第3話
「何を言ってるんですか黒騎士殿! 勇者を見逃すなど言語道断ですぞ!」
「死ぬわけにはいかないと言っているのだから、仕方なかろう」
「何を言っているんですか! これまでも命乞いしてきた勇者を容赦なく殺して来たではないですか!」
ノスは何としても勇者を殺させたいようだが、私は何が何でもヒロ君を逃がしたい!
「それは……生かす価値のない勇者だからだ。しかし、彼は違う。我の攻撃を2度も受けまだ立っている。これから先、成長していけば強敵とも言える存在となるだろう」
「だったら尚の事――」
「だが、それで良い! 我は全力で戦える相手を待っているのだ! そのためならば、勇者の一人や二人、何度でも見逃そう!」
私が強く宣言してやると、ノスは深いため息を付いた。
「分かりました。好きにして下さい。ですが、魔王様には報告させてもらいます」
魔王か……一度見たことあるけど、あんま強そうじゃなかったし別にいいや。
ヒロ君の方に向き直り、魔力を彼の中心に向けて集める。
「そういうわけだ。強くなれ、勇者よ。我をガッカリさせぬようにな。見逃しついでだ、王都まで飛ばしてやろう」
「この場は素直に礼を言っておくよ。だけど、僕は強くなって、また魔王軍を倒しにくる。その時は、僕が君を倒す!」
「楽しみにしている」
その言葉を最後に、私は転移魔法を使ってヒロ君を人間の国の王都、それも治療院の前に転移させた。一緒に切れた腕も送っておいたので、あそこの人達ならくっつけてくれるはずだ。
「どうなっても知りませんよぉ」
ノスは、最後まで納得いかない感じであった。
ヒロ君にまた会えた。ヒロ君がこの世界に来た。ヒロ君が私に会いに来てくれた。私の為に、私だけのヒロ君が。
ヒロ君ならきっと強くなってくれる。
そして、また私に会いに来てくれる。
あぁぁぁぁぁぁ、でも今すぐ会いたいよぉ。近くじゃなくてもいい。遠くからでもいいから24時間眺めていたい!
「黒騎士殿。今度は東の砦に勇者が現れたようです。まぁ、貴方が援軍に行く必要はないと思いますが」
大陸の中心に位置する魔王領は、周囲を取り囲む人間から身を護るため、8つの方角に砦を設けている。それぞれの砦には、普通の魔族とはかけ離れた力を持った者がおり、その者達は守護者と呼ばれている。
私が守護しているのは北の砦で、大国バルディア王国からの攻撃を防いでいる。
他の砦にはどんな守護者がいるのか知らないし、興味もない。それに、今この世界に存在する勇者では、おそらくどの守護者も倒すことは出来ない。
勇者は世界を守るという人間達の大義名分によって、砦に攻めて来ては返り討ちに遭って死んでいく運命なのだ。
あれ? でもそれって、ヒロ君も同じ運命なのでは……?
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