ドラグネイズ公爵家にて②
レクス、エルサがクシャスラ王国から旅立って数日……クシャスラ王国正門前で、騎士団長のサビューレはリューグベルン帝国から来た竜滅士の一行を出迎えた。
サビューレは正装で、竜滅士たちに頭を下げる。
「遠路はるばるようこそ。風車の国クシャスラへ」
「うむ、出迎え感謝する」
応えたのは、五十名しかいない『永久級』の竜滅士ガロルド。
そして、これからクシャスラ王国に常駐する竜滅士三人と、新人竜滅士のアミュア、シャルネの二人。
ガロルドはいきなり要件を切り出した。
「さっそくだが、『魔竜』を本当に討伐したのか、確認させてほしい」
「わかりました」
サビューレに同行していたグレイズが、ほんの少しだけ気を悪くする。
国を守るべき竜滅士が間に合わず、冒険者と騎士団で討伐した魔竜……何もしなかったくせに、謝罪もなくいきなり要件とは。
だが、サビューレは笑顔のまま馬車に促す。
向かったのは、クシャスラ王城にあるレンガ造りの倉庫。
その中は冷えており、魔法師がサルワの死骸を凍らせていた。
ガロルドは死骸に近づき確認。
「……間違いない。魔竜だ。しかもこのサイズ……我がドラゴンと同等の大きさ。永久級はある」
サルワの死骸を確認し、ガロルドは気付いた。
「騎士団長。この死骸、片目が失われているが」
「ええ、戦闘時に目を攻撃し潰したんですよ。それで、大暴れしてそのまま消失したようで。だがまあ、片目が無くなったところで問題ないでしょう?」
「……む」
そういうわけにはいかない。
そもそも、魔竜の眼は『竜魔玉眼』という至宝。ドラゴンに食べさせれば『進化』させることが可能な物で、そのことを知るのは竜滅士だけ。
魔竜の確認、そして目の回収がガロルドの使命であったのだが、片目しか回収できない。
魔竜の死骸はリューグベルン帝国が引き取ることで話は付いていた。
「しかし……冒険者と騎士が協力し、この魔竜を討伐したとは」
「ええ、クシャスラの歴史に残る一戦でした。思い出すだけで興奮しますよ……あれほどの戦いは、生まれて初めてでした」
サビューレがほほ笑む。
ガロルドは特に返事をせず、サビューレに言う。
「では……この死骸は回収させていただく。それと、こちらの三名がこれからクシャスラ王国に常駐することになるので、手続きを」
「わかりました。おや、そちらの少女たちは?」
「彼女たちは見習いです。竜滅士の仕事がどのような物か、見学を」
「なるほど……」
その後、騎士たちに竜滅士の案内を任せ、サビューレはガロルドと話をする。
アミュア、シャルネの二人は騎士訓練場の見学をすることになった。
そして、二人の案内を任せられたのは。
「初めまして。騎士リリカと申します。これからお二人の案内をさせていただきます!!」
「よろしくお願いします。私はアミュアです」
「あたしはシャルネ。歳も近そうだし、普通にしゃべっていいよ」
フレンドリーなシャルネに、リリカは微笑んだ。
「じゃ、お言葉に甘えて……リリカでいいよ」
「うん。あたしもシャルネでいいから。あ、アミュアもいいよね?」
「はいはい。ま、気楽な方がいいわね」
三人は、騎士の訓練場を見学する。
騎士たちが摸擬戦をしたり、筋トレしたり、素振りをしているのを眺めていると、アミュアが言う。
「訓練自体は、騎士も竜滅士も変わらないのね」
「そう? 毎日バテバテになるくらいやるけど……やっぱり竜滅士もバテバテになる?」
「まあね。私は格闘術がメインだけど、シャルネは……」
「あたしは弓術ね。フェンリスに乗って弓を射る訓練してるの」
「フェンリス?」
「あたしのドラゴン。『陸走種』のドラゴンなんだ」
と、シャルネは右手を向けて『
狼のように見えるが、ツノも牙も生えている立派なドラゴンである。
「わぁ、すごいね!!」
「ふふん。まだまだ成長期だし、もっと大きくなるよ」
「すごーい!! アミュアのドラゴンは?」
「私のは……この子」
アミュアが召喚したのは、深紅の甲殻を持つドラゴンだ。
二足歩行のトカゲに甲殻を付けたような姿だが、頭部には立派なツノが生え、両手は太く立派な爪を持っている。
「『甲殻種』っていう防御に優れたドラゴンなの。名前はアグニベルト……はい、ご挨拶」
『ゴロルルル……』
「あはは、いい子だね」
ふと、アミュアは思った。
リリカは全く怯えずにアグニベルトへ近付き、普通に撫でていた。
普通は、怯えたり驚いたりするものだが。
「リリカ、あなた……怖くないの?」
「なんで? サルワの方がもっと怖かったし、
リリカの言葉に、二人が凍り付いた。
そして、リリカも「あ」と口を押える。
「あ、えっと」
「今、なんて」
「え、あ~……」
「リリカ、今なんて言ったの」
アミュアが、リリカを睨むようなまなざしで、強い声で言う。
リリカはシャルネを見ると、シャルネも同じだった。
「レクス、ドラゴンって……お兄ちゃん、ここにいたの!? ねえ、リリカ!!」
「え、お兄ちゃん? シャルネ、レクスの妹なの?」
「そうだよ!! リリカ、お兄ちゃんのこと知ってるの?」
「……家を追放されたって聞いたけど、まさか妹さんだなんて。え、じゃあアミュアは」
「幼馴染よ」
「そうなんだ……」
アミュアはリリカに顔を近づけて言う。
「それで、レクスはどこにいるの。知ってることがあるなら教えて」
「あー……でも、レクスに口止めされてるし、その……」
「お願い。知りたいの……!!」
「う~……」
目を逸らすリリカ。その様子に、アミュアはピンと来た。
「……レクス。私たち……ううん、リューグベルン帝国に知られたら厄介なことに巻き込まれてるのね? だから自分のことを知られないように口止めしてるのね?」
「…………」
「じゃあこうする。私とシャルネは何もしない。聞くだけで、ガロルド隊長にも報告しない。勝手にいなくなった幼馴染とシャルネのお兄さんがどこにいったのか、何があったのか、それだけ知りたいの……お願い」
「…………わかったよ」
リリカはついに折れた。
アミュアの必死な、縋るような目が悲しく見えてしまい、これ以上は拒否できなかった。
リリカは、町案内をするフリをして二人を大風車の傍にあるベンチまで連れてきた。
そして、クシャスラ王国で何があったのかを説明する。
「……魔竜との戦いで、レクスのドラゴンが進化した?」
「うん。ムサシって名前なんだけど、すっごく可愛いの」
「手乗りドラゴンだよね……お兄ちゃんの」
リリカは説明した。
レクスは実家を追放され、エルサと一緒に国を訪れたこと。
大風車や町を観光し、サルワの襲撃で魔竜と看破、騎士団の協力してくれたこと。
冒険者としてサルワの戦いに参加し、戦いの最中でムサシが進化したこと。
レクスとムサシの活躍でサルワが討伐されたこと。そして目立つのを拒否し、全ての功績を冒険者と棒騎士団に譲り、今度はハルワタート王国へ旅立ったこと……などだ。
ちなみに、『竜魔玉眼』をムサシが食べたことは言わなかった。
話を聞き、アミュアは考え込む。
「形態を切り替えることができるドラゴンなんて、聞いたことがないわ……」
「お兄ちゃんが、あの魔竜を倒したんだ……」
「ほとんど一人でね。すごかったよ、ムサシがいろんな姿に変わってさ、サルワを追い詰めてさ……いやあ、すごかったなあ」
「「…………」」
レクスが向かったのは、ハルワタート王国。
それも気になったが……アミュアは別のことが気になった。
「ところで、エルサって誰?」
なぜか、リリカとシャルネの背中に、ゾワリと冷たい汗が流れるのだった。
◇◇◇◇◇◇
しばらく滞在し、ガロルドとシャルネ、アミュアの三人はリューグベルン帝国に帰ることになった。
リリカに別れを告げ、馬車に乗ろうとすると……アミュアがガロルドに言う。
「ガロルド隊長。申し訳ございません……少し、別行動してよろしいでしょうか?」
「……何?」
シャルネはギョッとした。
まさか、『永久級』のガロルドに『別行動したい』と言うなんて思わなかった。
その言葉だけで、シャルネは察した……間違いなく、ハルワタート王国に行くつもりである。
「別行動とは、何か理由があるのだろうな」
「はい。内容は……言えません」
「……新人であるお前が、命令違反をしてまでの内容か?」
「はい」
きっぱりと言った。
シャルネはため息を吐き、助け船を出す。
「……ガロルド隊長。私からもお願いします」
「きみもか、シャルネ」
「……ドラグネイズ公爵家の用事、といえばいいでしょうぁ」
「……む」
竜滅士最強、ドラグネイズ公爵家の用事。
シャルネは、階級こそ『天級』だが、ドラグネイズ公爵家の令嬢である。
その用事が何なのかは知らない。だが……ドラグネイズ公爵家を出されたら、さすがのガロルドも黙るしかなかった。
そして、大きなため息を吐く。
「……わかった。好きにしたまえ。その代わり、お前たちの別行動はドラグネイズ公爵家に報告させてもらう」
「「ありがとうございます!!」」
ガロルドは訝しんだが、特に追及することなく馬車で去った。
そして、残された二人。
「アミュア……お兄ちゃんのところ行くつもりでしょ」
「まあね。それよりシャルネ……なんで合わせてくれたの?」
「そりゃ、お兄ちゃんに会いに行くってすぐわかったから。ま、ドラグネイズ公爵家の名前出したら、ガロルド隊長も引くしかないよね……でも、用事なんてないし、お父さんにバレたらヤバイよねぇ」
「……シャルネ、いいの?」
「うん。ま、思いっきり怒られるくらいだし。一応、お兄様に手紙出しておこっと。さ、ハルワタート王国に行こっか!! あそこリゾートもあるみたいだし……っていうか、お兄ちゃんってば女の子と旅してるなんてねぇ」
「むー……その辺はちゃんと聞かないとね」
こうして、シャルネとアミュア……レクスの妹と幼馴染の、レクスを追う旅が始まった。
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