第13話『分岐点』

 ………………

 …………

 ………

 ――苦しい…………寂しい…………

 ………………

 …………

 ………

 ――誰か…………ここから出して…………

 ………………

 …………

 ……

「……ここから出たいか?」

 ………………

 …………

 ……

 ――出たい……

「……君は『生きたい』か?」

 ………………

 …………

 ――生きたい……

「……ならば、私が君を助けよう。その代わり……」

 ――その代わり……?

 ………………

 …………

 ……



 ココに『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』を預かってくれ。



 ………………

 …………

 ……

 夜の暗い道を抜けて辿り着いたのは……学校のような建物だった。

「なんで学校なんですか?」

「さっき言ったはずよ。けど、後でまとめて全て説明するわ。着いてきて」

(確かにベクトル『学園』在籍とか言ってたな……)

 ネムは脳裏を巡って言葉を引き出した。

 学校といっても、科学研究施設のような校舎のつくりになっていてかなりの設備が整っているところである。

「ここよ」

 案内された場所は部室だった。ここは部室棟だと思うが、この部屋だけ電気が付いている。

「先生、戻りました」

 中に入ると、そこには白衣を着た男が座っていた。見るからに髭を少し生やしており、長髪の茶髪で髪を後ろでまとめている。

「おー、思ったより早かったじゃないか」

(ここにも白衣を着た奴がおるんか……)

 ネムが少し落ち込んでいると、その男が声を掛けてきた。

「初めまして、わざわざ来てくれてありがとなー!俺は成瀬なるせ。ナル先生か、ナルさんでいいぞー」

(うん、明るい人で良かった。どっかの謎い人と違って)

 ネコガミは少しホッとした。

「早速ですが先生、説明してもらいます。彼らに」

「おいおいスイちゃん……まさか最初から説明を全部俺に放り投げるつもりだったのか……」

「良いから説明してください。てか『スイちゃん』って呼ばないでください」

 全員が一瞬殺気を感じた。

「わかったわかった……じゃあ、全部君たちに話すね」

 ナルセは混乱しながらスイセイから目を逸らした。

「私はちょっと着替えてきます」

 スイセイは興奮気味で部室から出る。彼女が部屋から出たあとも、少しの間沈黙が続いた。

「……まぁ、立ってるのもあれだし座りな」

 カラパレたち三人が用意された椅子に座った。



 みんなで机を囲むと、ナルセからこの世界の事を説明された。

 このスイセイたちのいる世界は『αアルファ世界』と呼ばれ、カラパレたちのいる世界を『βベータ世界』と呼んでいる。調査の仮説だが、α世界は『モノクロイベント』を回避しており、そこがα世界とβ世界の『分岐点』だと考察した。問題なく科学発展が続いていたが、ある時、問題が起きる。科学者たちと政府の混合グループ『バーテックス』の独裁によって民間人が苦しみ始め、科学者と一般人の間に『格差』が生まれてしまった。

「それだとこのままじゃあ……」

「あぁ、確実に社会が崩壊するね」

 スイセイが前に言っていた『夢幻泡影』とはこの事だ。

「そういえば……『エネルギー』の話を聞かされたけど」

 シバがカラパレの世界に関わる話題を切り出すと、ネムもより関心を示した。

「……それはね、『次元エネルギー』だよ」

 ナルセが真剣な顔を取り始める。

「じ……『次元エネルギー』?」

「話すと難しくなるが、バーテックスが『新たなエネルギー』についての研究をしているんだ。それが『次元エネルギー』。内容はその名の通り、他の次元、世界を吸収する事で大規模なエネルギーを作り出す。そして、その企画が『次元エネルギープロジェクト』だ。それを成功させられるとエネルギー問題が解決しちゃうのさ。権力を使った独裁が急激に進んでしまうだろうね」

 カラパレたちは嫌な予感がした。

「まさか……」

「……残念だが、一番最初のターゲットは君たちの世界、『β世界』だ」

「クソッ!なんで俺たちの世界なんだよ!」

 ネムは感情を露わにするが、すぐに気持ちを落ち着かせた。

「これも俺の考察だが、今の君たちの世界が不安定だからだ。他の次元も吸収することはかなり難しいけど、β世界は『色』がない。だから他の次元の何倍よりも扱いやすい」

「…………」

 しばらく全員が黙る。

「……だからそのプロジェクトを止めろと……」

「そういうことだ。そしたらα世界の格差社会を減速出来るし、君たちのβ世界が犠牲になることもない」

「でも、結局のところはプラマイゼロなんですよね……α世界はそいつらの企みを止めてるだけだし、β世界も思わぬ崩壊を阻止しただけなんで」

 さっきまで黙っていたネコガミが会話に参加した。

「確かにその通りだ。このプロジェクトを止めた時点で君たちの世界はとりあえず無事だ。あとは俺たちだけでバーテックスの独裁を止める」

 ナルセからはすでに『覚悟』といえるものをネコガミは感じ取ることができた。

「だけど、君たちには少しメリットがあるかもしれないな」

「???」

 ナルセがニヤつく。しかし、それは全く悪意のない顔つきだった。

「後で教えよう。『イデクラ』の『秘密』についてのね」

 もちろんこのα世界にもイデクラはある。科学発展が止まったβ世界にはない『秘密』を知ることで能力の強化になれるかもしれない。ネムはイデクラを使えないが、研究者としての関心、そして、自分の『真実うちがわ』を見つける手掛かりになる可能性だってある。

「確かにメリットっちゃメリットだね。……それで、なんで学校の先生がそんなことを知っているのかな?」

「…………」

 シバの質問に対して、ナルセは一瞬だけ言葉が詰まる。彼はダラけた姿勢をなおした。

「それはね……俺が『バーテックス』の研究員だったからだよ」

(やはりそうか、ていうかまあそりゃそうだろうな)

 ネムはナルセをジーッと見つめるが、その思いは研究者としての親近感か、それとも同情なのか……本人もよく分からなかった。

「俺はあのプロジェクトに反対したんだ。見ず知らずの世界、人々を犠牲にするのはおかしいってね。当然、話も合わず降りたのさ。軽い処置受けたけど」

(正義感の強い人だな……)

 よくある『立場』と『善』をどちらを取るか問題。彼はきっと後者を取ったのだった。

「目的は理解しました。じゃあ自分たちは何をすれば良いんです?」

「いい意気込みだ。そうそう、言い忘れてた。自ら公表してバーテックスに対抗するやからが居てなー。それが『革命軍』って奴ら」

「この世界も色々と大変だな」

 ネムが隣のシバをチラッと見る。きっと防衛隊と重ねてみたのだろう。

「その革命軍の情報をゲットして潜入して欲しいんだ。そしたら奴らがバーテックスから奪った『黄金の果実』と呼ばれるプログラムを手に入るはずだ。チャチャッとやってくれると助かるけどなー」

「なんだそれ?てか革命軍って政府の敵だよな。協力すれば良いんじゃないのか?」

「まあ隠語みたいなもんさ。バーテックスの内部に潜入するための情報が詰まってる。それと、革命軍が俺らと協力してくれる可能性は低い」

「なんでだ?」

 ナルセが腑抜けた顔をする。

「ベクトル学園の法人……いわゆるその管理運営はバーテックスだ。それなら俺がここに左遷されてるのと繋がるな」

「たし蟹」

 しかし、バーテックスもまさか身内に反逆者がいるとは思わないだろう。灯台下暗しってやつか…………

(いや待てよ……バーテックスがすでに気づいて流している可能性も……)

 ガチャ

 長く会話していると、スイセイが部室に戻ってきた。戦闘服から私服に着替えたようだ。いかにも女の子JKって感じの部屋着でギャップを感じる。

「……何チラチラ見てんのよ」

(あっバレた)

(ネムさん、良くないですよ)

(お前もだろネコガミ)

(そうだぞ、ネコガミ様)

((シバさんもだよ))

 ナルセが笑うと、あくびをして席を立ち上がった。

 「じゃあ、もう遅いし俺は先に寝てるわー。あとは任せた、スイちゃん」

「だから、スイちゃんって……」

 怒りを感じ取ったナルセは「わかったわかった(笑)」と言いながら逃げるように部屋から出た。スイセイはため息を吐いた。

「……はぁ、私たちの1番最初の仕事を言うわ。この学園の関係者になって革命軍の『スパイ』を見つけることよ」

「『スパイ』の『スパイ』ってやつ?」

 ネムの言葉にスイセイが少しだけ首を縦に振る。

「なんで革命軍のスパイがいるって分かったんです?」

 考え込んでいたネコガミは疑問を投げかけた。

「……先生からエントリープログラムのこと説明された?」

「あー『黄金の果実』ってやつ?」

「そそ、それが盗まれた潜入口がここって調査の結果が出たらしいの」

「セキュリティガバガバだな」

「革命軍もよく考えたわね。バーテックス本部に直接行くよりも下の組織ベクトル学園経由の方が入りやすいって」

 私服を来ているせいか、さっきのエージェントのようなカッコよく、男らしい彼女が一段と可愛く見えてくる。

「じゃ、役割を言うね……」

 ………………

 …………

 ……

 しばらくして色々な説明をされた。

 ネムは『教師』、ネコガミは『生徒』、シバは『外部指導者(戦闘面)』という役目が与えられた。

「ちなみなんだけど、ここら辺全域が『学園都市』なの。生徒はみんなヒエラルキー格差社会の上層部。バーテックスの連中からしたら『科学者の卵』の集まりよ。だから、革命軍や政府をよく思わない犯罪者から身を守るために、政府は私達に武器とか銃の常備を許可してるわ」

(出た『学園都市』……えっ今なんて?銃を常備って?)

 三人が少し焦った。

「でも死んじゃまずいから『実弾』と『光線弾』は禁止。だから原則『ゴム弾』。逃走したときみたいにね」

 きっとそういう世紀末のような世界観なんだろう。

「それと……あと服ね。そこの更衣室の中にあるからチェックしてみて」

「それっぽくなってきたね。昔思い出すよ」

(そういえばこの人、防衛隊の諜報員だった……)

 ネコガミは横目に笑顔のシバを見つめてから、三人はそれぞれ更衣室で服を着替えてみた。





 ………………

 …………

 ……

「スーツか白衣かと思ったらまさかのジャージだったわ……てか、体育教師じゃん!」

「俺は軍服だね。慣れてるから動きやすい」

 ネムとシバは先に部室に戻ってきていた。

「よく似合ってるわ」

 二人のサイズは問題なさそうだ。

「あれ?ネコガミは?」

 すると、部室のドアの外からネコガミの声が聞こえてきた。

「あのぉ……どういうことでしょうか……」

「どうしたネコガミ様、入ってきなよ」

「いや……いやです……」

「ほらー恥ずかしがらずに(笑)」

 ネム笑いながらやや強引に部室のドアを開ける。

 ガチャ!

 ………………

「えっ?」

「はっ?」

「ふふっ、思ったより似合ってるね」

 ネムとシバはネコガミの姿を見て思考が停止し、スイセイは微笑んだ。

「…………」

「ス……スカートじゃん……なんで女装してんの……」

 そこにはなぜか女子高校生の制服を着たネコガミが立っていた。

「自分に聞かないでくださいよ……」

 ネコガミが恥ずかしがるようにスカートを手で隠す。

「あれ、言われなかったのかしら。うちの学園は『女子校』よ」

「「はあぁぁぁ!!?」」

 部室内にネムとシバの大声が鳴り響いた。





【あとがき】

読んでいただきありがとうございます。

少し長めになりましたがどうでしょうか?

真剣な会話の中に面白みを入れてみました(笑)

(着替えシーン……イラストにしてみたいな……)

(by 猫神くん)

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