第5話

 三人揃って私を魔術師呼ばわりするのだが、あながち間違いではない。普段良く使うダークブレイドは闇の刃を飛ばす魔法であり、剣技ではない。というか、そもそも剣は騎士っぽく見せるための飾りである。


 ならば、ヒーラーというのは嘘になるかというと、そうでもない。私は闇魔法と同時に、神聖魔法が使えるからだ。


「ち、違います。この恰好を見て分かりませんか? どう見てもヒーラーです」


 と訴えてはみたが、男と女はこちらに向ける訝し気な目を止めない。


 ただ、ヒロ君は違ったようだ。


「彼女がヒーラーというのだから、信じて上げよう。これからダンジョンに行くんだけど、一緒にどうかな?」


 あぁ、ヒロ君やっぱり優しい! 横にいる虫けらとは大違いだよぉ!


「はい。宜しくお願いします、勇者様」


 こうして私はヒロ君と共に、王都から少し離れたところにあるダンジョンに行くことになった。ちなみに、虫けら二人も付いて来るようだ。


 探索するのはロキアの洞窟と呼ばれるダンジョンで、内部は名前の通りただの洞窟のようになっている。


 男が中に入る前に、自己紹介しようと提案してきた。正直、ヒロ君以外興味ないのでどうでもいい。


「俺はベル=ファレス、両手剣士だ。この大剣による重量級の物理攻撃を得意としている」


 青い髪に青い瞳、この世界の標準的な人間の姿で、高そうな白い鎧に身を包み、

背中には大きな剣を背負っている。


「私はエナ=ファレス。彼の妹で、主に弓で戦うけど、風魔法も多少使えるわ」


 長い髪をポニーテールにした活発そうな女で、軽装備に背中に弓と矢筒を装備している。ただ、腕やおへそや太腿がやたらむき出しで、ヒロ君を誘惑してるかと思うと殺意が沸く。


「僕は夕凪 弘人。異世界から召喚された勇者です。武器は剣ですが、盾もありますので前衛で敵の攻撃を受けます」


 大丈夫、ヒロ君の傷は全部私が癒すからね!


 ヒロ君達が自己紹介を終えると、こちらに視線が集中した。

 やっぱり私もしないとだめか。


「私はリーリル=ラビッツです。神聖魔法全般が得意です」


「兎……」


 ヒロ君がポツリと呟いた。


 もしかして、前世の私を想ってくれているのだろうか?

 私の前世の名前は兎山 瑠璃とやま るり。兎の文字が入っていることから、よく兎がモチーフになった物を持ち歩いていた。カバンにも兎の缶バッジを付けていたし、ヒロ君がそれを「可愛いね」と言ってくれたこともあった。


「全般って、あんたほんとにそんな使えるの? とても実力があるようには見えないんだけど?」


 女が不愉快に挑発して来る。


 ヒールという名のダークブレイドで真っ二つにしてしまおうか?


「ま、俺達がヒロトを守るから、回復は必要ないかもしれないけどな」

「そうだね。私達兄妹がいればこんなところよゆーよ。任せてよね、ヒロト」


 あん? なんなのこの二人。なんで二人してヒロ君のこと呼び捨てにしてんの? ヒロ君は世界を救う勇者よ。もっと敬って勇者様って呼びなさいよ。


 決めた――こいつらはダンジョン内でモンスターに殺されたことにしよう。


 そして、ヒロ君と二人っきりでダンジョンをクリアするのよ!

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