熱を司る悪獣タルウィ③

 最初に俺がやったのは、ボートの船首にロープを結びつける作業だった。

 アイテムボックスから出したロープを船首に結び、ロープを海に投げる。

 そして、ムサシに言う。


「ムサシ、水属性アニマで陸走形態!! ロープを咥えてタルウィから逃げろ!!」

『きゅい!!』


 ムサシは手乗りサイズのまま海に飛び込むと、シャチのような陸走形態へ変化。

 俺が投げたロープを咥え泳ぎ始めた。

 ボートはモーターボートのような速度で走り出す。


「エルサ、リーンベル、身を低くして船に掴まってろ!!」

「う、うん」

「は、はい」


 二人は言われた通りにする。

 俺は銃を抜き背後を見る……そこにいたのはやはり、第二形態の『サメ』になったタルウィだ。

 ピンクのゼラチンみたいな全長五メートルほどのサメ。かなりサイズは小さくなったが、そのぶん凶暴性が増したのか、俺たちのボートを追ってくる。

 さて、ここで今の俺の精神状態だが。


「…………うぉぉ」


 滅茶苦茶怖かった。

 いやそうだろ!! サメだぞ!? サメに追われるなんてありえないし、どういう精神状態で挑めばいいのよ。

 タルウィ……まさか、B級映画みたいに竜巻の中で襲ってきたり陸上に適応して砂地を移動したりしないだろうな。最悪チェーンソーが必要になるぞ。

 すると、タルウィ・シャーク(適当に命名)が蛇行しながら迫ってくる。

 そして……思い切りジャンプし、デカい口を開けてボートに食らいつこうとした。


「うおおおおおおおお!?」


 俺は銃を連射……くっそ怖い!!

 弾丸はタルウィ・シャークに命中。ゼラチン質の皮膚に食い込む。

 そして、タルウィ・シャークは弾丸を嫌がったのか態勢を崩し海へ落下。


『ギュルロロロロロロロ……!!』


 さ、サメってあんな声で鳴くのか……怖すぎるだろ。

 

「うおぁっ!?」


 すると、揺れるボートの上でバランスを崩しそうになった。

 命綱もない状態で立ってるんだ。

 タルウィ・シャークの周囲は沸騰しているし、落ちたらガブガブ食われて悲惨なことになる。というか確実に死んじまう!!

 

「……弱点。何か弱点でもあれば」


 俺がそう呟くと、リーンベルが青い顔のまま言った。


「レクスくん。レヴィアタンのブレスを受けた部分は消滅したよね……? たぶん、水中じゃなくて、上空に打ち上げてドラゴンブレスを当てれば、消滅させることができるかも」

「上空に打ち上げて、ドラゴンブレス……」


 できるのか。やるとしたら、ムサシしかいない。


『ぎゅるる!!』

「……ムサシ、行けるのか?」

『ぎゅおお!!』


 すると、ムサシは咥えていたロープを離し、海中へ消えた。

 今ならわかる。ムサシは……戦いに行った。


『シャガァァァァァ!!』

『がるるるる!!』


 海面が揺れる。そして、互いに噛み合うムサシ、タルウィ・シャークが海から飛び出してきた。

 サメとシャチ。大きさではムサシが僅かに劣る。

 でも、ムサシは一人じゃない。俺がいる!!


「喰らえ!!」


 狙いを定め、援護射撃。

 タルウィ・シャークの側面に弾丸が命中、ムサシから口を放す。

 そして、ムサシはその隙に人型形態へ変わると、タルウィ・シャークを思い切りぶん殴った。

 タルウィ・シャークは海面を何度も跳ねると、気を失ったのかプカプカ浮かぶ。


『がるる!!』

「ああ、今がチャンス──……」


 と言った瞬間、なんとアパオシャとティシュトリヤが海中から飛び出してきた。

 ギョッとする俺。あっという間にボートが囲まれるが……ムサシが『陸走形態』に変化し海水に潜ると、ロープを咥えて一気に加速した。

 そして、タルウィ・シャークも気絶から復活し、再び追いかけてくる……今度はアパオシャ、ティシュトリヤのおまけつきだ。


「くっそ!! せっかくチャンスだったのに!!」


 アパオシャはクラゲのように泳ぎ、ティシュトリヤはなんと海面を走っている。

 その中央に、タルウィ・シャークがいる。なんだこいつマジでラスボスみたいじゃねぇか!!


「眷属……でも、前に戦った時より小さい」


 リーンベルが言う。

 確かに小さい。全長二メートルもないし、急造品って感じがした。

 でも脅威には違いない。


「このままじゃ陸に……ん、待てよ?」


 いつの間にか、歓楽領地ササンの方まで近づいていた。


「……あ、そっか」


 ◇◇◇◇◇◇

 

 ビーチでは、戦いを終えたアミュア、シャルネの二人が合流した。

 アグニベルト、フェンリスも健在。魔力の消費も最低限度で済み、魔獣も全滅させた。

 沖を見ると、リーンベルの砲撃で『死んだ』と思われるタルウィ。


「終わったんだね……」

「ええ。そうね……はあ、レクスを探しに来て戦いになるなんて」

「あはは、でもさ、すぐに会えると……ん?」


 と、シャルネが気付いた。

 沖からすごい勢いでボートが走ってくる。

 そして、そこに乗っているのは。


「……お、お兄ちゃん?」

「え、待って。なんか追われてない?」


 アミュアも気付いた。

 ボートは『シャチのような何か』に引っ張られ、その後ろにピンクのゼラチン質……タルウィ・シャークが追いかけている。

 そして、レクスが叫んだ。


「シャルネ、アミュア!! 手ぇ貸してくれええええええええええええ!!」

「「えええええええええええ!?」」


 二人はもう、驚くしかなかった。

 だが、二人は動く。

 シャルネが海に向かって走り出すと、海面が凍り『道』ができる。

 アミュアが氷の道を走る。紋章にアグニベルトを収納し、シャルネの後に続く。

 そして、レクスのボートに近づくなり叫んだ。


「お兄ちゃん、後でお話あるから!!」

「全く、あんた何やってんのよ!!」

「悪い!! アミュア、あのピンクのサメ、真上に吹っ飛ばしてくれ!!」


 幼馴染ゆえの以心伝心。

 レクスが何をするかは知らない。だがアミュアは頷いた。

 シャルネが口笛を吹くとフェンリスが急停止、その場で遠吠えをすると……氷の道に階段ができた。

 アミュアがその階段を上って跳躍する。


「アグニベルト、『岩球』!!」

『グロロロロロッ!!』


 アグニベルトが身体を丸め、まるで真っ赤に燃える『岩球』となる。

 アミュアは空中で、その岩球を思い切り蹴り飛ばした。


「竜闘技、『メテオストライク』!!」


 竜闘技。それは、ドラグネイズ竜格闘術を習った者がドラゴンとの連携を前提とした技。

 ドラゴンとの連携技は全て『竜闘技』となる。

 竜闘技は、自分だけのオリジナル。アミュアが最初に編み出した、アグニベルトとの合体技。

 隕石のように燃えながらアグニベルトは海中に落下。

 タルウィ・シャークを狙ったのではない、その手前を狙って落としたことで、海面に爆発的な『波』を発生させ、タルウィ・シャークを空中に吹き飛ばした。


「レクス!!」

「ああ、さすがアミュア!!」


 レクスはムサシに向かって叫ぶ。


「ムサシ、『人型形態』!! SET!!」

『シャガァァ!!』


 レクスは右手の人差し指と中指を合わせ、空中に浮かぶタルウィ・シャークに照準をセットする。

 ムサシはロープを外して飛び上がる。

 そして、レクスの魔力を大量に吸い──……口を開く。


「デカいの、ブチかませ──……」


 その時だった。


 ◇◇◇◇◇◇


「……えっ」

『──』


 ◇◇◇◇◇◇


 レクスの脳内に、何かが見えた。

 自分の後ろにいるはずのムサシ。風属性の人型形態のはずなのだが……あまりにも巨大な、七枚の翼を持つ巨大なドラゴンの姿に見えた気がした。


『ゴァァァァァァァァ!!』


 放たれたのは、ドラゴンブレス。

 だが、それは『風属性』ではない。

 真っ白な、キラキラ輝くような『光線』が放たれ、タルウィ・シャークを包み込み……完全に消滅させた。

 

「…………うそ」

「…………うおお」


 唖然とするアミュア、レクス。


『きゅるる~』


 仕事は終えたとばかりに『手乗りドラゴン』に戻ったムサシは、レクスの肩で甘えだした。

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