初依頼は薬草採取

「あ、ミュランさん。新人のご指導ですか?」

「ま、そんなところね。それよりこれ、お願いね」

「はい!!」


 ミュランさんが依頼書をカウンターに出すと、俺とエルサに言う。


「さ、どっちか冒険者カードを出して。依頼は依頼書と、冒険者カードの二つを出して受理されるの」

「あ、じゃあ俺が……」


 俺は冒険者カードを出す。受付さんが受け取った。


「この場合、依頼はレクスが受けたってことになるわ。あなたたち、パーティー登録してるわけじゃないわよね?」

「「……パーティー登録?」」

「あはは。じゃあ説明してあげる」


 パーティー登録。

 冒険者は最大五名までパーティー登録が可能で、パーティーで依頼を受けた場合、依頼の評価はパーティー全員の経験値となる。

 依頼を重ね、評価経験値を積んでいくと、冒険者の等級は上がる。

 この場合、チームを組んでいないので、依頼を受けたのは俺で、ミュランさんとエルサは同行者という扱いになる。同行者の場合、評価経験値は入らないのだ。


「──って感じ。それと、依頼にも等級があるのを確認すること」


 俺とエルサはF級冒険者なので、受けられる依頼はひとつ上のE級依頼まで。基本的に、今の等級のひとつ上までの依頼しか受けることはできない。

 すると、エルサが質問。


「質問です。ミュランさんはB級ですよね? 仮にミュランさんとパーティーを組んで、B級の依頼を受けたとしたら、その時の評価はどうなるんですか?」

「いい質問ね。その場合は、ひとつ上の評価になるわ。私はB級としての評価経験値を、あなたたちはE級としての評価経験値が入る。B級の評価経験値をもらってすぐに冒険者等級が上がるなんてことはないから安心ね。冒険者ギルドとしても、若く経験の浅い冒険者たちがすぐに死ぬようなことになってほしくないみたいだから」


 なーるほどな……ちゃんと考えてあるんだな。

 今回の『薬草採取』の等級はE級だ。異世界転生系の漫画でも読んだけど、あまり難易度が高くない。

 依頼の受理が終わり、冒険者カードと依頼書が返却された。


「今回の依頼を確認します。依頼内容は『薬草採取』で、キュア草を五十束、リフル草を五十束、キララ草を五十束納品をお願いします。それ以上の納品も可能となりますので、がんばってくださいね」

「わかりました」


 依頼を受理……冒険者として初の依頼だ。

 少しテンションが上がってるかもしれん。


「じゃ、行きましょっか」

「えっと……場所とか」

「お姉さんからのアドバイス。薬草の材料は探せばいくらでも生えてるわ。主に森や雑木林……ここに来る途中、いくらでもあったでしょ?」


 エルサを顔を見合わせると、エルサが言う。


「そういえば、ルロワの街の入口傍に森がありました」

「そういやそうだな……よし、行ってみるか」


 こうして、俺たちの初依頼が始まるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ルロワの街から少し離れた場所にある小さな森。

 入るなり、ミュランさんがしゃがみ、いくつかの草を抜いた。


「これがキュア草、こっちがリフル草、これがキララ草ね」

「え、もうあったんですか!?」

「ええ。いくらでも生えてるから抜き放題。だいたい、十本で一束、それを五十束ずつね」

「五十……」


 周りをみると、似たようなのがいくらでも生えている。

 はっきり言って、三人なら一時間かからないだろう。

 

『きゅいいー!』

「お、おいムサシ」


 すると、ムサシが俺の肩から飛び降り、低空飛行しながら雑草を抜き始めた。

 器用に抜いていくな。咥え、引っ張って抜くを繰り返している。


「あはは。あんたの獣魔は仕事が速いね」

「くっ……負けてたまるか」

「わわ、レクスも速いです!!」


 それから一時間ほど、とにかく薬草を抜いた。

 数を数えると、三種類で百束ずつ……納品数の二倍も抜いてしまった。

 それらをアイテムボックスに入れると、エルサが言う。


「終わっちゃいましたね……」

「ああ。なんか周囲が綺麗になってるし……草むしりしただけみたいな気もする」

「あはは。薬草採取なんてそんなものよ。稼ぎも少ないし、やっぱり人気があるのは魔獣討伐だね。でも、オスクール街道では魔獣なんてそう出ないし、みんなダンジョン目指して行ってしまう」


 ダンジョン。

 そういえばそんな単語を聞いていたが、聞き流していた。

 ミュランさんが座ったので、俺とエルサも座る。


「ミュランさん。ダンジョンってなんですか?」


 俺の質問だ。

 なんとなく理解はしてるが、経験豊富な冒険者から聞いてみたかった。


「迷宮よ。いつ、どこで、誰が作ったのかわからないけど、ダンジョンの中にはお宝がたくさんある……若い子もベテランもみんな、ダンジョンに魅せられて冒険者を目指すの」

「ダンジョンか……少し興味あるな」

「わたしも少しだけ」

「あはは。まあ、難易度が低いダンジョンもあるし、これから先、いろんな国を旅するなら入る機会もあるかもね」


 それから、俺とエルサはミュランさんから冒険者についてのイロハを教わった。

 時間もけっこう過ぎたので、俺たちはルロワの街へ戻り、冒険者ギルドへ。

 受付で、集めた薬草を納品。確認してもらうと、無事に依頼を終えた。

 

「こちらは報酬です。ご確認ください」

「えーと……鉄貨が八枚だな」


 この世界における通貨は日本と似ている。

 鉄貨が十円、銅貨が百円、銀貨が千円、金貨は一万円。白金貨が百万円ってところだ。

 白金貨だけレベルが違う。ちなみに俺、白金貨はそこそこの枚数持っている。ドラグネイズ公爵家の支援金ってかなりの額だったんだなあ……と、今更思う。

 つまり、薬草採取の報酬は八百円……やっす。


「え、えっとミュランさん……報酬は」

「鉄貨二枚でいいよ。あんたたち、素直でいい子たちだからね。私も久しぶりに初心に戻って薬草採取できたわ。ふふ、楽しかった」


 さすがに安すぎる。

 全部渡し、さらに財布から追加報酬を支払おうと思ったら、ミュランさんが俺の口に人差し指を添えた。

 

「いい? 冒険者になって初めての報酬は、鉄貨一枚でも大事なものなの。これから先、レクスとエルサは冒険者で稼ぐことが多くなる。きっと銀貨や金貨も当たり前のように稼ぐ……でもね、初めての報酬はそれの勝るか匹敵する重さなの。大事にしなさい」

「は、はい……」


 顔が近く、妙に色っぽくてドキドキしてしまう。

 ミュランさんは俺の口から指を放すと、にっこり微笑んだ。


「旅、か……私も、そろそろ別の国で仕事しようかしら。ふふ、またどこかで会えるといいわね」


 そう言って、ミュランさんは風のように去っていった。

 なんとなく、エルサを顔を見合わせる。


「……なんか、すごい人だったな」

「はい。レクス……なんかドキドキしてましたよねー」

「そ、そんなことないぞ。っと、これ報酬の鉄貨二枚。俺も二枚で、残りの二枚は共用の財布に入れておくからな!!」


 俺は誤魔化すように財布に入れ、何度も咳払いをするのだった。

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