第二章 麗水の国ハルワタート

寄り道をしながら

「ここが古の大風車かあ……」


 風車の国クシャスラから進むこと数日……俺とエルサは寄り道しながら進んでいた。

 今日は、オスクール街道から逸れた道に入り、しばし山を登ったところにある大展望台。そこから見える大昔の『大風車』を眺めていた。

 大展望台は観光地なのか、広場は整備されて多くの観光客がおり、周りにはいくつか建物もある。

 宿屋、土産物屋、茶屋……こういうのは地球も異世界も同じなんだな。

 エルサは、ムサシを肩に載せ、土産物屋にあったガイドマップを見て言う。


「あの『古の大風車』は、クシャスラ王国が建国される前から存在してるみたいです。あの大風車を見てクシャスラ王国を建国し、大風車を真似て作った……と、推測されています」

「じゃあ、あれがオリジナルなんだ……誰が作ったんだろうか」


 俺たちのいる展望台の先は切り立った断崖になっており、その先に石造りの巨大風車が静かに回っている。

 クシャスラ王国にあった大風車も立派だったが、こっちの大風車はさらに大きく、そして古めかしい……でも、今も風に吹かれ、静かに回っている。


「これで風車も見納めかあ……」

『きゅるる~』


 ムサシがエルサの肩から俺の肩へ移動し、頭を頬に擦り付けてきた。

 可愛いやつめ……やっぱムサシはこの姿が一番かわいい。


「レクス。あっちのお土産屋さんを見ませんか?」

「いいね。カフェもあるし、お茶もしよう」

「はい。えへへ……なんだか楽しいです」

「俺も。まさに『旅!』って感じだな」


 次の目的地は、歓楽と麗水の国ハルワタート。

 国土の六割が海。リゾート、観光の国だ。

 今からワクワクするが……今、目の前にある『古の大風車』も見逃せない。

 どうせ急ぐことはないし、まだまだ見たいものはたくさんある。

 この旅は使命も何もない、俺とエルサとムサシの、世界を巡るのんびり冒険なのだから。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、の~んびり『古の大風車』を満喫した俺とエルサは、オスクール商会が運営する『オスクール移動馬車』に乗ってオスクール街道をゆったり走っていた。

 オスクール移動馬車。定期バスみたいな乗り物で、馬を四頭繋いで乗り心地抜群の荷車に乗り、オスクール街道を進む馬車だ。

 メインはオスクール街道を走ることなのだが、脇道や観光名所などでは停車するし、そこから徒歩で進むこともできる。バス停……じゃなくて、停留所みたいなのもあるし、実にオスクール商会が『移動』に関して力を入れているのがわかる。 

 

「次の停留所で折りて、『ホルダート大滝』を見に行くか」


 ここが風車の国クシャスラ最後の名所だ。

 ここで一泊し、明日には麗水の国ハルワタートに入る。


「ホルダート大滝……話では、大滝からハルワタートが見えるらしいです」

「いいね。次はどんな──」


 と、ここで馬車は急停止。

 驚いて窓から外を見ると……なんと、ウィンドワーウルフが道を塞いでいた。


「おいあれ、ウィンドワーウルフだぞ」

「ええ? な、なんでこんなところに」

「たぶん、サルワ戦で逃げたウィンドワーウルフだろうな……お、護衛の冒険者たち出てきた」


 オスクール商会が雇っている専属の冒険者だろう。

 ウィンドワーウルフの数は五体、冒険者は四名……大丈夫かな。


「レクス、どうします?」

『きゅいいい!!』

「任せ──っておいムサシ!?」


 なんと、窓からムサシが飛び出した。そして、ウィンドワーウルフの頭に体当たり。


「な、なんだ!?」

「ち、ちっこい白いのが体当たりしたぞ!!」


 げげ、冒険者たちも驚いてる。

 これ行かないとまずいよな……仕方ない。

 エルサを見ると苦笑していた。まあ、その気持ちはわかる。

 俺はエルサと一緒に外へ。冒険者たちに言う。


「加勢します!!」

「ありがたい。ところで、その白いのはきみの獣魔か?」

「え、ええまあ……」


 ムサシ、俺の周りを飛んでごきげんだ。やれやれ……あとで言わないと。

 俺は双剣を抜き、エルサはロッドをクルクル回転させ構える。

 すると、馬車の後ろにもう二体のウィンドワーウルフが現れた。


「向こうを任せていいか?」

「わかりました。エルサ、行くぞ!!」

「はい!!」


 俺とエルサとムサシは馬車の後ろへ。

 せっかくだ。ムサシの新しい力、ここで試してやる。


「ムサシ、『陸走シューマッハ』!!」

『きゅいいっ!!』


 俺の考えた合言葉だ。

 ムサシは緑の体毛を持つ狼のような姿……『陸走形態』へ。

 俺とエルサが飛び乗ると、ムサシは一瞬でウィンドワーウルフの元へ。

 エルサが飛び降り、なんとウィンドワーウルフに飛び蹴りを喰らわせた。


「こっちはお任せを!!」

「了解!! ムサシ、『人型ヒューマ』!!」

『がるる!!』


 ムサシは『人型形態』へ。

 すると、鱗を一枚剥ぎ取り、それを巨大化させ『突撃槍』のように変化させ構えた。

 なにそれ、武器も作れんのかよ!! くそカッコいいな!!

 俺はムサシと並んで剣を構える。


「ははっ、一緒に戦えるのなんかいいな!!」

『がるるる!!』

「行くぞムサシ!!」


 俺はムサシと飛び出し、ムサシがウィンドワーウルフぶ向かって突撃槍を一閃。

 ジャンプして躱されたが、俺は銃を連射。ウィンドワーウルフの足に命中し、空中で態勢を崩す。

 そして、ムサシが槍を投擲。ウィンドワーウルフの心臓に突き刺さり、そのまま地面に落ちた。

 ウィンドワーウルフが死亡……俺はムサシとハイタッチする。


「やったぜ!!」

『がる!!』


 エルサを見ると、水の刃で首チョンパされたウィンドワーウルフが転がっていた……すげえ、見てなかったけどもう倒したみたいだ。

 ムサシは小さくなり俺の肩へ。

 前を見ると、あっちの冒険者たちも倒したようだ。


「お疲れ様です。レクス」

「ああ。エルサも……怪我ないか?」

「はい、無傷です!!」


 こうして、突然の襲撃を何とか回避できた。

 いやー……こういう不測の事態にも慣れてきた。冒険者っぽくなってきたよね。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、ウィンドワーウルフを撃退……冒険者たちに感謝された。

 お礼にお金を払うと言われたが拒否。別に依頼を受けたワケじゃないし、あまり目立つのも嫌だったし……まあ、もらわない方が目立ったので、移動馬車の運賃分をもらって完結した。

 そして、馬車は『ホルダート大滝』に続く道に入る。ムサシは大あくびして俺の紋章に入って寝てしまった。

 それから間もなく、ホルダート大滝に到着した。

 馬車から降りると、潮風……いや、なんか妙に甘い香りがする。


「なんか甘い匂いするな……」

「あ!! レクス、あっち、あっち見てください!!」

「え?」


 と、エルサが興奮していた。

 現在、俺たちがいるのはめちゃくちゃ広大な広場。周囲には馬車が何台か止まり、傍にはデカい塔みたいな建物がある……これ、ホテルだな。

 そして、建物の向こう側は崖になっており、近づくとそこは。


「──……すっげ」

「わぁ~……」


 言葉にならなかった。

 眼下に広がるのは『滝』だった。これがホルダート大滝……すっげぇ。

 俺たちがいる場所から下に流れていく滝。ナイアガラと言えばいいのか、流れ落ちる滝を上から眺めている。

 そして滝の下に広がるのは広大な海。そして陸地。


「あれが、俺たちの目指す『麗水の国ハルワタート』なのか……」


 ちょうど、見下ろすように、下に陸地がある。

 レールみたいな水路もあり、ゴマ粒みたいな船が動いているのも見えた。

 まさか、ハルワタートを見下ろすことになるなんて。


「なんか甘い匂いするけど……なんだこれ?」

「海の匂いですよ!! 知らないんですか? 海って甘いらしいですよ!!」

「あ、甘い? しょっぱいじゃなくて?」

「あはは。海がしょっぱいなんておかしいですよ」


 え……海って塩水じゃないの? 

 どうも異世界の海は甘いらしい。新発見……いや驚き。


「今日は宿に泊まって、明日は船でハルワタートですね!! あ、その前にお土産屋さん行きましょう。あそこにカフェもあるし、明後日出発でもいいかな~」

「ははは、のんびり行くか。別に明日出発じゃなくてもいいし、連泊するか?」

「いいですね!! ふふ、とにかく堪能しなきゃ!!」


 急ぎ旅ではない。ゆっくり、満足するまでいこうじゃないか。

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