第2話

 今日もまた、勇者がやってきた。


 今回も白い服を着た神聖魔法を使う女と、魔術師の中年の男が後ろに付いていた。


 そういえば後ろに付いている二人って、なんかいつも見た目が同じ気がする。それは勇者も同じか。量産品なのか安そうな鉄の兜に胸当てと腰当て、武器は見た目豪華だが明らかに何の効果もなさそうなハリボテの剣。口調や仕草から毎回別の召喚者であることは確実だが、装備は全く一緒かもしれない。


 まぁ、いいや。どうせ今回も瞬殺するだけ。


「ダークブレイド」


 闇の刃を一閃。横薙ぎに放った漆黒の刃が真っ直ぐに進む。ほとんどの勇者はこれで終わる。


 だが、今回の勇者は違った。何か悟ったのか刃が放たれる瞬間に、地面に伏せるように頭を下げた。それにより、黒い刃は勇者の兜だけを消し飛ばし、背後にいる二人の胴体を上下真っ二つに切り裂いた。


「驚いたな。我が刃を躱したのは、貴様が初めてだ」


 勇者は殺された二人の方を見た後、こちらに向かって怒りの目を向けた。


 兜が無くなり素顔が露わになった勇者の顔は、どこにでもいる日本の高校生という感じの顔立ちであった……。


 え? あれって……ヒロ君?


 間違いない。私が彼を間違えるはずがない。


 この世界に来て、もう二度と彼には会えないと思っていたのに……。


 ヒロ君が、ヒロ君が、私のヒロ君が目に前にいる!


 本人!? 本人だよね!?


「死ぬ前に、名前を聞いておこう」


「殺されるつもりはないけど……僕の名前はヒロト。異世界から召喚された勇者、夕凪 弘人だ」


 あぁぁぁぁぁぁぁ、間違いない。ヒロ君だ!


「あんたの名前は?」

「我の名など聞いても無駄だ。生きて帰れぬのだからな」


 と言いつつ、どうやってヒロ君を助けるか考えている。隣にはいつも通りノスがいる。魔王軍幹部として勇者を逃がすことは不可能に近い。


「黒騎士殿。そろそろ終わらせては?」


 いつもより時間を掛けているせいか、急かされた。


「ダークブレイド」


 再び闇の刃を放つ。今度は反応出来ず、黒い刃はヒロ君の右腕を奪った。剣を握ったままの腕が宙を舞う。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 ヒロ君は絶叫し、壮絶なる痛みに地面に倒れ伏した。


 ごめんなさいヒロ君……でも、苦痛に歪む顔も素敵だよぉ。


「腕だけ……」


 隣でノスが驚きの声を上げる。


「やはり、奴には何か特殊な力があるようだな」

「勇者の特殊能力という奴ですか」


 狙い通りノスは勘違いしてくれた。


 痛みに顔を歪めながら、ヒロ君はこちらを睨みつける。


「僕は……この世界を救う勇者だ。ここで死ぬわけにはいかない!」


 口から血を吐きつつも力強く宣言するヒロ君を、しかしノスはそれを鼻で笑い飛ばした。


「愚かなッ! 貴様のような雑魚勇者で、我らが王を倒せるわけがないだろう!」


 ヒロ君を笑ったこのゴミを今すぐ殺したい!


 という感情を押さえつつ、これは好機だと感じた。


「ここで死ぬわけにはいかない……だと」


「無意味な言葉ですな。次の一撃で確実に死ぬというのに」


 隣でノスがまた勝手に口を開く。


「死ぬわけにはいかないのなら仕方がない――見逃そう!」


「エエエェェェェェェェェッ!!!」

 

 隣でノスが耳障りな程に大きな声を上げた。

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