水の街

 更衣室で水着に着替え、水中都市アルメニアの入口に集合。

 エルサとリーンベル……二人並ぶとすごいな。二人とも出てるとこ出てるし、色は白いし、スタイルいいからもう……うん、すごい。


『きゅうう』

「お、やっと起きたか。これから水の町に行くぞ」

『きゅるる』


 ムサシが起きた。

 紋章から出してやると、大欠伸をして俺の肩へ。

 恥ずかしそうにしている二人に、なるべく平静を装って言う。


「じゃ、町に行くか」

「う、うん」

「は、はい」

『きゅうう~』


 水中都市アルメニアの入口はいくつかある。

 まずはそのまま海を泳いでいく方法。これは浜辺から直接泳いで行けばいいので簡単だ。

 二つめは専用の入口で一気に町まで行く方法。

 細いパイプに入口があり、そこに伸びている棒を掴むと、ゆっくりと下降……泳ぐことなく水中にある町まで行けるルートだ。これは金がかかる。

 三つめは、非公式の『運び屋』の水棲亜人に送ってもらう方法。

 泳ぎが得意な水棲亜人が浜辺で声をかけ、自分に掴まらせて一気に下まで泳ぎ運賃を得る。これはパイプを通るよりも安いが、法外な値段を請求されることもある。

 さて、俺たちはどうするか?


「パイプルートもあるけど、少し混んでるわね……」

「じゃあ、海から泳いで行きますか?」

「けっこう大変よ? あれは普通、体力自慢が使うルートね」

「じゃあ、並んでいくしか……」


 さて、俺はムサシを撫でる。

 そして、エルサとリーンベルに言う。


「二人とも、ムサシに掴まって下まで行くのはどうだ?」

「え? その子に?」

「あ、そっか」


 エルサは察したようだ。

 ムサシを見ると、自信満々そうに胸を張る。


「ムサシ、『水属性アニマ』」

『きゅいーっ』


 ムサシは水色に輝くと、水属性の『人型形態』へと変わった。

 そして、海に飛び込む……少し目立ったが、獣魔連れもそこそこいたので、特に怪しまれることはない。

 俺も海に入り、ムサシの背中に乗る。


「二人とも来いよ。ムサシならすぐに下まで泳げるぞ」

『ぐるる』

「……話には聞いていたけど、姿と属性を変えるドラゴンなんて初めてかも」

「さ、リーンベルさん、行きましょう。っと、その前に……皆さんに水中呼吸の魔法をかけますね」

「おお、ありがとう」

「あ、ありがと……」


 二人も海に入り……って、ちょっと待て。

 ムサシの全長は三メートルくらい。背中に乗るしかないが……ど、どうやって乗るんだ?

 現実的には縦一列だけど……も、もしかして。


「……エルサ、どうする?」

「こ、今回はリーンベルさんに譲ります。次回はわたしが」

「う、うん……あ、ありがと」


 すると、リーンベルが俺の後ろ、エルサがリーンベルの後ろに跨る。

 そして……控えめに、リーンベルが俺の腰に手を回した。

 見なくてもわかる。リーンベルの頬は真っ赤になっているだろう。


「じゃ、じゃあムサシ……よろしく」

『ぐおう!!』


 ムサシは深く潜ると、翼にくっついていたジェットエンジンに魔力を注ぎ、一気に噴射。

 

「きゃっ!?」

「うっ」


 リーンベルが背中にしがみつくと、やわっこいモノが……考えるな、前を見ろ。

 それから数分で、海底が一気に輝いた。


「──……うわぁ」


 水中都市アルメニア。

 それは、『あまりにも巨大な珊瑚礁』に作られた大きな町だった。

 薄桃色、そして水色に輝く『大珊瑚礁』だ。一つの街サイズといえばいいのか、全長何十キロあるのかわからない。わかるのは、サンゴ礁が輝いて海底を照らしており、明かりとなっている。

 多くの船や水棲亜人が出入りし、泳ぐ人たちも多い。

 サンゴ礁の枝にはいろんな建物がくっついており、ここが『町』なのだと理解した。


「す、すっげぇ……これが『水中都市アルメニア』」

「この『大珊瑚礁』の出自は不明。ず~っと大昔からあったみたい……すごいよね」

「き、綺麗です……」


 町に近づき、ムサシから降りた。

 ムサシは手乗りサイズに戻ると、大欠伸をして紋章へ。

 それから、三人で泳ぎながら町の入口へ向かった。


「あれが入口か……お、水棲亜人の守衛いる。あれも騎士団かな」


 町の入口にはデカい岩のゲートがあり、そこを水棲亜人が守っている。

 近づくなり、リーンベルが言った。


「支部長のところへ」

「「はっ!!」」


 おお、今度は一瞬で伝わった。

 恐らく、地上で「やらかし」をしてから、リーンベルがアルメニアに行くとすぐに伝えたんだろう。

 特に苦労することなく支部へ。

 そしてリーンベルが気付いた。


「あ、お昼……ごめん、ついそのまま仕事モードで言っちゃった」

「気にすんな。話終わってからでもいいよ」

「はい。まずはお仕事優先です!!」

「……ありがと」


 リーンベルが笑ってくれた。

 さて、支部内だが……まあわかってはいたが、建物内は海水で満たされており、普通に泳いで進んだ。

 水圧の関係なのか、部屋と部屋の間にドアはない。プライベートもなにもないな。

 そして、支部長の部屋に到着……ドアがないのでノックできないせいか、そのまま入れた。


「ようこそいらっしゃいました、リーンベル様」

「じゃ、情報お願い」

「はっ!! ティシュトリヤの情報ですが……やはり、海を渡った可能性が非常に高いです。水麗騎士たちが数名、水棲領地メルティジェミニに向かう大型の魔獣を発見しました」

「やっぱり……」

「あまりの巨体故、手を出せず……向かった方向のみ確認した所存です」

「気にしなくていい。じゃ、メルティジェミニに行ったのは確実なのね?」

「はい、間違いなく」

「わかったわ。じゃあ、明日にでも向かう。今日は疲れたから町に泊まるわ。宿を用意してくれる?」

「かしこまりました!! おい、案内を!!」

「はっ!!」


 すでに宿もキープしてたんだな、すごい助かる。

 俺はリーンベルにぽそっと耳打ち。


「おいリーンベル、少しは褒めてやれよ」

「え?」

「いいから、な?」

「……まあいいけど」


 リーンベルは支部長に言う。


「いい仕事ね。感謝するわ」

「あ……あ、ありがとうございます!!」

「じゃ、案内して」


 支部長は目を潤ませ、静かに震えていた……うんうん、感謝の言葉って大事だよな。


 ◇◇◇◇◇


 水中都市アルメニアの最高級宿屋。

 ここは『水中』と『陸上』の二つの部屋があり、俺たちは『陸上』を選んだ。

 町の中央にある珊瑚に囲まれた『塔』のような建物で、中に入ると空気があり、しっかりと床を歩くことができた……なんか安心する。

 仕組みは不明だが、水の膜みたいなのに包まれた宿屋で、入口は外から見えているのに、膜の内側に入ると空気も陸地もある不思議な宿屋だった。

 今回は水麗騎士団が料金持ち……すみませんね。

 それぞれ個室を与えられ、部屋はかなり広かった。


「海底ってこと忘れそうになるな」

『きゅるる』


 ちなみに宿屋は水着着用。ま、すぐ外に出るし問題ない。

 すると、リーンベルとエルサが俺の部屋へ。


「いい部屋だった。騎士には感謝しなきゃ……」

「そうですね。まさか、しっかり地面を踏んで歩ける宿だなんて思いませんでした」

「ああ。水中も悪くないけど、泊まるとなると落ち着かんかも……」


 普通に呼吸できるけど、水の中で寝るとかいきなりは無理。

 さて、そろそろ腹も減って来た。


「じゃあ、お店行こっか。あのー……水中だと火が使えないから、基本的に魚食になるけど、二人とも大丈夫?」

「俺は全然問題なし」

「わ、わたし……お刺身はちょっと苦手かもです」

「わかった。じゃあ、適当に見て回ろっか」


 こうして、三人で水中都市アルメニアの飲食店を見ることにした。


 ◇◇◇◇◇


 水中の飲食店……こんな単語の組み合わせ、異世界以外じゃ使わないだろうな。

 俺たちは三人並んで泳ぎながら、水中都市アルメニアの『飲食店街』を進む。


「不思議な光景ですね……泳いでいるのに、上下左右にいろんなお店があるなんて」


 エルサの言う通り、地面を歩けば左右にしか建物はないが、泳げば上下左右にある。

 下を見れば海底に続く岩場に居酒屋街があり、上を見れば高級そうなレストラン、左右を見れば大衆食堂が営業している。

 

「リーンベル。ああいう飲食店ってやっぱり水中なんだよな」

「うん。基本的にはお店の中は海水で満たされてるよ。さっきの宿屋みたいに『水膜』で包まれているところはかなり少ないと思う。あの魔法、一級魔法師じゃないと使えないし」

「じゃあ、エルサは使えるのか?」

「『水膜アクアコート』なら使えますけど、さっきの宿屋みたいに建物一つを囲むのだと、半日くらいで魔力が枯渇しちゃいますね……」

「基本的に、魔法を発動して、あとは《魔石》で魔力を維持してる感じだと思う……」


 魔石は、魔力の結晶だ。

 魔獣の体内とかで発見されるらしいけど……まあいいや。

 なので、基本的には海中で食う。


「まあ、海中での食事も経験してみたいな。エルサ、リーンベル……あの普通っぽい食堂にしないか?」


 俺が指さしたのは、珊瑚の枝に固定されている一般的な食堂。

 《貝料理おすすめ!!》と看板があったので惹かれた。俺、前世で入院中は貝料理とかよく食べてたんだよね……異世界の貝、食いたい。

 二人も了承してくたのでお店へ。


「いらっしゃいませー!! 三名様ご案内っ!!」

 

 席に案内された。

 椅子とかはなく、水中に固定されたテーブルに掴まるようだ。

 掴まるためのバーも設置されているし、海中ならではのスタイルだな。


 おお、料理長はまたもやタコの水棲亜人さん……前に見たのは足が八本で腕は二本だったけど、こっちのタコ亜人さんは腕が八本で足が二本だ。それぞれの手で包丁を持ち、魚を器用にさばいている……あれは職人だ!!

 席に座り、「本日のおすすめ貝料理」を三つ注文、しばらくして出てきたのは。


「これは……でっかいシャコ貝みたいだな」

「貝料理ね。お刺身かしら?」

「お、おさしみですね……」


 エルサにちょっと悪いことした。

 刺身があまり得意じゃなさそうだけど……しまったな。

 

「エルサ、すまん……貝でも刺身は苦手だよな」

「いえ!! わたし、味が嫌いとかじゃなくて、ナマモノを食べることがあまりなくて……食べず嫌いというか」

「わあ、おいしい……貝がコリコリで食べ応えあるわね」


 リーンベル、いつの間にか食べていた。

 俺も料理を見る。

 シャコ貝を皿に見立て、様々な貝を刺身にして盛り付けている。

 食器はフォークが一本。紐で固定されており、波で流れていかないようになっている。


「いただきます……ん、あれ、おいしいです」

「じゃあ俺も……お、うまい」


 俺とエルサも食べる……うまい。メチャクチャこりこりして美味しい。

 しかも、カキみたいにクリーミーな味がする。

 これは大当たり……貝料理、うまい。


「おいしいです!! 貝、好きになったかも」

「うん、水中で料理を食べるのは初めてだけど……私も好きになった」

「うまい。うん、うまい!!」

『きゅいい!!』

「ああわかった。お前にもやるって」


 こうして俺たちは、束の間の休息を楽しむのだった。

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