いよいよ上陸

 さて!!

 アパオシャとかいうクラゲの怪物が襲撃してくるハプニングはあったが、とりあえず何とかなった。

 けっこう海底では目立ってしまった。


 でも、今の竜滅士のドラゴンは『あくまで水属性という力を持つのであり、水中で戦えるかどうかは別』って認識のおかげで、ムサシが特別なドラゴンだとは思われなかった。

 そもそも、竜滅士は観光客なんて言わないし、リューグベルン帝国の最高戦力だから『旅人です』なんて言わないしな……まあ、マルセイさんは怪しんでたけど。

 でも、マルセイさんは俺を拘束したり、余計な話を聞いたりしなかった。


 あくまで『仲間が囚われたので助けに来た獣魔持ちの冒険者』として扱い、観光する時間を減らさないように配慮……マルセリオス公爵家の証をくれた。

 この首飾り、きっとどこかで役に立つ。水中都市アルメニアとか水棲領地メルティジェミニに行ったら見せてみるのも面白いかも。

 

 そうして、海底での戦いから数時間後。

 俺とエルサは遊覧船のレストランで食事していた。

 なんと、コース料理である。


「いや~、こういうの久しぶりだな」

「はい。実家ではよく食べてましたけど」


 俺とエルサは、高級そうなステーキ肉をナイフで切り分ける。

 こう見えて元貴族だ。エルサは当然だが、俺も作法は叩きこまれている。

 ちなみに……エルサの部屋でした『キス』のことは蒸し返さないことにした。まあ、感謝の意味だし……アメリカとかじゃフツーに挨拶でやってるしな!! 知らんけど!!

 すると、エルサが言う。


「そういえば、あのアパオシャでしたっけ……倒せないとか言ってましたよね」

「ああ。なんか『再生』するとか言ってたな」


 俺とムサシが触手の大半を斬ったあと、水麗騎士団が総攻撃で倒したよな。

 ズタズタにされた破片は水に溶けたけど……たぶん、そのまま水に溶けた後に復活するのかも。

 

「まあ、騎士団の人たちかなり強かったし、もう大丈夫だろ」

「そうですね。あ、そういえば……」


 と、エルサがアイテムボックスからパンフレットを取り出す。


「水麗騎士団。ハルワタート王国の海を守りし騎士、陸を守りし青麗騎士団と双璧を為す……すごい人たちでしたね」

「そのパンフレットはどこから……ま、まあそうだな」


 エルサのパンフレットによると、水麗騎士団は水棲亜人たちで構成された『海を守る騎士』で、青麗騎士団は人間で構成された『ハルワタートの陸地を守る騎士』であり、この二大騎士団によってハルワタートは守護されている。

 

「ハルワタートの現国王は人間で、王妃は水棲亜人みたいです。ハルワタート王族は代々、人間と水棲亜人の婚礼が義務付けられているそうですよ」

「へえ、異種族結婚か……あれ? 結婚したら子供はどうなるんだ?」

「子供は、人間か水棲亜人のどちらかが生まれるそうです」


 ハーフとかじゃないのか。

 俺はポケットに入れておいたネックレスを取り出す。


「マルセリオス公爵家だっけ。水棲亜人で、爵位持ちなのか」

「そうみたいですね。ふむふむ、もっとパンフレットを集めなきゃ」


 エルサについてわかった。

 好きな食べ物は激辛系、趣味はパンフレット集め……うん、いいね。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、襲撃をもう忘れた俺たちは、遊覧船を満喫した。

 さすがに看板デッキにはもう出なかった。なので、船内を散策したり、談話室でお茶を飲みながら読書したり、ハルワタート本国で何をするかを話し合ったり……あっという間に夜になった。

 夕食はバイキングだった。

 満足するまで食べ、二人で少しだけお酒も飲んでしまう……そして、エルサがワイン二杯で限界になったので、今日はお開きとなった。

 俺はエルサを部屋まで送った。そのあとは自分の部屋で、ソファに座って海を眺めている。


「ムサシ……まだ寝てるか。まあ、新しい属性に目覚めたし、仕方ないか」


 ふと思う。

 今回は水属性。風車の国では風属性。

 

「……もしかして、その土地の『属性』に触れて、新しい属性を得るのかな」


 紋章を見るが、今は輝いていない。

 形態紋章と属性紋章。

 属性と形態を切り替えて戦うことのできるドラゴン、か。

 

「……そういえば兄上が言ってたっけ。『永久級』のドラゴンは固有の能力に目覚めるって。もしかしたら、この形態と属性の変化はムサシの能力? でも、授かったばかりのドラゴンは、幼体……ふぁぁ」


 眠くなってきた。

 ワイン……あんまり美味しいとは思わないけど、なぜか飲みたくなるんだよな。

 酒の味……俺も、大人の男になったのかな。


「…………うみ」


 あまり揺れを感じないが、船の上なんだよな。

 明日の昼にはハルワタート本国に到着……なんか、今日はもう、ねむい。


 ◇◇◇◇◇◇


「──……はっ」


 崖から海に落ちる夢を見たような、落下すると錯覚して身体がビクッと反応……目が覚めた。

 

「あいててて……あれ、ソファ? あー……ここで寝ちまったのか」


 ベッドが綺麗なままだ。

 どうやら、ワインを飲んでそのまま寝てしまったようだ。

 身体を起こすと、ぺきぺきと節が鳴る。


「……シャワー浴びよ」


 汗もかいたし、まずはシャワー……そして歯磨きをして、軽くストレッチ。

 下着も変え、服も着替えた。

 昨日、海で濡れた服はちゃんと洗って干したおかげか、すっかり乾いている。

 ベッドサイドにあった水を飲み、ようやく覚醒した。


『きゅい~っ!』

「お前も復活だな。今は……なんだ、もういい時間だな」


 ムサシを肩に載せ、俺はエルサの部屋のドアをノックする。

 すると、どこか眠そうなエルサが出てきた。


「ふあ……おふぁようございましゅ」

「ああ、寝ぐせすごいな……あと二時間くらいで到着だけど、朝飯どうする?」

「ん~……あんまり」

「ははは。じゃあ、残り時間は身支度でも整えたらどうだ? 風呂入って着替えたり」

「そうします~……」


 エルサは酒が苦手……うん、これもデータベースに入れておくか。

 俺は一人で朝飯を食い、そのまま看板デッキに向かう。

 昨日、魔獣が襲撃してきたせいか、あまり人がいなかった。

 ムサシを肩に載せたまま、俺は船首の方へ向かう。


「ドラゴンの船首……昨日はよく見なかったけど、船を守るって意味でドラゴンにしたのかな」

『きゅるる~』

「ん? お……見えてきた」


 ムサシが前を気にしていたのでよく見ると……陸が見えた。

 

「……んん?」


 なんか変だな。

 陸は見える。そして、背の高い建物が多く見える。

 時計塔みたいな、てっぺんが角ばった建物が多い。

 そして、港にはたくさんの船が止まり、水路船の線路もたくさん伸びており、陸の中心であるハルワタート本国に繋がっていた。


『きゅいいーっ!!』

「……おいおい、あれって」


 ムサシが興奮していた理由……それは、ハルワタート本国上空を旋回する、全長三十メートル以上ある巨大な『ドラゴン』の姿。

 俺は心臓が高鳴った。

 あのドラゴン、見たことがある……というか、なぜここに。


「おいおいどうなってんだ……なんでここに『六滅竜』の一人がいるんだよ」


 六滅竜。

 それは、リューグベルン帝国最強戦力にして最高の竜滅士。


「あれは……『水華神竜すいかしんりゅう』レヴィアタン。六滅竜『水』のアマデトワール侯爵家の才女、リーンベルのドラゴン……なんであいつがここに」


 ドラゴンには『真名』と『竜名』がある。

 アミュアの場合、真名は『烈火竜』であり、竜名は『アグニベルト』だ。基本的に竜名は古代竜滅文字……まあ漢字だな。漢字三文字の場合がほとんどだ。

 だが、六滅竜は違う。

 真名に『神』の名を持つことが許された、竜滅士の間で『神の眷属』とされる六属性を司るドラゴン。

 全体的に丸っこい、青と水色とクリアブルーの色を持つ『羽翼種』だ。というか……数年ぶりに見たけど、かなりデカくなってやがる。


「……うう、ハルワタートでも嫌な予感してきた」

『きゅう』


 俺はムサシを撫で、嫌な予感に胸を痛めつつ自室に戻るのだった。

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