第2話娘は未来が見えるらしい

「パシューア!? 一体どういうことですか、いきなり父親になれだなんて。もっとしっかり説明してください!」




あまりの衝撃で脳が情報を処理しきれないがとりあえず詳しい説明を求める。




「この子は両親も、親戚もいなくてな。いわゆる天涯孤独というやつなんだ」




その年で可哀想とは思うが、つい半年前まで魔族と戦争を行っていた我が国ではさしてめずらしい話というわけではない。悲しいことだがよくある話というやつだ。




「気の毒だとは思いますが、それで俺が父親はちょっと。孤児院にでも入れれば良いでしょう?」




「まあ、落ち着き給え宵闇くん。話はここからだ。いいか? 今から言う話は私や軍部の数人しか知らないことだ。決して口外するんじゃないぞ」




パシューアの真剣な口調にこちらも身構える。そんな重大な秘密をこんな見るからに普通そうな少女が?




「彼女はな……未来が見えるそうだ」




とんでもない爆弾が落とされる。




「未来が見える? そんなことがあり得るんですか?」




「疑うのも無理はない。だが本当だ。ほら君も知っているだろう? 劣勢だったときに行われたあの忌々しい実験を」




「ええ、たしか動物に改造を施して特殊な力を身に着けさせるってやつでしたよね? たくさんの犠牲が出たって。ってまさか!?」




「ああ、最悪なことにそのまさかだよ。あのクソ野郎ども人間の子供まで実験に使ってやがった。彼女はその唯一の成功例ってわけだ」




子供をそんな非人道的な実験に使うなんて、あいつら人の心がないのか?




「そして宵闇くん、半端なところに彼女を置いとくと危険だということは分かるな? 一応情報はもれないように厳重に取り締まってはいるが完璧ではない。それで万が一バレてしまったときでも大丈夫なように世界一安全な君のそばに彼女を置いときたいってわけだ」




「なるほど、そういうことなら仕方がないですね。俺は納得しました。でもまずは彼女が俺を父親にするのに納得するかです」




彼女のそばに近づき腰をおろして目線を同じ高さにする。しばらくはまだもじもじしていたが覚悟を決めたのか秘書の前に出てくる。




「君は俺が父親になることに納得しているのかい?」




できるだけ恐怖を与えないように屈んで目線を合わせ、優しい口調を心がける。すると彼女は小さい声で答えた。




「……うん。そうすればいいって、みらい、みえた」




「そうか、それじゃあ君は今から俺の娘だ。あ、ところで君はなんていう名前なんだ?」




「なまえ? わかんない。でもまえいたところでは、ひけんたいなんばーせぶんっていわれてた」




あんまりのことにクソ野郎どもへの怒りが湧き出るが彼女を怖がらせないためになんとか押し殺す。




「そうか、それじゃあ俺が名前をつけてあげよう」




改めて彼女を見つめる。黒のブラウスと黒いスカートに身を包み、肩よりも少し長い髪は空のような青色、大きくぱっちりとした目も同じく青色。将来は絶対に美人に育つと期待できる容姿だ。




「シエルはどうだろう? 遠い異国の言葉で空をイメージする言葉なんだけど、君のきれいな髪と瞳の色に合うかなと思って。どうかな?」




ネーミングセンスに自信はないが自分なりに精一杯考えてみた。




「うん、いいなまえだとおもう。ありがとう」




気に入ってくれたようで何よりだ。するとパシューアが彼女に話しかける。




「良かったな。いい名前をもらえて」




「うん。ぱしゅーあも、いろいろありがとう」




「いやいや、子どもたちが幸せに暮らせるような世界を作ることが我々の仕事だからね。当然のことをしたまでさ。さあ、宵闇くん。そろそろ時間もないし最後にこれを、君の戸籍だ。これからは、レイン・アヴェーヌと名乗ると良い」




「わざわざありがとうございます。じゃあ君は今日からシエル・アヴェーヌだよろしくな」




「よろしく。と、と、」




何やら詰まっている様子のシエル。




「と、とうさん!」




そのときズキュウウウンと胸を銃で打たれたかのような感覚を覚えた。少し照れながら父さんと呼ぶシエル可愛すぎる。この天使一体どこの子!? うちの子です。どうもありがとうございます! 俺がそうやって悶えているとパシューアから




「お前、そんな反応するやつだったんだな。いつも真顔で任務遂行してる姿しか見てなかったからなんか新鮮な気分だわ」




となぜか呆れた表情で言われた。パシューアにはうちのシエルの可愛さが分からないのだろうか。なんて可哀想な人なのだろう。




なんとか気を取り戻し、パシューアに最後の別れを告げる。




「パシューア、今まで本当にありがとう。それじゃあ、またな」




「礼を言うのはこちらの方だよ。あ、もし奥さんができたら結婚式には呼んでくれ。それじゃあまたな、宵闇く、ああ、もう違うな。レイン・ ・ ・くん」




「ああ、じゃ、行くぞシエル」




「うん。ありがとうございました」




そうして、俺とシエルはパシューアの元を後にするのだった。


































「パシューア様。本当に良かったんですか?」




「それはどういう意味かね?」




「これから彼の力を借りないと大変なことあるんじゃないですか?」




「ああ、そのことか。それはもちろんある。だが奴はすでに十分すぎるほど働いた、これからは私たちの番だよ」




「……それもそうですね。それより彼ってあんなに子供に優しい方だったんですね。もっと冷酷な方だと思ってました」




「仲間からもそう見えていたということが奴の優秀さの現れだな。本来の奴は子供好きで優しい男だよ。暗殺者には向かない性質だったから教育には手は焼いたがな」




「パシューア様が彼の教育係だったんですか?」




「ああ、もう大分昔の事だがな。……さあ、これから大変だぞ。うちの国に潜む戦争を企てたクソ野郎共をつるし上げてこの仮初の平和を盤石なものにしなくては」




「はい!!」




「と、いうわけでこれからしばらく残業だ」




「うへえ、そんな〜」

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陰で魔王討伐を支えた暗殺者、一児の父となる 〜なお妻は魔王で娘は未来がみえる超能力者なもよう〜 @Ciel1024

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