海水浴!

 ホワイトビーチはかなり賑わっていた。

 地元の人、観光客とかなり入り混じっており、水棲亜人もいれば冒険者っぽい連中もいる。

 俺と同い年くらいの少年少女たちも水着で集まっており、女子たちは胸を隠して頬を染め、男子たちも顔を赤くして明後日の方向を見ていた……初々しいねえ。


「おいレクス。こっちに場所を取ったぞ、早く荷物置け」

「あ、うん」


 老婆心出してる場合じゃなかった。

 シートを敷き、レンタルしてきたパラソルを刺す……こういう道具は世界共通なんだな。

 荷物を置くと、マルセイさんが俺の背中を軽く叩く。


「お前、どうなんだ? 水着の女の子見て何思ってる?」

「…………おっさんくせぇ」

「やかましい。まだ二人来ねぇし、聞かせろよ」


 俺の精神年齢は二十歳くらいだが……ぶっちゃけ、性欲に関してはあるっちゃある。

 そもそも、病気で寝たきりだったし……看護師さんが可愛いとか思ったことはあるし、着替えとか手伝われるのかなり恥ずかしかったな。

 年頃だったけど、病気で身体中が痛かったし、性欲とかの前に苦しさが前にあった。

 女性の肌なんて見たことないし、ラッキースケベとかもない。

 転生して身体が軽くなり、まあそれなりに女子に興味もある。

 俺は、目の前を通るお姉さんを見る。

 ビキニ姿で、胸が揺れている。足も細いし、何より色気がすごい……。


「……あれ」


 というか、それだけだ。

 すごいとは思うが……なんというか、それしか出てこない。


「んだよ、まさかその歳で枯れてんのか?」

「…………」


 否定できん。

 俺……枯れてんのかな。


「はっはっは!! しょぼくれるな。そうだ、オレのおススメ娼館に連れて……」

「兄さん──」


 と、背後から声。

 振り返るとそこにいたのは、ルッカとエルサ。


「全く……まーた悪い話をしてるの?」

「あ、いやその」


 ルッカ。

 年相応というか、胸は控えめだがビキニで色気を……というか、これがこの国に住む人が普通に着る水着なんだろう。なんというか……すごい自然体だ。

 そして、エルサ。


「う、うう……」


 フレアビキニというのか、紺色の水着だ。

 胸はルッカよりも大きく、十六歳にしてはかなりデカい。

 下はパレオを巻いているが……微妙にチラチラ見える素足が、なんとも。


「……」

「おいレクス。大人のお兄さんからアドバイスだ……水着姿を見たら、褒めろ」

「……ああ。うん、すごい。二人とも……すげえ似合ってる」


 心の底から出た言葉だった。

 エルサは真っ赤になり胸を押さえ、ルッカの背後へ。

 ルッカも微妙に照れ、顔を逸らしてしまう。

 マルセイさんはニヤニヤし、俺の背中をパシッと叩いた。


「やればできるじゃねぇか」

「どうも。ってかマルセイさん……最初はカッコいい騎士って感じだけど、なんかフツーのおっさんだよね」

「おっさん言うな!! まだ二十八だっつの!!」


 こうして、俺たちの海水浴が始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、荷物番をマルセイさんに任せ、俺とエルサは並んでいた。

 目の前にはルッカ。そして、なぜかルッカの肩にムサシ。


「じゃ、泳ぎの練習ね。まずは準備運動から」

「準備運動……ですか?」

「ええ。身体をほぐすの……なんでかわかる?」

「足が攣るからだろ?」

「つる? レクス、つるってなんですか?」

「へえ……レクス、よく知ってるね」


 まあ、それくらいはな。

 というか、足が攣ったことないんだな。 

 ルッカは言う。


「エルサ、水中呼吸の魔法って使える?」

「はい、いちおうは」

「例え水の中で呼吸できても、些細なことで人間は死ぬわよ。水棲亜人にとっては陸地と変わらないけど、水っていうのは人間にとって『あり得ない場所』なんだから」

「う……は、はい」

「じゃ、準備運動」


 俺とエルサは準備運動をする……あんまエルサを見ない方がいいな。

 上体逸らしとか、腕の曲げ伸ばし、アキレス腱伸ばし……なんか、身体の一部がよく揺れるわ。

 ルッカにはバレバレだったが、俺はエルサを見なかった!!


「よし。じゃあ水中呼吸の魔法使うから」


 ルッカが杖を出し、俺とエルサに魔法をかける。

 

「じゃ、行くよ」


 それだけ言い、ルッカはジャブジャブ海の中へ。

 俺とエルサは顔を見合わせ、とりあえず海の中へ。

 胸のあたりまで水に浸かると、エルサが緊張していた。


「ちょ、ちょっと怖いですね」

「前にアパオシャに引きずり込まれなかったか?」

「あ、あれは必至だったので……」

「じゃ、顔を水に浸けて」


 ジャバン!! と、ルッカが水に潜った。

 とりあえず俺も潜る……おお、呼吸できる。


「へえ、普通に潜れるね。呼吸はできるけど、水に顔を浸けるなんてハルワタート以外じゃやらないから、最初はみんな戸惑うだよ」

「そうなのか? おお、やっぱ喋れる……」


 周りを見ると、人の足だらけだ。

 もうちょい奥に行くと底が深くなるみたいだ。隣を見るとエルサの美脚が見えた……まだ顔を浸けられないみたいだな。

 俺は浮上し、エルサに言う。


「っぷは、エルサ、大丈夫か?」

「れ、レクス……こ、怖くないんですか?」

「いや普通だけど」

「そ、そうですか……うう」


 まだ決意できないのか、迷いがあった。

 すると、いつの間にか水中にいたムサシが水面から飛び出し、エルサの顔にダイブした。


『きゅるる~!!』

「うわっぷ!?」


 エルサが後ろにドボンと倒れる……ナイスだムサシ。

 俺はもう一度潜ると、水中を優雅に泳ぐムサシと、水中でもがくエルサがいた。


「あわわわわわっ!!」

「落ち着いて。ほら、あたしを見て」

「るる、ルッカさぁぁん!!」

「大丈夫だって。はい、落ち着いてー」

「ううう……ふぅ、ふぅ」


 そんなに大変なのかな……これも異世界特有のことなのか。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 それから数時間、海水の中で泳ぎの訓練をした。

 少し沖に向かい、身体が完全に潜る場所へ。

 バタ足から始まり……驚いたのは、この世界で人間の泳ぎ方は平泳ぎしかないことだった。

 クロールの真似事をしたら「はあ? なにそれ?」みたいに言われた……世界水泳とかテレビで観てカッコいいなーと思ってたんだが。

 エルサは、平泳ぎでカエルみたいに足を動かすのが恥ずかしいのか、なかなか上達しなかった。

 なので、バタ足と平泳ぎの手の動かし方で泳ぐ……けっこう速い。

 俺は平泳ぎもだが、クロールも練習した。ルッカに呆れられたが……すまん、やっぱ世界水泳で観たこの泳ぎ、忘れられん。

 そして、俺は気付いた。


「……あれ? ムサシ?」


 ムサシが、いつの間にかいなくなっていた。

 周りを見るがいない。


「あ、あれ? エルサ、ルッカ、ムサシは?」

「え? さっき楽しそうに泳いでたけど」

「わたしも見てません。ごめんなさい、泳ぐのに必死で……」

「マジか」


 紋章に魔力を込めると、ドラゴンに命令できる。

 ムサシに命令なんて口頭でしかしたことはないが、迷子なら話は別だ……というか、あの状態のムサシが魔獣にでも食われたり、ふとしたきっかけで死んだら俺も死ぬ。


「ムサシ、どこだ? 戻ってこい!!」


 紋章が淡く輝く。

 エルサとルッカが周囲をキョロキョロすると。


「あ、いました!!」

『きゅう~っ!!』


 ムサシが水中を泳いで戻ってきた。

 俺の胸に飛び込み、翼をパタパタさせる。

 

「お前、いきなりいなくなるなよ……ったく、どこ行って、ん?」

『きゅ』


 ムサシの口がモグモグしている……こいつ、何か食ってやがったな?

 

「全く、いいか、心配させるなよ?」

『きゅるる』


 ムサシは紋章に飛び込み、魔力を吸い始めた。

 ったく、どこに行ってたんだか。


「戻ってきてよかったわね。さて、少し休憩しよっか」

「はい。わたし……喉乾きました。海水は甘いんですけど、なんだかしょっぱいのが食べたいかもです」

「兄さんに出店に行ってもらおっか。じゃ、陸に戻るわよ」


 この日、俺たちは身体がふやけるまで泳いだ。

 水中呼吸できるっていいな。おかげで、息継ぎをすることなく水中で何時間も泳げる。

 だが陸に上がるとどっと疲れが襲ってくる……明日が怖いなこれは。

 そして夕方になり、この日はマルセイさんの奢りで夕食へ。

 道中、マルセイさんは俺に言う。


「ありがとな、ルッカもすっかりお前たちに馴染んだ」

「いえ。喋ってわかったけど……ルッカ、普通にしゃべれますよ? 人見知りとかじゃないと思いますけど」

「そうか? でもまあ、あんなに楽しそうな顔、久しぶりに見たぜ」


 ルッカは、エルサとおしゃべりしていた。楽しそうに笑っている声が聞こえる。


「お前たちに相談してよかった。ありがとよ」

「いえ……あの、明日もお願いしていいんですよね?」

「もちろん。他にできること、あるか?」

「そうですね……あ、水棲領地メルティジェミニとか水中都市アルメニアについて、情報あれば」

「お安い御用だ。じゃ、その辺も含めて、夜はパーッといこうぜ!!」


 この日の夕食は、とても豪華でとても楽しい夕食となった。

 マルセイさん、ルッカ……ハルワタートでの新しい友人に乾杯かな!!

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