第17話『平凡』

 シバの指導により、生徒たちは自分に合った武器や距離を見つけるためにそれぞれの場所に分かれて訓練を始めた。

「シバさん、ちょっといいですか」

 うろうろ周回していたシバにスイセイが声をかける。

「さっきの狙撃銃についてなんですけど……」

「あーさっきの、これが?」

「その銃は多分ですね、扱った人の『エネルギー量』に基づいた威力の出る光線銃だと思います」

 シバのさっき出来た疑問がすぐにも解消された。

「なるほどね、そりゃネコガミ様が使うとあーなるわけだ」

 ネコガミのイディオシンクラシー『創造』は、あらゆる物体や物質を光粒子から生成することができる。彼の『エネルギー量』は直接能力に反映しているため、変換効率は高い。まさにネコガミの持ち武器と言っても過言ではない。

「なら、この銃はネコガミ様に渡したほうが良さそうかもね」

「いいえ、それは違います」

「?」

 スイセイが食い気味に否定をする。

「正直、得意なものを伸ばしてもバーテックスには対抗できるとは思えません」

「と言うと?」

「適正距離を増やす……いや、そもそも『無くす』べきです」

 シバはスイセイの話には半分だけ理解し難かったが、半分だけ理解できたように感じた。つまり、適正とかではなく、全てに適応しろということだろう。

「シバさん、あなたの近距離での能力、実力はデータで承知しています」

「なるほど……『武器』で遠距離を補って、全距離に対応出来るようにする……ということか」

「そうです。なのでシバさん、その銃は、あなたの武器ものです」

「俺の武器ものね……」

 この銃の重みは果たして『鉄の塊』か、それとも俺への『期待』だろうか……


 



 太陽が頂点に達してから少し過ぎた昼過ぎ、ネムは昼飯をいただくために食堂へ向かった。メニューの看板や広い食堂を眺めていると、ナルセが先に座っていた。

「隣、いいか?」

 ネムは先にメインメニューである熱々のカレーを注文し、おぼんごと運んで話しかける。

 ナルセは口にご飯を含んだまま「うん」っと頷く。

「ネムくん、学園はどうだい?」

 ご飯を飲み込んだあとやっと口を開く。

「授業自体はまだやってないからなんとも言えないけど、生徒たちはみんなすごいイデクラの持ち主だね」

「そうだね、自慢の生徒たちだ」

 ナルセがそう言うと、コップの水いっぱい飲み切った。

(この人……所々ネコガミ博士はかせに似てんなぁ……性格は真反対だけど。あっそういえば…)

「ナル先生、ちょっといいか?」

「おうどした」

「前に言ってた『イデクラの秘密』ってどういう……?」

「そうだな……君はイデクラが無いようだが、知りたいか?」

 ネムは好奇心に任せて頷くと、ナルセは淡々と語り出した。

「そうだな……これは7年前の話になるんだが……」

 こういう長そうな話にはもう慣れている。ネムは真剣に耳を傾けた。


 7年前…………ナルセがバーテックスの研究部門からおろされた頃だ。意気消沈していた彼はある男と出会った。

 その男も白衣を着ており、同職だと思ったナルセだが、バーテックスでその男を見たことがなかった。そして男は腕に、見覚えのある幼い女の子を抱えていた。その時、ナルセは別の機関の者だろうと考えた。すると、その男は話しかけてきた。

「貴方にこの『資料』を渡しておきます。研究の副産物ですが、きっと役に立つでしょう」

 ナルセは数十枚の紙を渡され、突然のことに困惑していた。そして……

「それは埋め合わせです。実のところ、貴方にお願いしたいことがあります」

 未だに全てを理解していないナルセだが、彼は一旦その話を聞いた。

「この子を……預かって欲しいのです」

 そういうと、男を抱えていた女の子の顔をナルセに見せた。

「この子は……」

「そう。『実験体』の子です」

 その時のナルセは心の中で何かを決心し、その女の子を引き受けた。

「しばらく経ったのちに、その子の『色』を回収します。高確率で僕じゃないですが、待っててください。それでは、もう行かないといけません。僕はこれで……」

 ナルセはまだ聞きたいことが山ほどあったが、彼はその場から離れてしまった。


 ………………

「その男から貰った資料が『イデクラの秘密』だ」

 ネムは予想もしない話を聞かされてキョトンとした。

「いやもちろん本題はその資料の話だけど……ちょっと女の子の方が気になり過ぎるんだけど?」

 ナルセは遠い昔を眺めるかのように天井を見た。

「でどこにいるんだ、その子は」

「……スイセイ、彼女さ」

 この答えにネムは先ほどよりも理解に追いつけない様子である。

(……スイセイが……?『実験体』……?)

「……続きは放課後に話すよ。皆んな集まるしね」

 ナルセはそう言いながら席を立ち上がり、食器返却口に向かう。

「………………」

 昼休みのピークが過ぎ、食堂の空き席が増えていく。あんなに熱かった手元のカレーがすっかり冷めていた。





「いやー、やばかったなーあの狙撃銃の威力」

「貴方すごいね。あまり目立って欲しくなかったけど」

「えっなんで?」

「面倒だからよ!」

 目立ってしまったら、もはやスパイといえるのだろうか。

 食後の昼休み、ネコガミはスイセイに連れられて再び訓練所に来た。

(シバさんは、説得できたわ……あとはコイツだけね)

「そういえば、なんで訓練所に来たん?まだ腹パンパンなんだが……」

「お察しのお通りよ、貴方にはやってもらわないといけないことがあるの」

 ネコガミのやるべきことは……そう、『近距離』での戦闘能力を身につけることである。彼の遠距離攻撃の威力はカラーパレットで一番、なんなら防衛隊よりも上かもしれない。しかし、近距離の戦闘能力は……ほぼ皆無である。

「あなたは近距離で戦ったことある?」

「そうだなぁ…防衛はバリアでなんとかいけるけど、攻撃はダメだ」

「拳銃とかナイフとか作ればいいんじゃないの?」

「ナイフはね、うまく創造出来なかったんだぁ……すぐ刃こぼれしちゃうのよ。一応前にシバさんとバチバチやった時に見よう見まねでやったけど、かすりもしなかった」

「それはそうよ……あの人プロだもの」

 スイセイは深く腕を組んだ。

「拳銃の方はグロック系を真似て作ってみたら一応上手くいった。でも……」

「でも?」

「上手く照準が合わせられないんだよなぁ……多分だけど焦っちゃうんだよねぇ。でもスナイパーはさ、時間も少しだけ生まれるし、急に攻撃されることないじゃん?しかも単独で離れてるから……あと、慣れかなー」

(戦場にいるから攻撃されるリスクがある時点であまり変わらないと思うけど…………でも……)

「どしたスイちゃん、悲しい顔して……」

 スイセイはネコガミを自分と照らし合わせてみた。これは戦闘とは関係なく、心の内面の話。

 

 離れることで生まれる『安心感』

 

 だが、そこには『孤独感』が生まれてしまう。

 

「いいえなんでもないわ。てか次その呼び方したら、撃ち抜くわよ」

 ネコガミは「ヒィィ」と手を上げながら一歩後ろに引いた。

「よし、なら私が剣術と体術、あと拳銃の使い方を教えるわ。覚悟しなさい!」

「はっはいぃぃ!」

 得意なものを突き詰めるのと、苦手を克服するのとなら、簡単な方は前者である。その上、得意が『完璧』となる。だが苦手を無くしたところで、所詮『平凡』だ。だから万人は『完璧』を目指す。しかし、この少人数戦において、それは通じないだろう。もし、前線のシバが倒れてしまったら?もし、指揮をするネムが戦闘不能になったら?もし、後方支援のネコガミがいなくなったら?このままでは、それぞれの役割をカバーするのは難しい。




 

『平凡』は悪い言葉ではない。聞こえは良くないと思うかもしれないが、その意味は『ありきたり』……言い換えたら『みんなと同じ』ということだ。良くもなく悪くもなく、その環境に合わせられるのなら。『誰か』の代わりになれる機会が、来るのなら……


 それなら、私は『平凡』でもいい。

 ――[削除済]





【あとがき】

読んでいただきありがとうございます。

少し哲学というか、ポエムみたいな感じになりました。あと、謎が増えましたね。

この物語において常時、謎が増えます。謎が解けても、追加します。読者の皆さんには一生悩んで欲しいです!(笑)

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