騎士団長サビューレ

 綺麗な女性だった。

 薄い緑色の鎧、腰には剣、長くゆったりしたエメラルドグリーンの髪。

 年代は二十代後半くらいだろうか……大人のお姉さんって感じがする。

 クシャスラ王国騎士団長サビューレ。そう名乗り、俺に手を差し出した。

 とりあえず……差し出された手を握る。


「リリカから聞いた。貴重な情報を感謝する」

「……いえ」

「ああ、リリカを責めないでやってくれ。彼女は最後まで、情報源を明かそうとしなかった。だが……悪いが、私たちも必死なのでね」

「……何をしたんですか」


 つい、攻撃的な口調になってしまう。

 サビューレさんは苦笑し、俺に一礼する。


「きみが想像するようなことではない。誠心誠意、お願いしただけさ」

「…………」


 ああー……そういうことね。

 いち騎士であるリリカが、こんな風に団長様に頭下げられて、言わないわけにはいかなかったんだろう。まあ……バレるのは嫌だなーくらいにしか考えてなかったし、別にいいけど。

 でも、これだけは言うか。


「あの、俺の素性に関して詮索するのはやめてください」

「もちろん。私は、純粋に感謝をしているだけだ。そしてできることなら、竜滅士であるきみに『アカマナフ』討伐に協力してほしい」

「……それは厳しいです」

「なに?」


 察してくれよ……そもそも竜滅士なら、こんな風に旅なんかしてない。

 事情があるから素性隠していたって気付いてくれてもいいんだけど……もしかしてこの人、察し悪いのかな?

 今も少し考え込んでいるし……すると、グレイズさんがため息を吐いた。


「すまんな。団長は察しが悪くて……団長、竜滅士が身分を隠して旅をしてるなんて、事情があるに決まってるじゃないですか」

「……あ、そうか」


 おい、マジで察し悪いだけかい。

 なんか急激に親しみ湧いてきたかも。

 すると、グレイズさんが言う。


「レクスだったかな? きみが竜滅士であり、やむを得ない事情を抱えているとは思う。だが……国の一大事だ。どうか、きみが知っていることを新ためて説明してほしい」

「……俺が知っているのは、リリカに話した全てですけど」

「そうだな。だが……我々の疑問に対し、竜滅士の視点でわかることがあるかもしれない。どうか、協力してほしい」


 グレイズさんが頭を下げると、リリカも頭を下げた。

 サビューレ団長m、お二人を見て頭を下げる。


「わ、わかりました。ここじゃ目立つし、場所を変えましょう」

「では、騎士団の詰所に向かおう。王城にも騎士団の施設はあるが……そこでは目立つ」


 ありがたい申し出だ。

 団長さんたちと一緒に行動すると目立つので、俺とエルサはギルドに報告してから向かうことにした。


 ◇◇◇◇◇◇


 ギルドに報告し、報酬を三等分……一つは共用の財布に入れた。

 そして、エルサと一緒に騎士団詰所へ。

 詰所に向かうと、リリカが出迎えてくれた。


「レクス、エルサ……ごめんね」

「いいって。あんな風に頭下げられたら仕方ないって」

「……」

「リリカさん。落ち込まないでください」

「……うん。団長が待ってるから、案内するね」


 詰所に入り、団長専用の部屋へ。

 そこに行くと、グレイズさんとサビューレ団長がいた。

 俺、エルサが入り、リリカも部屋に入ってドアを閉め、鍵をかける。

 サビューレ団長は、軽く咳払いをした。


「さっそくだが……レクスくん、いくつか質問をしたい」

「俺に答えられることなら」


 団長、鎧を脱いだ姿だが……なんとまあ、立派な胸部だこと。

 おっと。女性って視線に敏感らしいし、あまり見ないようにしなきゃ。


「きみのくれた情報だが、大いに感謝している」

「……あのー、疑わないんですか? 俺、リリカにはドラグネイズ公爵家って言っただけで、その証拠とか何も提示していないんですけど」

「ははは。一目見ればわかる。きみは、嘘をつく人間じゃないよ」

 

 根拠ゼロ、感情論……なんか、不安だな。

 でも、信じてくれるのは普通に嬉しい。


「まずレクスくん。なぜきみはドラグネイズ公爵家を出たのかね?」


 俺は自分のことを話した。

 ムサシのことで実家を失望させ追放されたこと。竜滅士とは関係なく、冒険者として世界中を旅すること、その途中でエルサと出会い、一緒に旅をしていることなどだ。

 

「なので、俺を『竜滅士』として戦力に数えないでください。あくまで、冒険者のレクスとして協力します」

「うむ。知識を提供してくれるだけでもありがたい……だがまさか、アカマナフを討伐しに向かった竜滅士が敗北し、暴走したドラゴンが新たなアカマナフとはな……」

「間違いないと思います。魔竜である証拠に、アカマナフの目が黄金に輝いていました」

「ふむ……」


 サビューレ団長は考え込む。

 すると、グレイズさんが言う。


「レクスくん。その『魔竜』だが……弱点はないのかね?」

「あることはありますけど、意味がないです」

「何?」


 怪訝な表情のグレイズさん。俺は続きを言う。


「弱点は『寿命』です。魔竜は、暴走し急激な『進化』を続けるドラゴンです。急激な進化は寿命を大幅に削りますので……恐らく、一年か二年ほどで死ぬと思います」

「い、一年……」

「ドラゴンの寿命は、人間に依存しますので……」


 平均で八十年くらい。だが、魔竜となったドラゴンの寿命は、長くて一~二年だ。

 それを聞き、サビューレ団長は首を傾げる。

 

「だが、一年も待てないな。魔竜アカマナフは今も進化を続けているのだろう? 一年後にはクシャスラ王国が更地になっているかもしれん」


 大いに同感だ。

 俺は見たことないが、魔竜化したドラゴンが半年ほど姿をくらまし、半年ぶりに現れた姿は、最後に見た時の十倍以上で、『甲殻種』だったはずなのに翼が生え空を飛んでいたそうだ。普通、『甲殻種』は『羽翼種』と違って空を飛ぶことはできない。

 サビューレ団長が言う。

 

「寿命で死ぬのは期待できんな……やはり、騎士団と応援の竜滅士で討伐すべきだ」

「あと弱点と言えば……心臓ですね」

「ふむ……やはり、急所か」

「ええ。アカマナフは『羽翼種』です。『甲殻種』と違い、防御力はそこまで高くないはず。でも……竜滅士と味方のドラゴンを取り込んでいるなら、進化して姿も変わっているかも」

「だが、今はそれしかないか」


 サビューレ団長が立ち上がる……うお、胸がすごい揺れた。

 

「ひとつ、問題がある」

「問題ですか?」


 いつの間にか、俺とサビューレ団長の会話になっていた。


「ああ。実は、リューグベルン帝国にクシャスラ王国の現状を伝え、永久級の竜滅士の派遣が決まっているのだが……ここに来るのが二週間後になる」

「に、二週間って……遅い、遅すぎる」

「ああ。永久級がリューグベルン帝国を離れるのに必要な手続きが終わらないそうだ」

「…………」


 アホすぎる……何してるんだ、リューグベルン帝国。

 確かに、天級、天空級、彼方級は世界各国に散らばってる。永久級がリューグベルン帝国から離れるわけにいかないのはわかっているけど……今回はかなりヤバイ事態だ。そもそも、竜滅士が三人も食われて死んでるし、魔竜がどれだけヤバイかなんて言わずともわかっているはずなのに。

 二週間……魔竜がどれだけ進化をするのか、わからない。


「最悪……竜滅士抜きで、騎士団と冒険者だけで闘うことになるだろう」

「何度も言いますけど……俺のドラゴンはアテにしないでくださいよ。追放される理由になるくらいだし、察してくださいね」

「う、む」


 うわ、この人察してねえし。

 グレイズさんが頭を押さえ「やれやれ」と首を振る。


「……レクスくん。いち冒険者として協力してくれ。これまで戦ったアカマナフのデータを渡すから、きみなりに、竜滅士の視点で戦うならどうするかを考えて欲しい」

「……わかりました。それくらいなら、役立てると思います」

「それと、エルサさん。不躾な質問だが、キミは魔法師だね?」

「はい。一級魔法師です」


 するとサビューレ団長が驚く。


「一級魔法師!? それはすごいな!! なぜきみのような優秀な魔法師が……」

「団長、察して察して」

「あ」


 グレイズさんにまた怒られるサビューレ団長。

 まあ、一級魔法師なんてどこでも引っ張りだこ。俺と旅してるのは理由あるからって察してほしいね。

 サビューレ団長は咳払いした。


「こほん。二人とも……いち冒険者として、協力を頼む。もちろん報酬は支払うからな!!」


 こうして、俺とエルサはクシャスラ騎士団に協力をすることになった。

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