戦闘
初めての野営を終え、片付けをし、俺とエルサとムサシは旅を再開……すぐ近くの村に足を踏み入れた。
ここは『村』って感じの村だ。ほどほどに整備された道、乱雑に並ぶ住居、住居の傍には畑があり、早朝なのにすでに仕事を始めている。
畑を耕すのは男性で、子供は石拾い、母親は肥料を撒いている……これがスタンダードな『畑仕事』なのか。
なんとなく眺めていると、エルサが言う。
「レクス、どうしたんですか?」
「いや……畑仕事が珍しくて。昨日、俺たちが食べた野菜も、あんな風に作られたんだなあ」
「くす……レクス、たまに変わったこと言いますね」
「そ、そうかな」
ただの畑仕事で、こんな風に考える元貴族はいないだろうな。
今更だが、やっぱいるのかな……悪徳貴族とか、劣悪な環境で売買している奴隷商人とか。
異世界、まだまだ知らないことだらけだ。
「さて、ここの村は素通りでいいかな」
「はい。えっと……地図、地図」
ちょうど村の中心へ来た。
観光客を意識しているのか、小さな商店や宿屋が並んでいる。さすがに冒険者ギルドはないな。
でも、観光向けなのかベンチもいくつかあったので、並んで座り地図を確認。
「オスクール街道はルロワまで伸びています。街道沿いに行けば一日でルロワの街に到着できそうですね」
「あー……それなんだけど、ちょっといいか?」
俺は地図にあるオスクール街道を指差す。
「ここを真っ直ぐに進めば……ここがルロワの街だよな」
「はい、間違いないです」
「提案だけど……オスクール街道じゃなくて、こっちの脇道を通って、迂回する感じでルロワの街に行かないか?」
「え……?」
俺は、オスクール街道ではなく、細い枝道のような街道を指差す。
国道じゃなくて県道を通るような言い方だ。高速道路を降りて一般道で行こうと提案しているわけだが……エルサは首を傾げていた。
「あのさ、エルサは戦闘経験あるか?」
「……お恥ずかしながら。学園での魔法実技がメインで……実戦は騎士に守られながら数度だけ」
「俺も似たようなもんだ。でも、これからは二人で、不意に魔獣と戦うことも考えなくちゃいけない。だから、魔獣が出現してもおかしくない場所を通って行こう」
「つまり……戦闘を」
「ああ。やる。それに……こっちの道を通ると、今日中にルロワの街には到着しない。また野営になる。昨日みたいに、村のすぐ近くで、魔獣が出現しない安全な野営ってわけにはいかない。でも……これから旅をする以上、そういうのにも慣れなくちゃいけないと思う」
「……なるほど」
「それに。俺は剣、エルサは魔法と役割分担してるけど、いざ戦闘になったら連携も大事になると思うし……」
「確かにそうですね。それに、リューグベルン帝国圏内は魔獣の一斉掃討があって、大型や危険な魔獣はほとんどいないって聞いたことがあります。現れるのは、討伐レートが低い魔獣ばかりとも……」
「そういうわけで、今のうちにある程度の経験は積んでおこう、ってことだ」
そこまで説明すると、エルサは頷いた。
「わかりました。それでいきましょう」
「ああ。じゃあ……せっかくだしそこの道具屋覗いて、必要そうな物資を買ってから行くか」
「はい!!」
安全なだけは旅じゃないしな。よし、気合い入れていくぞ。
◇◇◇◇◇◇
道具屋。意外と充実していた。
薪、食材を補充し、エルサはランプを買った。アイテムボックスにさっそく入れている。
そして、オスクール街道から分岐する細い道を通って迂回……道を歩いて気付いた。
「あんまり整備されていないな……」
「オスクール街道がありますし、こっちの道は地元住民しか使わないみたいですね」
住民は山菜採りなどでこっちの道を使うとか。さっきの道具屋でエルサが話を聞いていた。
さて、ここらで確認しておく。
俺はムサシを召喚。ムサシは外が嬉しいのか、クルクルと俺とエルサの周りを飛ぶ。
「なあエルサ。エルサは水魔法が得意なんだよな?」
「はい。攻撃魔法、治療魔法を習得しています。病気は無理ですけど……外傷なら任せてくださいね」
「頼りになる。俺は見ての通り、双剣をメインに使う」
「……メイン?」
「ああ」
ドラグネイズ公爵家は竜滅士の家系だ。
竜滅士はドラゴンを使役して戦うのだが、竜滅士本人が戦うこともある。現に、兄上は槍の達人だし、父上は大剣の達人。シャルネも弓の名手だ。
ドラグネイズ公爵家は武芸の名家でもある。片手剣、大剣、槍、弓で独自の流派を持ち、自分に合った流派を学ぶのだ。
俺は片手剣をメインで習い、さらに独自に改良を加えた。
それだけじゃない。俺は武器用アイテムボックスから『槌』を取り出す。
「これ……ハンマーですか?」
「ああ。メインは双剣で、サブ武器に攻撃力重視のハンマーを入れてある。それと遠距離用にこれも」
俺がアイテムボックスから出したのは『銃』だった。
ハンドガンが二丁……だがエルサは首を傾げた。
「これ、なんですか?」
「これは銃。飛び道具だよ」
銃。まさか異世界で拳銃に会えるとは思わなかった。
でもこれ、異世界ではほとんど流通していない。
理由はいくつかある。まず一つ……この世界で『火薬』は、砂金よりも高価なのだ。
そして弾丸、薬莢を作る技術が難しく、弾丸を作る技術者がほとんどいない。
そして一番の理由……こんなものを持たずとも、魔法師が一人いればそれだけで銃の代わりになる。なので、銃は存在するが、その存在を知らない者は多い。
この銃も、兄上が気分転換に連れて行ってくれた『古代武器オークション』で存在を知った。
俺は格安で銃を三丁手に入れた。
それを鍛冶屋に持ち込んで一丁を分解し、何丁かレプリカを作成。
弾丸についての記述を調べ、鍛冶屋に試行錯誤してもらって弾丸を作り上げた。金はあったし、火薬も商人に頼んで手に入れてもらった。
何度か暴発事故も起こしたが……一年ほどかけて、俺は銃を使えるようにしたのである。
成功作の弾丸も大量に作ってもらったし、弾丸の金型や火薬の予備、弾丸の製作法をまとめた図説も用意してるから、弾丸が足りなくなったら鍛冶屋に持ち込めばいい。
「双剣、銃、ハンマーが俺の武器。状況で使い分けて戦うんだ」
「へえ……三種類も」
昔、ハマったゲームの主人公スタイルなんだよな……とは言っても理解されないだろう。
でもこれ、けっこう理に適ってるし戦いやすい。
銃やハンマーは家族の前では見せなかったが、双剣はなかなか使いやすかった。
「よし。じゃあ役割を決めよう。まあ確認するまでもないけど……俺が前線で戦うから、エルサは後方でサポートをしてくれ」
「はい、わかりました」
『きゅううー!!』
「おっと。ムサシは……うん、危険だし紋章に隠れてくれ」
『きゅああああ!!』
「いでででで!? つ、つつくなって!! わかったわかった、お前も一緒に戦おう!!」
どうやらムサシは勇敢なドラゴンのようだ……こんな手乗りドラゴンなのにな。
◇◇◇◇◇◇
そしてついに現れた。
『ぎゅるるるる……ギヒヒ』
街道の藪から突然飛び出して来たのは、ゴブリンだ。
手には棍棒、ニタニタしながらエルサを見ている。
数は四匹。ゴブリンは群れる生物で繁殖力が非常に高い。一匹見たら十匹はいると思え……なんて、兄上が言ったのを覚えている。
俺は双剣を抜いて逆手で構える。
「アシスト、行けるか?」
「は、はい!!」
エルサも杖を構え、ムサシは……。
『きゅああ、きゅああ!!』
口からボッボと炎……というか火の粉を飛ばして威嚇。これは頼りになるな。
「じゃあ、行くぞ!!」
俺は飛び出しゴブリンに急接近。
『ギッ!?』
スパンと、一匹目の首を切断した。
三匹が驚く。悪いけど俺、足の速さはそこそこ自信ある……五十メートルは五秒ジャストくらいだし、戦闘で重要なのは体力だって思ってるから、毎日とにかくマラソンした。
ゲームのキャラクター、移動する時はずっと走りっぱなしだし、体力すごいと思ってるしな。たまに体力対りげー所があってゲージ切れると走れなかったり息切れするシステムもあるけど、そっちのがリアルでいいと思ってる。
俺は剣をクルクル回転させ、もう一匹のゴブリンを何度か斬りつける。
『ガガッ……グゲ』
「『アクアバレット』!!」
すると、俺の後ろから狙っていたゴブリンが、エルサの魔法で吹っ飛んだ。
水の玉、すごい速度だ……さすが一級魔法師。
『ギャウゥゥ!! ギャッギャ!!』
『きゅーっ!!』
そして、ゴブリンの周りを飛び回って火の粉を吐くムサシ。いつの間にか戦っていた。
ゴブリンは棍棒を振り回すが、ムサシは華麗に回避。
俺は笑い、ゴブリンに急接近して一刀両断。
ゴブリンは全滅。俺は双剣を布で拭き、鞘に納めた。
「さすがムサシ、やるじゃないか」
『きゅいい!!』
「レクス、お疲れ様です!!」
エルサも近づいて来るので手を出すと、首を傾げてしまった。
「ハイタッチだよ。冒険者はみんなやるんだ」
「えっと……こう、ですか?」
エルサも手を出したので、俺はパシンとその手を叩いた。
ちょっと驚いたエルサだが、すぐに笑顔になる。
「なんだか、冒険者みたいです」
「いや、冒険者だよ。それに……俺ら、いけそうだな」
「はい。よし、このまま警戒して進みましょう!!」
「お、おう」
エルサが気合いを入れて歩き出し、ムサシもその周りを飛んでいた。
ゴブリンは敵ではない。あとは……これから先に出てくる魔獣にちゃんと対処できるか、だな。
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