水中都市アルメニア

 三人で向かったのは、水路船乗り場。

 さて、ここで簡単だがハルワタート王国の領地内がどうなっているか説明する。

 ハルワタート王国にある地図によると、まず地図の左下に『ハルワタート王国』の領地……丸い島がある。

 そして海を隔てて左上に水中都市アルメニア領地、右上に水麗領地メルティジェミニ、そして右下に歓楽領地ササンがある。


 地図の四隅に異なる大きさの島があり、その島を水路船が結んでいる。

 水路は『四角い』感じかな。四隅に島があり、線は水路のルートだ。

 島の大きさは、ハルワタート王国が一番大きく、歓楽領地ササンが二番目、水中都市アルメニアと水麗領地メルティジェミニが同じくらい。そして一番大きなのはやっぱり四つの島を囲う『海』だな。

 さて、ハルワタート王国にある『水路船乗り場』にやってきた俺たち。


「あ、チケットはここで買うみたいです」

「待って。冒険者ならカードで乗れるわ。お金は入金してある?」


 リーンベルはなんと、冒険者カードを取り出した。

 驚いていると、リーンベルは言う。


「六滅竜って立場だと面倒な手続きはフリーパスになるけど、目立っちゃうの。冒険者カードって支払いもできるし身分証にもなるから便利なのよ」

「し、知りませんでした……」


 まさか遊覧船もこれで乗れたんじゃ……まあ、今さらか。

 冒険者カード、かなり便利だな。

 チケットを買うことなく水路船へ。

 職員さんがカウンターみたいな魔道具で冒険者カードをチェックし、すんなり乗船できた。


「か、簡単でしたね……」

「冒険者カード、思った以上にすごいな」

「ふふ。このカードは『万能の身分証明書』って言われてるくらいなのよ? 人類が作り出した魔道具技術の結晶って言われてるんだから」


 知らなかった。

 けっこう雑な感じの登録だなーと思ったが、本人以外使えないシステムとか組み込まれてるし……もしかしたら指紋認証とか虹彩認証みたいなシステムも組み込まれているのかも。

 ま、いいや。それより……水路船だ。


「へえ、フェリーみたいだな」


 水路船。

 全長二十メートルくらい。船の中はバスみたいな椅子があり、二階はデッキになっている。

 席に座らず、俺たち三人はデッキへ。

 水路船が動き出し、水路を進んでいく。


「わあ、速いですね!!」

「確かに……こりゃすごい」

「あくまで移動の手段だからね。ちなみに、遊覧船もその気になればこれ以上に速度が出せるのよ?」


 遊覧船は観光船でもあるしな。

 水路船には騎士の護衛はない。まあ、水路は人工的なモンだし魔獣も出ないだろう。

 驚いたのは、海の上にも立派な水路が敷かれていることだ。

 まるで橋。この世界の建築技術も、俺のいた地球に優るとも劣らない。

 それから二時間ほど雑談をして過ごしていると。


「あ、見えてきました!!」

「速いなー……遊覧船では一日半かかったけど」

「移動だけだしね。むしろ、急ぐ場合もあるから、このくらいは速くないと」


 見えてきたのは陸地。

 水中都市アルメニア……さて、どんなところだろうか。


 ◇◇◇◇◇


 水路船乗り場の周囲は賑わっていた。

 人間用の宿、飲食店、武器防具屋に土産物店、賑わった町の中心地みたいな盛り上がりだ。

 でも、ハルワタート王国と違うのは、町の外が木々で覆われていることだった。


「リーンベル。ここの外ってやっぱり」

「うん。整地されていない森が自然のまま残されてるよ。整地されているのは、ここ水路船乗り場周辺と、近くにある農場だけ。残りの土地は動物や魔獣たちの住処になってる……ここはあくまで『水中都市アルメニア』だから、海に潜ればすごく賑わっているよ」

「あ、レクス、あそこ」


 エルサが指さした建物には、『ようこそ水中都市アルメニアへ!』と書かれた看板。

 そして、水着姿の人たちや、大勢の魔法師が笑顔で魔法をかけている。


「あそこで『水中呼吸』の魔法をかけるのね。あっちの建物は更衣室」

「へえ……」

「水中都市アルメニア……どんなところでしょうか」


 興味津々の俺、エルサ。

 するとリーンベルが咳払い。


「こほん。二人とも、まずはお仕事しなきゃ。まずは……青麗騎士団のアルメニア支部で、ティシュトリヤの情報を集めよう」

「あ、ああ。そうだな」

「す、すみません」


 リーンベルがクスっと微笑む。

 お、この笑顔は……自然な笑顔だ。


「な、リーンベル。用事が終わったらさ、みんなで遊ぼうぜ」

「え……」

「その、すぐにリューグベルン帝国に帰ることもないんだろ? だったら、少しくらい遊んでも」

「……う、うん。遊びたい。レクスくんと一緒にいたい……」

「よし。じゃあ決まりだ。な、エルサ」

「そ、そうですね……うん」


 するとエルサ、リーンベルの手を掴んでギュッと握る。


「あ、あの!! わたし……もっとリーンベルさんとお話をしたいです!! その……いろいろ気になることもあるでしょうし、何でも聞いてください!!」

「はっ、はい!! わ、わかりました……」


 おお、エルサが行ったぞ!! 

 リーンベルはちょっと目をぱちぱちさせて驚いている。

 うんうん、仲良きことは美しきことかな……もっと女の子同士、仲良くしてくれ。


 ◇◇◇◇◇


 さて、青麗騎士団の支部に到着した。

 水麗騎士団が水棲亜人の騎士団なら、青麗騎士団は人間の騎士団だ。

 主に、地上の脅威から住人や観光客を守っている。今回のティシュトリヤに関しては青麗騎士団が専門だ。

 支部に到着するなり、リーンベルの目がスッと冷える……ああ、『六滅竜』としてのリーンベルになった。

 支部の守衛に近づくなり、リーンベルが言う。


「支部長へ」


 い、いきなりかぁ~!!

 ってか「支部長へ」だけでわかるのかよ。

 案の定、守衛は「なんだこいつ」みたいな顔でリーンベル、俺、エルサを見る。

 するとリーンベル、めんどくさそうに言う。


「私の顔くらい覚えておきなさい。全く、面倒ね」


 リーンベルが右手を持ち上げると、刻まれた紋章が水色に輝いた。

 そして、水色の光が上空に放たれると、上空に水色の巨大な魔方陣が形成され、そこからレヴィアタンが現れる。

 守衛、というか周囲は騒然となる。


「ろ、ろろろ、六滅竜『水』のリーンベル様!!」

「わかったら支部長」

「は、ははぁぁぁ!!」


 守衛は走り出し……ずっこけた。何度かコケながら建物の中へ。


「おい、やりすぎだぞ……町が騒ぎになってる」

「……そ、そうだよね。ごめん……『六滅竜』モードになると、どうもあんな風になっちゃって」


 リーンベルは罪悪感いっぱいみたいな表情になっていた……ああ、人と接する時は『六滅竜』モードなのね。

 レヴィアタンを引っ込めると、支部長らしき騎士が慌てて走ってきて……こけた。


「こ、これはこれは!! リーンベル様、ようこそ起こしくださいました!!」

「街が騒ぎになってるけど、そこの守衛が私の顔を知らないせいで起きたことだから。次からはちゃんと教育しておくように」

「は、ははぁぁぁ!!」


 こっわ。

 俺はエルサと顔を合わせて苦笑するしかなかった。

 さて、支部長に案内されて支部の中へ。


「ティシュトリヤ。ある情報を全て開示。水麗領地メルティジェミニにある情報も合わせてね」

「は、ははぁぁぁ!!」


 支部長、なんか可哀想になってきた。

 部下に命じてありったけの資料を用意させている……まあ、聞くこと聞いてさっさと出るか。


 ◇◇◇◇◇


「まず、『狂陸獣ティシュトリヤ』ですが……アルメニア陸地でいくつか痕跡が発見されました」

「痕跡?」

「はい。主に足跡、そして食事の跡ですね。足跡、歩幅から察するに、ティシュトリヤの全長は二十メートルを超え、肉食であると考えられます」

「それ、百年前の記録ね」

「はい。『タルウィ』が復活する前兆として二大眷属が活発になるので……ティシュトリヤ、アパオシャの二大魔獣は、ハルワタートで最も厄介で凶悪な魔獣です」


 まず、アパオシャ。

 こっちは海中に現れる魔獣で、強さはそこまでではないが、厄介なことに復活能力があり、頻繁に現れては海を荒らすらしい。

 恐らく、そのうち現れるだろうとのこと。

 そしてティシュトリヤ。

 こっちは復活こそしないが、強さはアパオシャより高い。

 この二大眷属を倒すと、『悪獣タルウィ』が復活する……そう予想しているそうだ。

 リーンベルは言う。


「痕跡があったってことは、ティシュトリヤはアルメニアにいるのね?」

「恐らく、ですが……そうとも言えないのです」

「どういうこと?」

「えっと……実は、ティシュトリヤの足跡を追跡し、住処を特定しようとしたら……その足跡が砂浜で途切れていたのです。もしかしたら、奴は海を泳いで渡った可能性があり……」

「ティシュトリヤが、泳いで……?」

「はい。現在、水麗騎士団が海中で痕跡を探しています」

「わかった。じゃあ、私たちも行く。水麗騎士団に私が行くことを報告しておきなさい」

「は、ははぁぁぁ!!」


 話は終わりとばかりに、リーンベルは支部を出た。

 その後を追うと……リーンベルはデカいため息を吐く。


「はぁぁぁ~……うう、緊張したあ」

「お前、切り換えの差が激しいな……」

「すっごく凛々しいです!! カッコいい……」


 え、エルサにはそう見えたのか。

 リーンベルは疲れたような顔で言う。


「じゃあ、水中都市アルメニアにある水麗騎士団の支部に行こっか」

「お、いよいよ水中か」

「うん。その前にご飯たべる? 水中にも飲食店らしいよ」

「わあ、気になりますね」

「俺も……水中でメシってどう食うのかな」


 というわけで、水中都市アルメニアで飯を食うことにした。

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