自由時間

 さて、自由時間となった。

 久しぶりに一人……いや、肩にムサシを乗せている。

 

『きゅるるー……』

「どうした? メシ……は魔力食ったよな?」


 ムサシは周りをキョロキョロすると、俺の耳を甘噛みする。

 くすぐったいので人差し指でお腹をゴロゴロしてやると、気持ちいいのか喉をゴロゴロ鳴らす……ドラゴンというか、猫みたいだ。

 満足したのか、右手の紋章に飛び込んだ。どうやら昼寝するらしい。

 大手を振ってドラゴンを召喚しておけるのってありがたいな。


「と、武器屋……街の中心にあると思うけど」


 エルサはすでにいないが、俺は冒険者ギルドの付近をウロウロする。

 すると……あったあった。剣が交差したような看板。武器屋だ。

 武器屋、店名とかは自由に付けていいけど、『武器屋』のシンボルである剣を交差させた紋章を掲げなくてはならないってルールがあるんだよな。

 防具屋だったら盾、宿屋だったらベッド、薬屋だったら薬瓶とシンボルマークが決まっているらしい。理由は不明だが、これは世界共通だとか。

 さっそく店内に入ると、けっこうにぎわっていた。


「おお、これが武器屋……」


 リューグベルン帝国にいた時は、武器屋は『行く』ものじゃなくて『来てくれる』ものだった。ドラグネイズ公爵家御用達の武器屋が、大荷物持って専用の部屋で武器を紹介してくれたっけ。

 俺はこの刀みたいな剣が気に入って二本買ったんだよな……なんか懐かしいや。


「異世界系の漫画とかじゃ、ぶっきらぼうなドワーフ店主がいるんだけど……」


 店内は広く、いろんな武器が並んでいる。

 剣、槍、斧、ナイフなどの刃物。ヌンチャクやハンマー、木槌もある。弓は壁に掛けられ、矢はニ十本くらいの束がロープでまとめられて無造作に積んである。

 樽に差してある剣は粗悪品っぽいのか安い。壁にかけてあるのが高い剣か……うーん、すごい。

 店内には、若い冒険者たちがメインで、なぜか老夫婦や子連れの家族もいる。室内は広めのコンビニくらいで、店員さんは若い女性だ。

 なんか、俺が考えている異世界イメージと違うな……誰もいない店内で、ドワーフの店主がジロっと値踏みするような視線をちょっとだけ期待していたんだが。

 

「とりあえず……あ、剣の手入れ用オイルなんてあるのか。これいいな」


 剣用のオイルを手に取りカウンターへ。


「これください」

「はい!! 使い方はご存じですか?」

「えーと……塗ればいいんですよね?」

「はい。まず剣の汚れをしっかり落としてからご使用ください。使い方は剣に直接垂らすのではなく、布に馴染ませてから、磨くようにお拭きくださいね」

「なるほど……」


 すごい親切な店だ。

 悪くなるモンじゃないし、ちょっと多めに買っておこう。

 ちょっと質問してみるか。


「あの~……ここの武器って、鍛冶屋さんが作ってるんですよね?」

「はい。裏が工房になっていまして、当店所属の鍛冶師たちが制作しています」

「なるほど……」


 頑固おやじが一人で作ってるわけじゃないのか。

 なんか企業みたいだな……いろいろ発見があって面白い。

 オイルを買い、俺は店を出た。


「ふぁ……なんか眠いな。まだ時間あるし、少し昼寝でもするか」


 俺は宿に戻り、夕食の時間まで昼寝をすることにした。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 昼寝から覚め、宿の一階に降りると……エルサがカフェスペースのソファに座り、お茶を飲みながら読書をしていた。

 優雅なお嬢様って感じだ。というか、貴族令嬢だもんな。

 すると、エルサは俺に気付き、本を閉じる。


「あ、レクス。お部屋にいたんですね」

「うん。眠くてね、武器屋で剣用のオイル買って、そのまま寝てた」

「わたしは、面白い本を何冊か買って……旅の合間に読もうと思ってたんですけど、我慢できなくて読んじゃいました。えへへ」


 なんか可愛い理由だな。

 すると、紋章が熱くなった。どうやらムサシが起きたようだ。

 

「『召喚サモン』」

『きゅいい』

「きゃっ、もう、いたずらっ子ね」


 なんとムサシ、エルサの胸に飛び込んだ。

 エルサは手のひらにムサシを乗せ、人差し指で頭をなでなでしてるし。

 ふ……別に嫉妬はしないぜ。ドラゴンだもの。


「じゃあ、夕飯に行きますか。あの……行きたいところ、ありますか?」

「いや、ずっと寝てたし、特にないな」

「では、わたしが調べたお店でいいですか? お鍋のお店なんですけど」

「ほお、いいね」


 鍋料理か。

 個人的にはキムチ鍋とか好きだけど……まあ異世界にキムチはないだろ。

 エルサに案内されたのは、宿屋からほど近い鍋屋さん。

 店内は賑わっている。どうやら人気店みたいだ。


「予約していたエルサです」

「はいよ、二名様ご到着っ!!」

「え、予約?」

「すみません。その……気になっちゃって」


 エルサ、ぬかりないな。

 ついでに俺は店員さんに聞いてみた。


「あの、獣魔もいるんですけど、いいですか?」

「うちは小型までなら大丈夫っすよ!!」


 小型魔獣。成犬くらいの大きさだっけ。

 じゃあ全然大丈夫だ。ムサシを肩に載せて店内に入ると、個室に案内された。

 すでに予約したらしいけど、どんな鍋なのかな。

 そう思っていると……運ばれてきたのは、真っ赤な鍋だった。


「…………え? あ、赤いけど」

「これ、サラマンダー鍋っていうトカゲ肉と激辛香草を使ったお鍋なんですって。えへへ……実は、気になっていたお店で」

「げ、激辛……」

「はい。では、食べましょう!!」


 エルサは豪快にお玉で肉を掬い自分の皿へ。

 俺、ムサシにも大量によそい、さっそく食べ始めた。


「ん~おいしい!! でも、もうちょっと辛くてもいいかなあ」

「……」

『……』


 ムサシを顔を見合わせる……なんか真に心が通じ合った気がする。

 とりあえず、意を決して肉を食べてみた。


「───辛ッ!?」

『きゅあっ!?』


 この日、エルサが『激辛大好き』ということがよくわかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 まだ腹の中が燃えている気がする……でも、宿の朝飯を何とか完食。

 お腹に優しいシチューでよかった。胃よ、ゆっくり休んでくれ。


「今日は冒険者ギルドですね」

「ああ。依頼を受けてみよう」

『きゅううー』


 ムサシ、今日は肩でなく、俺の頭の上に座っていた。

 こいつもだいぶ慣れてきたな。でも、相変わらず小さくて可愛い。

 冒険者ギルドに到着すると……おかしいな、人があまりいない。

 そして、依頼掲示板を見ると、ろくな依頼が残っていなかった。


「あれ……少ないな」

「昨日とあまり変わってないですね……」


 首を傾げていると、後ろから声がした。


「そりゃそうよ。朝の戦場が終わったばかりだものね」


 振り返ると、そこにいたのは青を基調とした派手な服を着た、ショートボブのお姉さんだった。

 なかなかに露出が多い。胸の谷間とかすごい見えてるし、肩が剥き出しのジャケットに、ミニスカートを履いている……スパッツ履いてるから下着は見えないな。

 手には指輪。どうやらアイテムボックスで、武器などはそこに入れてるんだろう。


「あなたたち新人? 朝のラッシュを知らないなんてね」

「「朝のラッシュ?」」

「そう。依頼は早朝に掲示板の前に貼り出されるんだけど、依頼は早い物勝ちだからすぐになくなるの。今の時間で残っているのは、薬草採取やドブ攫い、あとはA級以上の冒険者しか受けられない高難易度討伐依頼とかね」

「へえ、そうだったのか」

「知りませんでした……」


 顔を見合わせる俺、エルサ。

 すると、お姉さんはクスっと笑った。


「なんていうか、あなたたち……あまり関心ないみたいね」

「まあ、冒険者ですけど、そこまで本気じゃないんで」

「はあ?」


 やべ、ちょっと失礼な言い方だったかな。

 エルサも「クレス、言い方」みたいな目で見てるし。


「えっと、俺たち冒険者ですけど、冒険と言うか旅がメインでして……あまり危険な依頼とかは受けずに、金を稼ぎつつ旅をしたいというか」

「……ふふ。別に気を悪くしてないわよ。なんか面白い子たちね」


 言い方、今度から気を付けよう。

 すると女性は俺とエルサ、ついでにムサシを見て言う。


「自己紹介がまだだったわね。私はミュラン。ソロのB級冒険者よ」

「レクスです。こっちは相棒のムサシ」

「初めまして。エルサと申します」

「……本当に冒険者のことわからないのね。冒険者の自己紹介は、名前と等級を名乗るのが礼儀なのよ?」


 それも知らなかった……うーん、こういうのって先輩冒険者とかから習うのかね。

 すると、ミュランさんは微笑んだ。


「やーれやれ。お節介なお姉さんはお世話したくなっちゃうわ。そうね……」


 ミュランさんは掲示板の前に立ち、残った依頼を物色。一枚の依頼書をはがす。


「よかったら、私がいろいろ教えてあげようか? 無理にとは言わないけど」


 依頼書には『薬草採取』と書かれている。

 エルサと顔を見合わせると、エルサは頷いた……うん、俺も同じ意見だ。


「じゃあ、お願いします。報酬は……」

「これ、三等分すればいいいでしょ。じゃ、受付行くわよ」


 ミュランさんに押され、俺とエルサとムサシは受付カウンターに向かうのだった。

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