そのころ、アミュアとシャルネ①

 レクスとエルサがハルワタート王国に入るだいぶ前。

 アミュア、シャルネの二人は『水路船』を使い、歓楽領地ササンに到着した。

 

「「「ようこそ、歓楽領地ササンへ!!」」」

「「きゃっ!?」」


 水路船を降りるなり、花飾り……『レイ』と呼ばれる首飾りを付けられた。

 それだけじゃない。水路船の降り口から歓迎ムード。水着姿の女性や、なぜかマラカスを振って踊る男性がとにかくしつこいくらい「ようこそ!!」を繰り返す。

 あまりの歓迎ムードに、二人は慌ててその場を離れた。


「び、びっくりした~……アミュア、大丈夫?」

「え、ええ……歓楽領地ササンだっけ。さっすが観光の国ね」

「ってか、お兄ちゃん……ここにいるのかな」


 シャルネが周りをキョロキョロする。

 水着で出歩くのは当たり前。妙なアクセサリーをジャラジャラ付けた女性や、際どい格好で踊る踊り子たち、男性たちは様々な楽器を持ち路上で演奏しているのが当たり前の光景だ。

 そして、とにかく飲食店、土産屋が多い。そして遊技場……カジノもある。

 眩い光景に、シャルネは自然と顔を綻ばせた。


「わぁ~……なんか、すっごく楽しそう!!」

「シャルネ。私たちはレクスを探しに来てるのよ? レクスがここに……」


 と、大きな胸を惜しげもなく晒す女性が通る。

 水着姿だが、歩くたびに胸が揺れ、男性たちが釘づけだ。


「……ふしだらな遊びしてないといいけどね」


 どこかムスッとしながら言うアミュア。

 ちなみに二人の恰好は、港町テーゼレで買った普段着だ。露出は当たり前だが少なく、平民の町娘にしか見えない。

 すると、シャルネがアミュアの肩を叩く。


「ね、ね。アミュア……お兄ちゃんを探すのも大事だけどさ」

「遊びたい、とか言うつもり? あのね、一応は」

「『ドラグネイズ公爵家の用事』で来てるんでしょ。わかってるって。フリードリヒお兄様にも手紙送ったし、そのうち返事も届くよ。お兄様ならきっと、お父様に上手く言うからさ」

「もう……まあ、少しくらいはいいかもね」

「よし!! じゃ、宿取ってご飯にしよっか。ふふん、何食べよっかな~」


 シャルネは、ツインテールを揺らしながらはしゃぎ始めた。

 同い年とはいえ、アミュアにとってシャルネは妹みたいなものだ。やはり可愛いものである。

 アミュアはため息を吐き、赤い髪を手で払う。


「……ちょっと邪魔ね。暑いし」


 そう言い、アミュアは赤い髪をポニーテールに結び、シャルネの後を追うのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 宿は同じ部屋にした。

 歓楽領地ササンにある高級宿の最上階。かなりの値段だったが。


「お金なら気にしなくていいよ。このくらいの宿だったら百年泊っても微々たるモンだし」


 そう言い、ドラグネイズ公爵家専用のブラックカードを見せるシャルネ。冒険者カードと同じマネー機能があり、その額は無制限……恐るべきカードである。

 真に公爵家の竜滅士となったことで使用を許可されたカードであり、費用は全て公爵家の金庫から支払われる。

 そのカードを見て頬をヒクつかせたアミュア。子爵家であるアミュアには縁のないカードであった。

 アミュアは咳払いし、今後の予定を決める。


「と、とりあえず……食事の前に今後の予定」

「お兄ちゃん最優先でしょ。でもさ、アミュア……お兄ちゃんに会ってどうするの?」

「……それは」

「お兄ちゃん。ドラグネイズ公爵家からは正式に除名されて、今は平民と変わらないからね。連れ戻すのはたぶん無理……お兄ちゃんも戻らないと思う」

「わ、わかってるけど……その、ちゃんとお別れもせずに、勝手にいなくなったことは問い詰めたいわ」

「……アミュアさ、お兄ちゃんのこと大好きだよね」

「…………」


 アミュアは真っ赤になり、そっぽ向いてしまう。


「お兄ちゃんと結婚したい?」

「…………まあ」

「そっかー……でも」

「わかってる。もう無理だよ」


 アミュアは、諦めたように悲しく微笑んだ。


「そういえば……覚えてる? 私とレクスと、リーンベルの三人でよく遊んでさ、そこにシャルネが混ざって一緒に遊んだこと」

「リーンベル……『水』の六滅竜」

「うん。懐かしいな……もう十年も会ってない。リーンベルもさ、レクスのお嫁さんになるー、なんて言ってたっけ。ま、子供の話だけど」

「それ、アミュアもじゃなかったっけ? 二人で喧嘩して、お兄ちゃんとあたしで止めに入ったっけ」

「そ、そうだったっけ?」

「あはは。うんうん。そうだよ」


 シャルネは笑い、アミュアをまっすぐ見て言う。


「あのさ、アミュア。結婚とかはわかんないけど……お兄ちゃんのこと好きって気持ちは、ちゃんと伝えた方がいいと思うよ」

「……」

「お兄ちゃんさ、子供のころから達観したような、なんか妙に大人っぽくて変な感じだったけど……あたしにもアミュアにもリーンベルにも優しかったの、覚えてるよ。二人はそんなお兄ちゃんのこと、大好きだったんだよね」

「……うん」

「だったら、伝えないと。あたし、応援するからさ」

「……そうね。うん、伝える。で……私に惚れさせるわ!!」

「えっ」

「よし。シャルネ、ご飯に行こっか。それと、レクスの情報を探さないと。冒険者になったって言ってたし……冒険者ギルド、行けばいいかな」

「……アミュア、強いなあ」


 二人はさっそく町に繰り出し、十六歳の少女らしく遊び、食べるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 二人はたっぷり食事をして、遊技場で遊び……服屋にやって来た。

 そう、買うのは水着。そして、歓楽領地ササンに相応しい服である。

 女性が経営する服屋に入り相談すると、二人は試着室に押し込まれた。

 そして、次に出てきた時。


「こ、これほんとに下着じゃないの? う、うわあ……」

「は、恥ずかしい……」


 水着である。

 シャルネは、水色のワンピースタイプの水着。アミュアは赤のビキニで腰にパレオを巻いている。

 女性店員は感激していた。


「よくお似合いです!! このまま街に出ても大丈夫ですよ!!」

「「そ、それは無理!!」」

「ああん。じゃあ、せめてこっちの服で」


 用意されたのは、ミニスカートにサンダル、おへそが見えるシャツに上着だ。

 露出が多いのが当たり前……アミュアとシャルネは顔を見合わせる。

 そして、シャルネがごくりと唾を飲み込んだ。


「み、水着では出歩けないけど……こっちの私服には挑戦してみようかな」

「ま、マジで?」

「うん。あたし、こういうの初めてだし……せっかく遊んでるんだし、挑戦する!! ね、アミュアも着ようよ!!」

「う、うう……わ、わかったわよ」


 二人はやや露出の多い服に着替え、町に出た。


「うう、恥ずかしい……」

「でもでもアミュア、みんな似たような恰好だし、誰も見てないって!!」

「うぐう……そ、そうね。うん……よし!! 気分変えて、冒険者ギルド、行くわよ!!」

「うん。お兄ちゃんの情報だね!!」


 二人は吹っ切れ、レクスの情報を得るために冒険者ギルドに向かうのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ちなみに……レクスとエルサは寄り道しまくりなので、ハルワタートどころか現在は『ホルダート大滝』でのんびりと滝を眺めているなんて、当然ながら二人は知らない。

 まだまだ来るはずのないレクスを探すアミュア、シャルネ。

 しばらくは歓楽領地ササンで、食べて、遊ぶことになりそうだった。

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