第14話『その前に』

「ホームセンター並びに、その周辺を調査しましたが、空間異常性の消失が確認されました」

「……なら『収容違反者』は…?」

「そちらはまだ手掛かりが見つかっておりません」

「……そう……」

「ご期待に添えず申し訳ございません」

「いや、叱っているわけではない。貴方達は頑張っているもの……あとそれと……例の『研究組織』の方はどう……?」

「三名の研究員による活動を確認していましたが、ここ最近の活動が確認出来ておりません」

「……これは繋がってそう」

「俺もそう思います」

「では引き続き任務を……」





 ………………

 …………

「おい、すれ違い説明が多いじゃないか?」

「ご、ごめんなさい……すっかり忘れていたわ(笑)」

 スイセイはまだこの破天荒な状態に吹き出している。

 カラパレの任務は始まる前から予想外で大変そうだ。

「でも大丈夫よ。見た感じ似合ってるしバレなさそう。思ったより可愛いし、ふふっ」

 先ほどと違って、すっかりオフモードに切り替わったスイセイは高校生らしくニヤける。

「た、たしかによく似合っているな…良いんじゃないか?」

「良くないですって……なんか下半身スースーするし……てか照れないでくださいよ!」

 ネムはネコガミの反応に思わず照れてしまった。

「仕方ないよネコガミ様。カラパレには女性がいないんだ……ぱっと見、女の子に見えなくもないし大丈夫でしょ」

「もうシバさんまで……」

 カラパレ内に変な趣味が流行り始めそうではある。

「さっそくだけど明後日の冬休み明けから転勤、転入として入ってもらうよ。シバさんは外部の人だから、学園外の探索時間が多いわね。」

 簡単にまとめると、ネムと成瀬は教師内、ネコガミとスイセイは生徒内での調査、そしてシバは学園都市全体での調査に割り振られる。

 作戦会議のあとネコガミはスイセイに寮を案内され、ネムとシバは部室の寝室を使ってそれぞれとこいた。明日から、しばらくβ世界での任務生活である。





 ――やあ、また会ったね。旧東京駅の時ぶりかな?それはそうと随分楽しそうなことしてるね。……オレが彼と一緒に過ごした日々を思い出すよ……


 これは……夢か?


 ――夢といえば、そうかもしれないね。結局のところは自分の頭の中なんだから。それはそうと、ナルセって人が言ってたイデクラの秘密が気になるね。それを知れば『真実うちがわ』のピースを揃えられるかも。


 よく分からん夢だな……


 ――うんまぁ……今はまだこれで良い。それまでのデータ記憶が消えても、オレの『認識』が消えない限り……





 トントントン

 誰かが部屋のドアをノックする。

「ネコガミく……ネコガミぃ、転入初日に遅刻は許さないからね」

 ドアの向こう側からスイセイの声が聞こえる。女子校で『くん』付けはあり得ないため、直前で言い直した。

「ちょ、ちょい待ち……」

 数分経つと、ネコガミが部屋から出てくる。

「すいません、なかなか制服が着れなくて……」

「それは慣れるしかないわね、あと言いたいことが三つ」

「は、はい。なんでしょう…」

 ネコガミは軽く唾を飲む。

「一つ目、男ってバレちゃうから少し高い声出して」

「はっ、はいぃ⤴︎」

(少し変な声が出てしまった……)

 スイセイはネコガミを少し睨んだ。

「二つ目、敬語使わないで。同じ歳でしょ?」

「えっそうだったんですk……そうだったんだ、オッケー……」

「三つ目、あなた、銃作れるでしょ?」

「あ……バレットM82の事?」

 ネコガミは一瞬で光粒子から狙撃銃を作り上げて見せた。

「すごいイデクラね……便利そう。これからそれを貴方の武器にして」

(私もこの能力があれば、簡単にM4を改造出来るのに……)

(自分からしたらスイセイのイデクラの方がかなり凄いだけどなぁ……なんかカッコいいし……次元移動)

 知らぬ間にお互いがお互いの能力を羨ましがっている姿は滑稽こっけいである。

「あと同じクラスよ。案内するからついてきて」

「なんか緊張するなぁ……」

「大丈夫わよ、みんないい人たちだから」

(いやそういう問題じゃねー、女装がバレないかってことだー)

 校舎の中に入ると女子高校生がたくさんいた。歩きながら観察すると、ナイフ用のポーチを付けている人や銃を背負っている人がいた。本当に全員が色んな武器を持っている。

 しばらく歩くとネコガミの目に『教室棟』という看板が映った。彼はスイセイの後ろについてそのエリアに入る。

 ………………

「ここが私たちの教室ね。2ーAクラス」

(なるほど……見るからに成績で決まるクラス制度だ。そもそも転校生が最初からAクラスでいいのか?)

 ネコガミが腕を組み、少し考え込んだ。

「ホームルーム始まるまで廊下に立って待ってて、あとは担任の先生が教えてくれるから。じゃあ、また」

 スイセイが教室に入る。ネコガミは廊下の掲示板を眺めていた。実際は周りの目を気にしないようにするためだが、どちらにせよ自己紹介で挨拶を交わされる負えないため意味はない。しかし壁の掲示物をところどころよく見ているとお知らせなどは電子化されており、触れると詳細が表示されるようになっている。

(自分の世界もこんな感じに学校があったらなあ……)

「君が猫神かい?」

 ネコガミがぼーっとしていると、突然後ろから声をかけられた。

「はっはい⤴︎……ネコガミです。よろしくお願いします……」

 少し変な顔をされた。

「……私は2-A担任の菊池きくちだ。事情は成瀬から聞いている。よろしく」

 第一印象は見るからにクールな女性って感じの人だ。聞いた限りだとカラパレの味方、いわゆる『内通者』である。さて、この学園内の教師の中ではどのくらいが敵で味方か……

 キーンコーンカーンコーン……

(あっチャイム……)

「呼んだら入ってくれ」

 キクチ先生はそう言って教室に入って行く。

 ………………

「お前ら座れー」

 廊下からでも分かるくらい騒がしかった教室が徐々に静かになる。

「今日は冬休み明けだ。それぞれ生活リズムを取り戻すように。そして転校生が来てる、入れ」

 ネコガミはそーっと教室に入る。

(バレるなバレるなバレるな……)

 心の中で祈りを復唱した。

「はい。自己紹介どうぞ」

 スイセイはネコガミに、アイコンタクトで合図を送る。

(分かってるわね?第一声が肝心よ。あとはさっきの言った通りにやるだけ)

(分かってるよぉ、ヤベェめっちゃ緊張する)

 ………………

 視線を教室全体にやる。全員が自分を見ている。そんな意識がネコガミを襲い、視野角が広がる。

(……いや、自暴自棄になっちゃダメだ。失敗したら全てがパーになる。これも『みんな』のため……!)

 ネコガミは高い声で咳き込んでから口を開いた。

「初めまして、ネコガミっていいます。適正距離は遠距離なので狙撃が得意です。よろしくお願いします」

 実は昨日、ネコガミはどのように自己紹介すれば良いかをスイセイから教わって練習していた。

 

『いい?学園都市の中でもこの学園は『銃訓練』があるの』

『葦谷さんが戦闘強かったのはそういう理由だったんですね』

『……そう。だから明日の自己紹介の時に『適正距離』を言えば、問題ないと思うわ』

 

 教室を見渡した感じ、「おおー」とか「すごい」という声が聞こえてくる。特に違和感は無かったようだ。

(よし!うまくいった……!)

(やるわね。思ったより女声が通じるじゃないの)

 二人がアイコンタクトで意思疎通していると、先生が最後に一言……

「最後に質問はあるか?」

(あっちょっとこれはまずいかも……)

(これは想定外だわ……でも貴方なら)

「はいはい!」

 キクチ先生は手を挙げた生徒を指した。ネコガミは覚悟を決めて耳を傾ける。

「猫のイデクリですよね!イデクラはなんですか!?」

 それぐらいなら問題ないっと二人はホッとする。

「イデクラは『創造』です。簡単に言うと光エネルギーから物質を生成するタイプのやつです」

 教室内が少し盛り上がる。彼女らにとっては珍しい能力だったかも知れない。

(このままだったら大丈夫そうね)

 ネコガミに少し余裕が生まれた。そのまま雰囲気で質問が続くが、なんなく答えられている。

 しかし、思いもよらぬ質問が飛んできた。

「下の名前はなんて言うのー?」

 ………………

 …………

 ……

『名前』…………そんなものは……



『存在しない』





【あとがき】

読んでいただきありがとうございます。

自分はゲーム好きですが、最近全然ゲーム回していませんね……おかげで執筆の方が思ったより進んでるので悪い気はしません(笑)

次回は軌跡回です。お楽しみに!(by 猫神くん)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る