リーンベルと一緒に

「…………ってわけで、リーンベルが『狂陸獣ティシュトリヤ』ってのを倒す手伝いをしてほしいってことなんだけど……ど、どうかな?」


 リーンベルと別れ、エルサたちと合流。

 ルッカとマルセイさんの四人で食事後、宿屋に戻って俺はエルサに話をした。

 エルサは驚いていたが、手のひらにムサシを乗せて優しく撫でている。


「なるほど。なかなか戻ってこないなーと思ったら、幼馴染に会ってたんですねー」

「あ、ああまあ、うん」


 な、なんか棘がある……ちょっと怒ってるっぽい。

 エルサはため息を吐き、ムサシのお腹をゴロゴロ撫でた。


「まあ、いいですけど……ということは、ダンジョンや冒険者ギルドはまた後で、ってことですか?」

「ああ。まあ、リーンベルの依頼だって思えば……それに、ティシュトリヤの討伐にはあいつも同行するから心強いぞ。リーンベルは竜滅士としてはもちろん、個人の実力も破格らしいからな」


 六滅竜の実力はドラゴンだけでなく個人としての実力も最強だ。父上だってリューグベルン帝国最強の大剣使いって言われているくらいだし。

 

「わかりました。じゃあ、明日は『六滅竜』様の元へ行きましょうか」

「ああ。それと、リーンベルでいいよ。きっとエルサと気が合うと思うし」

「……そうでしょうかね」


 な、なんか微妙に機嫌悪い……マジで何なんだろうか。


 ◇◇◇◇◇

 

 翌日。朝食を食べ、俺とエルサはいつもの冒険者スタイルで王族専用のプライベートビーチへ。

 すると、プライベートビーチの入口に、リーンベルがいた。


「レクスくん、おはよう」

「ああ。っと……紹介する、エルサだ」

「は、はじめまして。エルサです」

「はじめまして。私はリーンベル……よろしくね」


 リーンベルはニッコリ笑い、スカートの裾をちょんと摘まんでお辞儀した。

 エルサも同じように一礼する……なんか女の子同士でこういう挨拶するのいいな。


「私、あなたとお喋りしてみたかったの。セレコックス伯爵家の『聖女』は、六滅竜専属の治癒士になるって話もあったくらいだしね」

「せ、聖女というのはもう妹が受け継いだ称号ですので……エルサでいいです」

「わかったわ。ふふ、私は職務中だけど……一緒にいる間は『六滅竜』としてじゃなく、リーンベル個人として相手をしてほしいわ」

「は、はい」


 あれ、なんかリーンベルの笑顔が『来客用』というか、昨日俺に見せたような笑顔じゃない気がする。

 ちょっと首を傾げていると、リーンベルが言う。


「じゃあレクスくん、エルサ。お仕事の話するから、中へどうぞ」


 リーンベルに案内されプライベートビーチの別邸へ。

 昨日は外観を見ただけだが、別邸の中はかなり広く、調度品などが全て高級品。

 バーカウンターもあり、大量の酒が並んでいるのが見える。それにデカい水槽には熱帯魚みたいなのが優雅に泳いでいるし……綺麗だな。

 

「二人とも、何か飲む?」

「ああ。果実水欲しいな、暑いし喉乾くよ」

「あ、じゃあわたしが用意します。キッチンお借りしますね」


 エルサがキッチンへ。

 するとリーンベル、ため息を吐いた。


「……お前、緊張してる?」

「そ、そう見えるよね……」


 あ、昨日の人見知りっぽいリーンベルに戻った。

 そう、こっちが素のリーンベルなんだよな。ちょっと人見知りで、見知った相手には素を見せる感じ。

 まだエルサには外面で対応している。まあ、こればかりは仕方ない……時間が解決するといいけど。

 すると、リーンベルが氷入りのグラスにオレンジジュースを注いで持ってきた。 

 丁寧にストロー付、しかもお代わりのボトルをアイスペールに入れて持ってくるという充実っぷり。

 さっそくグラスを受け取って飲む。


「あー……うまい。なんか町で飲んだやつより味濃いな。さすが王族用」

「ふふ、なんですかそれ。でも、おいしいですね」

「ええ、甘いわ……ありがとう、エルサ」

「い、いえ。お気になさらないでください」


 あらら、また外面モードのリーンベルになってしまった。

 まあいい。俺はお代わりのボトルを手にし、自分とみんなのグラスに注ぐ。


「それで、リーンベル。話を聞かせてくれ」

「ええ」


 リーンベルはグラスを置き、机の下にあった箱から羊皮紙を何枚か取り出して置いた。


「昨日、水麗騎士団と青麗騎士団、そして冒険者ギルドに調査させた『狂陸獣ティシュトリヤ』の情報が届いたの。それで、確認したところ……どうやらティシュトリヤらしき魔獣が、水中都市アルメニアの陸地部分にある森に生息してるらしいわ」

「水中都市アルメニアの、陸地部分?」

「ええ。知ってる? ハルワタート王国は四つの島で構成された国で、それぞれの島には水路船で繋がっているの」


 リーンベルの説明。

 ハルワタート王国は四つの陸地があり、それぞれ『ハルワタート王国領地』と『歓楽領地ササン』と『水中都市アルメニア』と『水麗領地メルティジェミニ』に分かれている……まあ、これはもう知っている。

 で、水中都市アルメニアと水麗領地メルティジェミニ。これは水中にあるが、陸地部分には水路船の駅や人間用の宿や土産屋などの設備以外はほとんど手入れされておらず、陸地の八割くらいが手つかずらしい。

 そこに、魔獣などが住んでおり、ある意味で資源の宝庫になっているとか。

 麦酒や野菜果物などの農園も、水麗領地や水中都市の陸地部分にあるらしい。


「水中都市アルメニアか、水麗領地メルティジェミニ。この二つの陸地部分を調査して、ティシュトリヤを探し出すのが一つ目の仕事。そして、二つめがティシュトリヤの討伐ね」


 冒険者向きの依頼だな。

 というか……そのティシュトリヤの討伐ってのは。


「あの、ティシュトリヤという魔獣は……どのくらい強いんですか?」

「冒険者ギルドが定めた討伐レートでいえば、Sレートくらいね。アパオシャと同じよ」


 それ、かなり強いよな……大丈夫かな。


「ま、戦いになったら私に任せてくれればいいわ」

「いや、俺もエルサも戦うよ。お前だけに戦わせるなんてさせないさ」

「……あ、ありがと、レクスくん」


 リーンベルは照れていた。

 エルサが少しだけムスッとしているのが気になるが……まあいいや。


「とりあえず、二人には私の補佐ってことで、依頼をするね。えーっと……報酬ってどれくらい払えばいいのかな。相場とかよくわからないけど……」


 と、リーンベルはアイテムボックスからバスケットボールくらいの包みを出す。

 それはデカい袋……中身はぎっしり詰まった白金貨だった。

 

「いやいや、多すぎるって!! これ何億円だよ!?」

「エンってなに? よくわからないけど、足りるならこれでいいよ」

「はうう……」


 金銭感覚バグりすぎだろ。

 とりあえず報酬の話は後。リーンベルはアイテムボックスに白金貨をしまう。


「じゃあ、まずは水中都市アルメニアに行こう。レヴィアタンで飛べば一時間掛からないと思う」

「待った」


 と、俺はストップをかける。

 リーンベルは首を傾げた。


「リーンベル。その討伐って急ぎか?」

「ううん、別にそうでもないけど。私の本当の目的は『タルウィ』を倒すことだから」

「じゃあ、せっかくだし水路船で行こう。ハルワタート王国からも出てるよな?」

「そ、そうだけど……レヴィアタンなら速いよ?」

「速いけど、せっかくだし船で景色を楽しみながら行こうぜ。な、エルサ」

「賛成です。そういえば、移動は水路船って決めてましたよね」

「わ、わかった……レクスくんが言うなら」

「それと……少し買い物していくか。リーンベル、付き合ってくれ」

「つつ、付き合う……!? お、お付き合いって、まだ早い……!!」


 意味不明だが、とりあえず別邸を出て買い物することにした。


 ◇◇◇◇◇


 リーンベルを連れ、俺とエルサは城下町へ。

 俺がどこに行くのかエルサもまだわかっていない。

 リーンベルを見ると……やっぱり、思った通りだった。

 向かったのは帽子屋。


「え? ぼ、帽子?」

「ああ。お前、日傘は持ってるけど帽子は持ってないだろ? ハルワタート王国は日差しも強いし、それに……リーンベルは少し目立つしな、顔を隠す用に帽子を買おう」

「……レクスくんが買ってくれるの?」

「え? ああ、言いだしっぺだし。あと、エルサも買おうか」

「わ、わたしも?」


 夏の日差しは馬鹿にできないしな。

 水分補給、日差し、汗の対策はしっかりせねば。

 リーンベル、エルサには麦わら帽子を買ってあげた。


「「…………」」

「な、なんだ? 気に入らなかったか?」

「そんなことない!! ありがと、レクスくん」

「レクス、ありがとう……うれしいです」


 二人の今の姿に合いそうな帽子を選んだけど、気に入ってくれたようだ。

 リーンベルが帽子を被ると、いい感じに顔が隠れる……こう見えて『六滅竜』だし、もしかしたらリーンベルのこと知ってる人がいるかもしれないしな、変装は必要だ。

 エルサに買ったのも、その……リーンベルだけって言うとまた機嫌悪くなるかもしれないからだ。こういう気遣いができるくらいは俺も気が利くのさ。


「よし、じゃあ水路船に乗って水中都市アルメニアに行ってみるか」

「目的地は、アルメニアの陸地ですね。水中都市も見たいですけど……」

「情報収集するために水中には行くかも。あ……み、水着をまた着ないとダメ、だよね」


 ということで……俺、リーンベル、エルサは水中都市アルメニアに向かうのだった。

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