陰で魔王討伐を支えた暗殺者、一児の父となる 〜なお妻は魔王で娘は未来がみえる超能力者なもよう〜

@Ciel1024

第1話プロローグ

コードネーム宵闇よいやみ、男は暗殺者であった。人並みの幸せ、戸籍、名前何もかもを捨て去り平和のために勇者パーティーによる魔王討伐を陰から支えた彼の任務はこの日終わりを告げた。




「宵闇くん、今日までの働き大義であった。勇者にすらバレずに陰から魔王討伐を支えた君の活躍が世間に広まることも、誰からか感謝を伝えてもらうことも、国からの勲章も何1つとしてないが、忘れるな。君のお陰でたくさんの人命が救われ、平和が訪れたことを」




「いえ、それが俺の仕事なので。……それにしてもパシューア、魔族との和平条約が僅か半年で結ばれるとは思いませんでしたよ」




あれだけいがみ合っていたのに意外だな。




「ああ、どうやら魔族サイドにもこの戦争を臨んでなかった我々のような勢力がいたようでな。魔王が討伐された後すぐにそいつらが主導権を握り交渉の席についたようだ。……それにしても少し早すぎる気がするがな」




なるほど、そういうことか。




「まあ、早く平和が訪れるに越したことはありません」




「……平和、か。そもそもこんな不毛な戦争は本来起こらずに済んだはずだったのだがな。戦争を企てた一部のクソ野郎共が魔物は魔族が生み出していて人間を襲わせているなどと嘘のプロパガンダを流布し、それに踊らされた馬鹿どもが騒いだせいでいらない戦いをすることになった」




この戦争ではおよそ3万人の死者がでた。しかし犠牲者のほとんどは皮肉なことに戦争による人手不足が原因で魔物の被害が抑えられなかった事によるものだったのだが、それが更に魔族が魔物を操っているという嘘に拍車をかけ、事態が悪化していった。




「頭が痛い話ですね。……それで次の俺の任務は何でしょうか?」




「ああ、その件についてなのだが、……君に依頼するような重要度の高い案件はもはや存在しない。これからは暗殺者をやめて自由に暮らしなさい。せめてものお礼にこれをやる。普通に暮らせば一生困らないだけの額は入っているはずだ」




急にこちらに投げられた袋をキャッチする。中には大量の金貨が入ってるようでなかなかの重みがある。




「パシューア!? そんな今更普通に暮らせと言われても困りますよ!」




「宵闇くん。私はね、君にも幸せになってもらいたいんだ。誰よりも平和を築くのに貢献してくれた君にも、ね」




今まで冷酷な顔で恐ろしい命令を下してきたパシューアが見たこともないぐらい優しい顔をしている…だと…!? この女こんな顔できたのか!? てっきり人が死んでも何とも思わないサイコパスだと思っていた。




「おい、宵闇くん。今なにか失礼なこと考えなかったか?」




「ハハ、まさか。それよりもパシューア、心遣い痛み入ります。今更私に普通の暮らしが送れるかは分かりませんが。……そうですね、これからは自分の幸せというやつを探して見ようと思います」




「ああ、ぜひそうしてくれ。……そして自由に暮らせと言ったすぐ後で申し訳ないが最後に頼みたいことがある。おい、彼女を連れてこい」




パシューアが傍に控えていた秘書に命令する。秘書が部屋を出てしばらくした後、今度はおおよそ7,8歳ほどと見られる可愛らしい少女を連れて再び部屋に入ってきた。秘書の後ろでもじもじしている彼女を横目にパシューアが話を続ける。




「それで、頼みというのはだな。宵闇くん、君にはこの子の父親になってもらいたい」




・・・ちちおや? 父? 親? 俺がこの子の? はあーーーー!?


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