六滅竜『水』のリーンベル②

 明日、レクスがエルサと二人でビーチに来ることになり、解散。

 レクスは「じゃあ、また明日」と手を振り帰っていく。

 その後ろ姿を見送り、ビーチに戻ったリーンベルは。


「~~~~っ!!」


 顔を真っ赤にして蹲ってしまった。

 

「れ、レクスくん。大きくなってた……お、同い年だもんね。十六歳、すっごい鍛えた身体してた……か、かっこよかったあ。うう、水着姿見られたけど、大丈夫だったよね? に、似合うって言ってくれたし……」


 すると、右手の紋章が水色に輝いた。

 リーンベルが紋章を砂浜に向けると、レヴィアタンが召喚される。


『もう、いきなり閉じ込めないでよ』

「うるさい。ね、レクスくん……明日も来るって。エルサって子と一緒に」

『ふぅん。それで、ティシュトリヤ討伐に誘ったってわけね。やるじゃない』


 レヴィアタンが口元を歪め笑う。

 実は、ティシュトリヤ討伐に誘ったのは咄嗟の思い付きだった。

 このまま、またレクスと別れるのはあまりにも嫌だった。だから、そのうち行こうと思っていたティシュトリヤ討伐に、ダメ元で誘ってみたのだ。

 そうしたら、意外にも好返事……一緒に行けるかもしれない。


「討伐はどうでもいいけど、一緒にいれる……」

『あなた、十年も前なのにまだ大好きなのねぇ』

「……初恋だもん。たぶん、アミュアと同じ」

『へえ……あなたみたいな可愛い子に告白されたら、きっと喜ぶと思うわよ?』

「……無理だよ。私、可愛くなんかないもん」

『……いやいや、それはないわよ』


 誰がどう見ても、リーンベルは絶世の美少女だ。

 リーンベルは立ち上がり、ビーチチェアではなくウッドデッキの椅子に座る。


「はあ……いいなあ、レクスくん。ハルワタート王国の次はどこに行くんだろ」

『そうねえ……クシャスラ王国に行ったのなら、雷の国か地の国ね。火の国は反対方向だし……多分、観光目的で行くなら地の国ね』

「地の国……アールマティね。あそこの『歴史文化』は私も興味あるかも」

『でも、この仕事が終わったら帰るんでしょ?』

「……ちょっとくらい、一緒に行ってもいいかなあ」

『全く……本当に一緒に行きたいのなら、手を貸すわよ』

「え……?」

『ずっと一緒は無理だけど、少しの間くらいなら自由に旅をさせてあげる。そのくらいの我儘なら大丈夫よ』

「ほ、ほんと?」

『ええ。私、嘘はつかないわ』


 レヴィアタンはニヤリと笑い、リーンベルは笑顔になる。


「行きたい!! 私、レクスくんと旅してみたい!!」

『わかったわ。じゃあ……二人の許可を取って、あとは私の言う通りにしなさい』

「……何するつもり?」

『簡単よ。手紙を用意するの、三通ほどね』

「……?」


 こうして、レヴィアタンによる『レクスの旅に同行しよう作戦』が始まるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 その日の夜。

 手紙を書き終え、リューグベルン帝国に提出したリーンベル。

 王族専用のプライベートビーチにある別邸のキッチンで、一人料理をしていた。

 すると、紋章から声が。


『まさか、六滅竜『水』のリーンベルが、メイドも付けずに自分で料理するなんてねぇ』

「別にいいでしょ……メイドも使用人もみんな、私を見てびくびくするんだもん」

『それで、ずっと自分で料理をしていたら、プロの料理人と同じレベルにまで上達した、ってわけね』

「まあ、失敗はしないけど」

『チャンスじゃない? レクスに手料理を振舞うの』

「れ、レクスくんに!?」

『ええ。好感度アップよ。頑張りなさい』

「う、うん……ど、どんな料理が好きなのかな」

『それと、一緒に行動するなら見栄えも気にしなきゃ。ちゃんとお化粧道具持ってる?』

「だ、大丈夫……」

『ま、いきなり水着姿を見せたし、どんな服でも大丈夫ね』

「そ、それ言わないでよ~」


 リーンベルにとってレヴィアタンは、頼れる姉のような存在だ。

 実の姉に憎まれ、母に恨まれ、父からは無関心……来る日も来る日も修行漬けだったリーンベルの支えとなったのは、間違いなくレヴィアタンだった。

 死ぬまで一緒……絶対に離れない存在。

 リーンベルは、レクスと同じくらい、世話焼きのレヴィアタンが大好きだった。

 すると、レヴィアタンが。


『……そういえば、少しだけ気になったことがあるの』

「ん、なあに?」

『あの、ムサシだったかしら。レクスのドラゴン……あの子、何なのかしら』

「え?」

『私はこう見えて、最強のドラゴンの一角よ。自分より下のドラゴンなら何となく全てわかる。でも、あの手乗りドラゴンからは、何も感じなかった』

「感じない、って……何を?」

『属性よ。竜誕の儀で神から授かったドラゴンには、必ず地水炎風雷氷の属性が宿る。でも、あのドラゴンには何もなかった。真っ白な……透明のような』

「あり得ないでしょ。属性がないなんてあり得ない」

『…………ええ』


 レヴィアタンは、理解できなかった。

 天真爛漫な幼竜。レヴィアタンに臆することもなく、ただ楽しそうにしているだけだった。が……あまりにも小さく、そして異質さを感じた。


「そういえば、進化したって言ってたよね。明日、詳しく聞いてみよっと」

『……そうね』


 夕食を終え、リーンベルは入浴へ。

 たっぷり時間をかけて身体を洗い、風呂から出た後はすぐにベッドへ。

 明日はレクスと、そしてエルサが来る。


「……いっしょに、旅をしたいな」


 そう呟き、リーンベルは目を閉じた。

 そしてこの日、リーンベルは夢を見た。

 レクスの隣で旅をする自分。そして幼馴染のアミュア、シャルネ。

 あったかもしれない未来。リーンベルは、幸せな夢を見るのだった。

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