第7話

 私達は順調にダンジョン内を進み、10階層に辿り着いた。


 この階に降りた瞬間に気付いたのは、前の階層よりも洞窟内の空間が広がっている事。これはおそらく、大き目の魔物が生息しているからだろう。


「ここには大型の魔物が出る。気を抜くなよ」

「うん」


 噂をすればなんとやらと言わんばかりに、突如として巨大な影が正面に現れた。


 右手の巨大な棍棒を振り下ろし、ヒロ君がすかさずそれを盾で防いだ。だが、巨体から繰り出されるその一撃に、受けきれず膝を付く。しかもそれで攻撃は終わらず、続けて横振りに繰り出された一撃を受けて、ヒロ君は大きく吹き飛ばされた。


「ぐあぁッ!」 


 私の横をヒロ君が通り抜け、洞窟の壁に叩きつけられたヒロ君の悲鳴が背後から聞こえた。


「ヒロト! くそっ! やっぱりオークか。あんたはヒロトの治療をしろ! こいつは俺達二人で倒す!」


 そう言って男と女がオークに向かっていく。ゴブリンと同様に緑色の肌をした魔物だが、豚のような顔をしたその巨体は優に2メートルを超える。腕や脚はプロレスラーの様に太く、すさまじい筋力を持っていることは想像に容易い。


 戦う二人は無視して、私はヒロ君の下に向かう。


 骨折しているのか腕はあらぬ方向に曲がり、額からは血を流していたが、まだ息はあるようだった。


 あぁ、私のヒロ君がこんな悲惨な目に。こんなに血が……。

 ヒロ君の血……少しくらいもらってもいいよね?


「くっ……」


 ヒロ君が小さく呻く。

 眺めてる場合じゃなかった。早く治療しよう。


 手をかざして治癒魔法を発動すると、一瞬にしてヒロ君の体は完全な状態へと回復する。


「ありがとうラビッツさん。これでまた戦える」


 決意を固くヒロ君は剣を手に立ち上がる。

 だけど、ヒロ君では太刀打ち出来ないのは、先程の防戦で明らかだ。

 

「お止めください勇者様。あの二人に任せ――」


 そこまで言ったところで、横を何かが通り過ぎていった。


「兄さん!」


 女が叫ぶ。

 飛んで来た何かに目を向けると、彼女の兄が傷だらけで倒れていた。


 オォォォォォォッ!


 オークが雄叫びを上げて女に襲い掛かる。それを阻止するように、ヒロ君が盾を構えてその前に躍り出た。


 どれだけやられても治療することは可能だが、2度もヒロ君をやらせはしない!


 右手をヒロ君に向けて伸ばし、身体強化の魔法を掛ける。ヒロ君の体は光に包まれたように淡い光を放ち、オークの巨大な棍棒の一撃を見事に受け止めた。そして、反撃と言わんばかりにヒロ君が剣を振るう。だが、それを察したオークはその巨体を大きく反らして剣の一撃を躱した。


 ガァァ……。


 躱したはずの一撃に体を両断され、オークの上半身が地面に落ちる。下半身がその上に覆いかぶさるように倒れ、それ以上動くことはなかった。


「や、やった!」


 喜びの声を上げるヒロ君。


「ありがとうヒロト! もうダメかと思ったよ」


 そのヒロ君に抱き着く女。


 胸を押し付けるな! こいつ絶対にヒロ君のことを狙っている。もういっそここで死にかけてる兄共々殺してやろうか?

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