風魔竜サルワ⑤

 『陸走種』……いや、『陸走形態』となったムサシに乗ると、まるで馬みたいに走り出す。

 何だっけ……ギャロップ走法だったか。競走馬より速いが、不思議と乗り心地がいい。

 というか、ムサシに乗った瞬間、負ける気がしなかった。

 俺とムサシが共に戦う。これこそ、俺の本来の戦闘スタイルみたいな……かっちりと何かがハマったような、胸が躍るというか、ワクワクする。

 あれほどクシャスラ王国を苦しめているサルワを前に、俺は笑っていた。

 笑いながら、ムサシに指示を出す。


「見ての通り鈍足だ、回り込むぞ!!」

『ウォウ!!』


 応!! と聞こえたのは気のせいだろうか。

 体毛が生えた巨大狼みたいな『陸走形態』だ。でも狼じゃない……ツノも生えてるし、爪も牙も立派なドラゴンの物……手乗りサイズだった頃が懐かしい。

 俺は槍を手に、ジグザグ走行するムサシにしがみ付く。


『グルォ、グルルルルル!!』


 ムサシに翻弄され、サルワが首を何度も動かす。わかるぞ、必死に目で追おうとしてるんだな。

 だが、そんな程度で。


「背後!!」


 ムサシは一瞬で背後に移動。

 俺は拳銃を抜き、背中に向かって何度も引金を引いた。


『ガァァッ!!』


 翼をバサバサするが、振り向いた時にはもうムサシはいない。

 振り向いた瞬間、もうムサシはサルワの懐に潜り込んでいた。

 俺は槍を手に、サルワの心臓目掛けて思い切り胸に突き刺す。


「喰らえェェェェェェェ!!」

『ガァァッ!?』


 甲殻に覆われていない部分は柔らかい。

 槍は突き刺さるが……俺の筋力だけじゃ足りない。

 すると、紋章が輝きだし──ムサシの姿が変わる。

 エメラルドグリーンの鱗に包まれ、全長三メートルほどの『人型形態』へ。

 漫画やアニメで見るような、二足歩行のドラゴンだ。かなりカッコいいスタイルだ。

 人型形態のムサシは、俺の掴む槍の柄を掴み、一緒に心臓に向かって槍を突き刺す。


「おおおおおおおお!!」

『オオオオオオオオ!!』


 ズズン!! と、槍が心臓を突き刺した。


『ブッギュアァァァァァ!!』


 サルワが吐血。

 俺とムサシは柄を放すと、大暴れするサルワに吹っ飛ばされた。

 が、ムサシが庇ってくれたので無傷で済む。

 立ち上がると、胸から血を噴き出しながらサルワは全身を掻き毟るように暴れ、そのまま翼を広げて上空へ飛んだ。

 すると、サビューレ団長とエラソンさんが起き、俺たちの元へ。


「こ、このドラゴンは……キミのか?」

「やはり、竜滅士だったか……」

「俺も驚いてますけど、今は後で」


 とりあえず、ムサシのことはまた後で。

 上空へ視線を向けると、血を撒き散らしながらサルワが滅茶苦茶に飛んでいた。

 

「心臓に槍を刺しました。もう、助かりません」

「……あのまま、苦しんで死ぬのか」

「……憐れな」


 正直、可哀想だとは思う。

 すると、ムサシが。


『グルるる……』

「ムサシ?」


 俺に頭を寄せ、サルワを見た。

 そして、俺の紋章が再び輝き、四つの紋章の最後の一つが輝いた。

 するとムサシの姿が、翼の大きな『羽翼種』へと変わる。


「お前……あいつを、楽にしてやりたいんだな?」

『ぐるる』

「……わかった」


 俺はムサシに乗ると、ムサシは翼を広げ一気に上空へ。

 俺は銃を抜き、マガジンを交換する。


「サルワ!!」

『ギュァァァァ──……ギュァァァァ……』


 苦しんでいた。

 そりゃ、国を崩壊寸前まで追い込んだ、もはやドラゴンと言えない魔獣だ。

 でも……魔竜となっても、ドラゴンだった。

 魂はきっと、ドラゴンのまま。

 その魂に安らぎを与えるのは──……きっと、俺とムサシが適任だろう。


「ムサシ、行くぞ!! あの魔竜を──解放する!!」

『クルルアァ!!』


 ムサシはサルワに接近。

 俺は銃を連射し、サルワの翼を穴だらけにする。

 サルワは姿勢を崩し、飛行の勢いが落ちていく。

 すると、魔力がごっそり減る感覚……ムサシの口に、魔力が集中した。

 ドラゴン最強の技……『竜の息吹ドラゴンブレス』だ。


『オォォ、ゴァァァァァァァ!!』


 風属性のドラゴンブレスが放たれ、サルワを包み込む。

 全身をズタズタに引き裂かれたサルワは地上に落下し、完全に動かなくなった。

 俺とムサシは地上へ降り、動かなくなったサルワに近づく。


『…………』

「……お前は魔竜だけど、元はドラゴンだ。魂は竜神の元へ……」


 祈りを捧げると、サルワの目が輝きを増した。

 『竜魔玉眼』だ……リューグベルン帝国の至宝。

 そして、サルワは静かに息を引き取った。


「……終わった」

『グル……』


 サルワ。魔竜となったドラゴン……死んだ竜滅士も、少しは報われるだろうか。

 黙とうを捧げていると、声が聞こえてきた。


「おーい!!」

「レクス、大丈夫か!!」

「レクス!!」「レクスーっ!!」


 サビューレ団長とエラソンさん、エルサとリリカだ。

 どうやら、意外と近くに落下したらしい。

 俺は手を振ると、エルサが走って来て……なんと、俺に飛びついた。


「うぉぉぉ!?」

「よかったぁ!! 心配したんっですっ!! ああ、本当によかった……」

「お、おう。いやあ、なんといか、心配かけまして、すみません」


 しどろもどろになる俺。

 やばい、エルサってけっこう胸あるのか、やわっこい……いや待て、こういうのは俺の役目じゃない。そもそもエルサはヒロイン枠というか、友人枠というか。

 すると、リリカが言う。


「いや~、なんかお邪魔みたいだね。あはは」

「そ、そんなことないぞ。な、ムサシ」

『グル?』


 振り返りムサシを見ると、サルワの目をほじって口に咥えていた。


「え、おま」

『グァ~……ん』


 そして、そのまま目玉を飲み込んだ。

 え、なにしてんのこいつ。


「ちょ、おま何してんの!? エルサごめん、おいムサシィィィィィィ!!」

『グルル? グルグル』


 ムサシは『人型形態』になると、反対側の眼も取ろうとした。


「待てマテ!! それリューグベルン帝国の至宝だぞ!?」

「至宝? おいサビューレ、どういうことだ?」

「いや知らんが」

「しまっ、これ内緒……ああああああ!! とにかくムサシストップ!!」

『きゅるる~……きゅあ』


 残念そうなムサシの尻尾を引っ張ると、ボボンと派手な音と共に、手のひらサイズに戻ってしまった。

 嬉しいが、ちょっとヤバイ。どうしよう……片目、なくなっちまった。

 頭を抱える俺。するとサビューレ団長が咳払いする。


「あー……レクス、お前はクシャスラ王国を救った英雄になったわけだが」

「あ、遠慮します。絶対に俺がやったとか、英雄として晒すのやめてください。無理ならここでお別れです」

「……訳アリの竜滅士だから仕方ないとは思うが……うむ」

「それに、戦ったのは騎士と冒険者のみんなです。国を守った英雄なら、俺じゃなくてもいいでしょう。エルサ、いいよな?」

「はい。あまり目立つのはその……わたしもレクスも望みませんし」


 とりあえず、クシャスラ王国は守ることができた。

 それに……一番の収穫は、ムサシの進化だ。

 俺は変化した紋章を見る。


「あれ? デザインが変わりました?」

「ああ、ムサシの変化と一緒にな。その辺、後で説明するよ」


 とりあえず、今は少し休みたいかな……さすがに疲れたよ。

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