第16話『諜報班と哨戒班』

「ネム先生。アナタ、何か企んでますね?」

「なんの話ですか?」

「言った通りですよ、ネム先生」

 シアンの目つきが変わった。

(どうやらこっちがコイツの本性か。それよりなぜ勘づかれたんだ?)

「根拠はどこにあります?」

「ワタシは鼻がいいんです。簡単には誤魔化せませんよ」

(なるほど、心理が分かる嗅覚系のイデクラか……)

「もし俺が何か企んでるとしたら、どうするつもりです?」

 シアンはネムを睨む。

「……いや、今ところは何もするつもりはないです……ただ質問をしただけですよ。……あと、追加で一個聞きたいことがあります」

 ネムはもちろん下手な質問は誤魔化すつもりだったが、それは難しいだろう。

「アナタは『バーテックス』をどう思っていますか?」

 この質問の意図にはたくさんの意味がある。

 

【仮定1】

 シアンが『バーテックス』の人間で、ネムを『革命軍』の派遣メンバーと疑っているという仮定。この場合の質問の意図は、バーテックスの忠誠心を図ることだろうが、敬するような嘘をついても彼のイデクラ嗅覚でバレてしまう。

 

【仮定2】

 シアンが『革命軍』のスパイで、ネムを『バーテックス』の調査隊と疑っているという仮定。この場合も同じ意図だが、『答え方』によってシアンの反応が分かれる。

 

 ネムの立てた仮定が思考を巡らせた。逆説である二つの仮定を突破するために導き出した答えは……

「……『あなたと同じ』ですよ」

「………………」

 シアンはネムの目の奥底を深く見つめ、少し混乱したように感じた。

 そう、ある種の『同化』だ。この答えからはネムの心理を知ることは出来ない。シアンのイデクラ嗅覚は抹消される。ネムはどちらの仮定を引いてもいいように『あいこ』を出した。

「……そうですか」

 シアンは深く考え込んでるように見えた。しかし『あいこ』である限りこの心理戦は続く。これは次の会話に入るまでの考える時間を稼ぐための作戦でしか過ぎない。ネムは唾を飲み込む。だが……

 キーンコーンカーンコーン……

 薄暗い廊下にチャイムが鳴り響く。

「……はい!変な話はここまでにしましょ!ホームルーム始まりますよ」

「おっ、おう……」

 シアンの目つきが元に戻った。きっとこういう表裏の仕事に慣れているんだろう。

(シアン……とりあえず要注意人物だ)

 今回はとりあえず逃げ切ったが、これからの展開が思ったより早そうだ。





「……うん!分からん!」

 休み時間の教室が楽しい会話で染まっている中、困惑の声が聞こえてきた。

 前の世界に学校というものはすでに無くなっていたが、いざ学校の来るとその勉強内容は難しいものだ。その上、理系である。

「文句言っても仕方ないわよ。でも最低限のことが出来てればそれでいい」

 最低限のレベルはどこかによるが、理系の最低限は常人の最低限とは違うのは確実だ。

「とりあえず物理分野とかどう?いける感じ?」

 スイセイがそういうと物理の参考書をネコガミにゼロ距離で広げてきた。

「もう分からん分からん……導体とかゴムが絶縁体とかなんとか…」

「もうあんたねぇ……」

 スイセイは天を仰いだ。その上は天井だが。

「ねねネコガミさん!イデクラ見てみたい!」

 同じクラスの子が会話に入ってきた。その子の後ろにも、もう一人いるが少し顔を出しながら背後隠れている。

「あっ紹介してなかったわ。彼女も同じ部活の巫音みね咲希さきと、その後ろは霧崎きりざき詩織しおりよ」

「よろしくね!ネコガミさん!」

「よっ……よろしくおねがいしますぅ……」

(なるほど、明るい系と人見知り系か…)

 『科学研究部』……スイセイたちが所属している部活、というよりも同好会みたいな感じだ。研究部は科学部とは違い、学んだことを活かすというよりも色んなことに手を出して結果を導くという活動がメインであるが、実は顧問のナルセが率いる『バーテックス』に対抗する集まりというわけだ。きっと自分が男ということもバレている……ちなみに部員はスイセイ含めて3人しかいない。

「よろしく、はい、お花」

 ネコガミはサキに創造した花を手渡した。

「うわ綺麗!スゴイ能力だね!強そう!」

(最初はみんなそう思うだろうな……制限があることも知らずに……)

 ネコガミは何も言わず目を逸らした。

「もうすぐ次の授業よ。たしか……銃訓練ね、外の訓練所だから早めに行きましょ」

「訓練!?やったね!」

 ネコガミが墓から復活したゾンビのように飛び上がる。

「まるで脳筋……」

(あなたのイデクラ創造はもっと知識を増やせばもっと強くなるのに、ね……)





「今日は外部から来てもらったシバ先生が指導してくれる。集中して取り組むように」

「「はい!!」」

(これは……思ったより緊張するなぁ……)

 この時間はシバの初訓練授業担当である。幸い、ネコガミのスイセイがいるクラスだ。

「今日の訓練内容は自分の扱う武器や適正距離を見つけることだ。君たちはもう少しで3年生だが、改めて自分を見直してもよい。……ではシバ先生、あとはお願いします」

 思ったより投げやりだった。

「あっじゃあ、ではまず武器の種類等を一つ一つ紹介していきます」

 シバはあらかじめ後ろに駐めておいたトラック型の武器庫からスナイパーを取り出す。

 これは『ブレイザーR93』モデルの光線銃である。他の狙撃銃との違いはボルトアクションが、ストレートアクション式になっているということだ。簡単に言えば、コッキングを素早く、簡単にできる画期的な銃。本当は静かに、かつ俊敏に動ける諜報に合う小型の銃の方が詳しいが、一発目の授業でそれはつまらないのでダイナミックなものにした。これはとりあえず俺の好みで選んだ。

「みんなの知っている通り、スナイパーは遠距離武器だ。物によっては戦車を撃ち壊せるモデルもある。じゃあ、一回撃ってみるね」

 …………あれ?

(まずいこれはタイプが少し違うのか?……ボルトがうまく引けないぞ…)

 生徒内で少しざわつき始めた。

(うわ、なんとかしないとな……)

 ………………

 ネコガミは隣のスイセイにヒソヒソと声をかける。

(……そういえば自衛のためにこんな軍隊みたいなことするの?)

(……ここは将来バーテックスの特殊部隊になる人も育ててるのよ。革命軍とか反逆者にナメられないようにね)

 シバは顔を上げると、整列しながら静かに会話をしていた二人が視野に入る。

(ネコガミ様なら多分俺よりもこういうスナイパーが詳しいはずだ。すまないネコガミ様、あとは任せた!)

「そうだ、誰かに撃ってもらうかな……じゃあそこの白猫の子、やってみようか」

「……えっ、じ、自分?」

 シバは申し訳なさそうにネコガミにアイコンタクトを送る。

(すまないネコガミ様……)

(シバさん、後で覚えておいてくださいね)

 ネコガミが前に出て、銃をいじり始めた。

「おっあの転校生の子、遠距離適正だったよね」

「ユキちゃん!期待してるよ!」

 後方から声援などが送られてきた。

 ………………

(うわぁ、なんかうまく引けませんね、これ)

(だよな……)

「あのシバ先生、大丈夫ですか?」

「あっ……大丈夫です。今やり方教えてます」

 シバは何事も起きていないように誤魔化した。

(あっシバさん!もしかして光線型だから、エネルギーを貯めて撃てばもういけるんじゃないですか?)

(そうか、もしかしたらそうかもね)

 ネコガミは地面に伏せて、遠くの的をレンズ越しに捉える。

「じゃあ撃ちますね」

「どうぞ」

 ギュイーーーーーーーーン!!!

 チャージ音とともに周辺から光粒子のようなものがスナイパーに集まる。

(あっちょっとヤバいかもしんないっす)

(うん、そうだね)

 シバは何かを悟り、笑顔で肯定しか出来なくなってしまう。ネコガミは焦って引き金を引く。

 ズドオオオオオオン!!!!

 銃口から太い光線が放たれ、的どころか奥の森の木々を突っ切ってまっすぐ飛んでいった。

 生徒たちのざわつきが消えて静まり返り、全員が唖然とする。だが、その中で一人だけ、顔に手を当ててため息をつくスイセイがいた。

(……目立ってどうするのよ、あのバカケモ耳二人は……)





【あとがき】

読んでいただきありがとうございます。

今回はカラパレ3人展開となりました。

ネコガミ・シバに比べると、ネムはかなり不穏ですけどね……

次回も楽しみにください!

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