソみたいな理由だ。

 本当に、異世界転生の主人公にはあり得ない。

 テンプレなら、ハーレム要員として幼馴染を連れて行ったりするんだろう。ドラグネイズ公爵家が「ざまあ」されて没落するんだろう。でも、現実は違う。

 むしろ、「ざまあ」されるのは俺だ。俺はつくづく、主人公には思えないクソ思考してる。


「そっか」

「……済まなかった、アミュア。それにシャルネ。俺は……これからも旅を続ける。ドラグネイズ公爵家と縁が切れたことは正直嬉しい……もちろん、育ててもらった恩は忘れていないし、母上や兄さんのことは今でも愛している。父上は……出来損ないで自分勝手な俺のことを憎んではいると思うけど」

「馬鹿!!」

「ぶほっ!?」


 い、いきなりアミュアに拳骨を喰らった。


「い、いっだぁぁ……って、え」

「……っ」


 そして、アミュアが俺に抱き着いてきた。


「あ、アミュア……?」

「嫌うわけないじゃん!! あんた、あんたってやつは……」

「お、おい……」


 思い切り抱き着く……いや、しがみつくってレベルだ。

 身体も完全に密着……アミュア、身体付きがかなり女っぽくなったというか。

 エルサは何も言わず、リーンベルも顔を背け、シャルネは俺を咎めるような目で見ている。


「いきなりいなくなって……さみしかった」

「……アミュア」

「馬鹿、ばか……あんた、本当に馬鹿」

「……ごめん」


 俺はそっとアミュアを抱きしめ、背中をポンポンしたり頭を撫でた。

 アミュアは身体を震わせ泣いていた。その泣き声を聞くたび、俺の胸がチクチク痛む。

 ああ、俺ってはホント……最低なことやったんだなあ。


 ◇◇◇◇◇◇


 アミュアが離れると、今度はシャルネだった。


「お兄ちゃんの馬鹿」

「う……返す言葉もない」

「でも、許す。アミュアの涙で、だいぶ苦しんだみたいだしね」

「……悪かった。ほれ、お前も来るか?」


 俺は冗談で両手を広げたが……シャルネはおもいきり抱きついてきた。

 こ、こいつも成長したな。周りにこれだけ女の子いれば、一人くらいは貧乳キャラいてもいいんだが、思った以上にこいつもデカいし柔らかい。

 

「あのさ、父上はお兄ちゃんのこと、ドラグネイズ公爵領地の領主にするつもりだったんだよ」

「……え?」

「お兄様も父上も、竜滅士として帝国から離れられないし、領地経営とか代行に任せっぱなしだから。だから、お兄ちゃんを領主にして、領地に派遣するって名目でアミュアを送るつもりだったの。で、そのまま二人は結婚……って話になってたの。アミュア、お兄ちゃんと結婚できるって聞いて大喜びしてたんだから」

「…………」

「アミュア、今はいろんな貴族からお見合いとかの話来てるけど、全部蹴ってるんだからね。今もお兄ちゃんのこと思ってる……どういうつもりかしらないけど、ちゃんと責任取らないと、アミュアが可哀想だよ」

「…………」

「エルサって子とどういう関係か知らないし、リーンベルのこともあるけど……まずはアミュアに向かい合ってよね」


 そこまでボソボソ言うと、シャルネは俺に抱きつくフリをして、懐に何かを忍ばせた。

 そしてゆっくり離れて笑顔で言う。


「お兄ちゃんの匂い、なんか久しぶり」

「お、おう」


 こうして、俺たちは和解……というか、再会した。

 そして、今後のことについて話す。


「俺、エルサはしばらく魔力を回復させて、その後に『地歴の国アールマティ』に行くよ」

「その……私もちょっとだけ同行する」

「……私とシャルネはリューグベルン帝国に帰るね。リーンベルのお手伝いっていうお仕事も終わったし」


 次の目的地は、歓楽領地ササンから水路船で向かう大地、『地歴の国アールマティ』だ。

 アミュア、シャルネとはここでお別れ……少し、寂しかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 その日の夜。

 夕食をみんなで食べ、それぞれの宿に戻った。

 そして、俺は部屋を出る。


「レクス」

「……あ」


 部屋を出ると、エルサが待っていた。

 まるで待ち構えていたような。


「……行くんですか?」

「……うん。すぐ戻ってくる」

「はい。待ってます」


 エルサは笑って見送ってくれた。

 やれやれ……シャルネの気遣いは無駄になった。

 宿を出て、シャルネのメモを頼りに来たのは、歓楽領地ササンにある宿屋。

 宿屋の前にはシャルネがいた。


「あたし、リーンベルの宿に行くから。じゃあね、お兄ちゃん」

「……お前なあ」

「んべっ、あたしはアミュアの味方だもん」


 舌を見せ、シャルネは街へ消える。

 宿に入り、シャルネの部屋のドアをノックすると、アミュアが出迎えてくれた。


「あ、レクス……」

「よ。ちょっといいか?」

「……どうぞ」


 部屋に入り、椅子に座る。

 アミュアも向かい合わせで座った。


「明日、帰るんだってな」

「うん。もう用事済んだし……あんたは、旅を続けるみたいだしね」

「悪い。俺……やっぱり帰れない。それで、ムサシのことだけど」

「うん。余計なこと言わない。私とシャルネが見たのは、可愛い手乗りドラゴンだから」

「……ああ」

「…………」


 しばし、沈黙。

 でも……俺は言わなきゃいけない。


「アミュア、俺」

「レクス……いつか帰ってきてとかは言わない。でも、私は……待ってるから」

「……アミュア」

「私のこと、幼馴染以上に感じたこと、あった?」

「あるよ。あるに決まってる」

「そっか。じゃあ……脈がない、ってわけじゃないんだね」

「………うん」


 俺は聖人じゃない。目的を持って転生したわけでもない。

 くたびれたおっさんが若返ってイケメン化して日本の知識ひけらかして無自覚無双のスローライフをするわけでもないし、アホみたいなチートで周りをドン引きさせる無双をするわけでもない。

 ただ、人生を満喫したい。いろんなものを見たい。

 その道中で、求められたら助けるし、困ったら助けて欲しいこともある。

 普通の人間なんだ。たとえチートがあろうとなかろうと、俺は俺。


「エルサのこと、守ってあげてね」

「俺も守ってもらうよ」

「そっか……」

「…………」


 なんとなく、そんな雰囲気になり……この日、俺は大人になるのだった。

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