第12話『次元を彷徨う色』

暖かい空調の研究所内で、冷たい空気が漂っていた。

「んで、いろいろ説明してもらうか」

 博士がテーブルに腰をかけて全員の顔を見つめるが、誰もが下を向いている。博士は別に怒っているわけではないことは皆知っているが、ただ単に彼らは物事や報告することが多すぎて何から言えばいいのかが分からないだけである。そしてなにより、当本人少女が目の前にいる。

 しかし彼女は研究室の棚やそこら辺の部品を観察し回って、カラパレらの異様な空気に触れなかった。

「まぁ……そうだな……」

 ここでシバが口を開く。

「ホームセンターで変異した虹色のカラモンが現れて異常空間が発生したんだけど、でも実はこの子の能力によって生まれた異常空間で、結局はこの子がそのカラモンを倒しちゃった……ということかな?」

(わお、なんと簡潔でわかりやすーい)

「なるほど。で、君の目的はなんだ?」

 博士が何かを試すような顔をして質問をするが、少女の焦る様子は無かった。

「……結論から話すわ。私の目的は『自分の世界』を元に戻すこと。そのために協力して欲しい。これは貴方たちが『色』を取り戻す道理と一緒よ」

 みんなの顔が険しくなる。そもそもなぜ彼女がカラーパレットの目的や色の情報について知っているのか、どこまで知っているのか。

「さっきも言ったけど、私は敵じゃない。……そうだ、自己紹介した方が早いわね」

 博士が許すように頷くと、少女は壁にもたれてから続けた。

「私は葦谷あしや翠星すいせい。ベクトル学園在籍。イディオシンクラシーは……『次元』よ」

「えっ?『次元』?」

 なんとか学園も気になるが、それよりも後半の単語の方が気になった。

「そう、私たちの知る『世界』に存在する『3次元』……それよりも上の単位である『時間』を表す『4次元』。その時の流れを生きる私たちには沢山の『世界』や『次元』がある。つまりパラレルワールドのようなものよ」

 ネコガミは博士のような話し方をするスイセイにへばっているが、ネムはなんとなく理解していた。

「っていうことはつまり、お前は……」

「そう、私は貴方たちとは別の次元から来た人間……というわけね」

 それは、この場において唯一、色の認識災害……『モノクロイベントのかせ』を掛けられていない人間ということでもある。

 しかしシバは疑問に思い、口にしてみた。

「……俺たちが協力することで、この世界も助けられるのは分かったが、それはどういう繋がりなんだい?」

 スイセイはシバの方を見るなり、目を逸らして返事した。

「冷静になって聞けるなら、今話すわ……」

 カラパレたちが顔を見合わせたあと、ネムは前のめりで机に手をつけて話した。

「あぁ……事実ファクトを話してくれ……」

 部屋の空気は一層と重くなる。

 ………………

 …………

 ……

「この次元は……『エネルギー』として、私の次元に呑み込まれるわ」

 この場にいる数人の思考に軽い電流が走るが、なんとか落ち着いて持ち堪えた。表情と声のトーンからして、彼女は嘘をついていないことは分かる。数秒経ったのち、ネムが口を開く。

「それは何故だ……?」

 ここでスイセイが初めて言葉を詰まらせる。

「それは……後々分かるわ……」

「…………」

 一瞬、静かな空気が流れた。

 ただでさえこの世界は崩壊寸前で、我々は必死こいて助け合っているというのに、なんで他の次元の世界なんかに潰されないといけないんだと…………世界は、いや『この世界』は不条理だ。

「……とりあえず、今は協力して欲しいとしか言えないの」

 スイセイが目の色を変えて言う。

「私の世界に来てほしい」

 今度は全員が博士に顔を向ける。

 この言葉に対して疑問はたくさんあるが、カラパレは反対する気がなかった。もちろん博士もである。

「いいだろう。行け、カラーパレット」

「いいんだな博士……」

 さっきの空気から一変して団結感のある雰囲気に変わった。カラパレの研究は(物理的に)次元を越えることになりそうだ。





 ………………

 …………

 ……

「……どうだ、学園の方は?」

「……内部経由で手に入れられましたよ。『アレ』を。今は下の奴らが回収して保管している頃でしょう」

「……それは朗報だな。大通りのケーキ屋でハチミツケーキ祝いだ」

「……ワタシはいいです」

「あれ、じゃあお前もどうだ?」

「……私も間に合ってます」

「あれ、俺が買いに行くパターンか……」





 ………………

 ……………

 ……

 「そういえば、俺たちもその……ポータル?みたいのに入れるのかい?」

「問題ないわ。多分」

(多分って……)

 スイセイの言葉にシバが冷や汗をかく。

「さっきの戦闘で無事なら大丈夫だわ」

 すでに日は沈んで夜になっている。

 ネムは支度していると、奥の方で没頭しているゼータを見つけて話しかけに行った。

「そうだ、6番は来ないのか?」

「あっボクはやることがあるんで大丈夫です」

「そっか、ガンバ」

 二人で会話をしていると、スイセイが寄ってきた。

「服装とかは私のところで用意するわ。武器とかは自分たちで準備して」

「ネムさんのカード、持つのかな?」

 今度はネコガミが興味津々で話に入ってきた。

「とりあえず50枚用意したけど、普通に足りなさそうだな……」

「それも大丈夫。足りなかったら私のところで作れる」

 ネムが目を細めてスイセイに話しかける。

「そういえばお前、どんだけ俺たちのこと知ってんだー?」

「ほとんど。事前に調べておいたのよ。あっちの世界で」

(うわー怖ーい)

 よくよく考えたら次元をエネルギー変換できる時点で科学力はこちらの世界よりも発展しているのは確実だ。

「詳しい事は後で説明するわ。準備はいい?」

 ネムたちが承知すると、スイセイは何かの端末をイジりながら廊下に出て移動し始めた。カラパレたちは並んで着いていく。彼女が向かった先は意外な場所だった。

「ここって……」

「ここのサイトの倉庫だ。今は整備中のはずだがな」

 ネムはネコガミの疑問に対して食い気味に答えた。

 立ち入り禁止用の鎖をまたがって越えると、スイセイが足を止めて端末をポーチに仕舞った。

「ここで良いわ」

 ジリジリ……

「!?」

 前振りもなく異常空間、ポータルが開く。カラパレたち研究者からしたらかなり興味深いものである。

 スイセイが手を差し伸べる。

「さあ、来て」

 そのポータルの縁は、やはりグリッチがかかっており、中から飛び出す光は綺麗な色をしていた。この先がいわゆる『分岐点』であり、『次元』の真理に近づける手札でもあるが、能力者本人はそんなものに興味がないように見える。

 三人がゆっくりとポータルに足を踏み入れる。最後にスイセイが入ると、ポータルが光と共に消えた。

 ………………

 …………

 ………

「……ふむ、彼女が私の『対称シンメトリー』か。面白い……」





 眩しい光が差し込んだあと、都市のような場所に出た。その光は都市の明かりで夜のわりに明るい。……カラパレの世界も昔はこんな感じだった。

「うわぁ……すげぇ……」

「まるで俺たちの色が消える前の科学都市だな」

 軽く感心をしていると、スイセイがどうやら警戒をし始めた。シバも何かに気が付いたらしい。

「追手がいるわ」

「そうだね」

「まじかぁ……来てさっそく逃走か?」

 後ろを見ると、警備員のような格好をした数人がこちらを見て何かに気づいた様子をしているが、確かにこんな装備で路地裏にいたら怪しさマックスである。

「路地裏に回るわよ」

 カラパレたちが一斉に走り出す。つられて警備員たちも走って追いかけてきた。

 スイセイは背中に背負ってあるアサルトライフルを手に取ると、度々後ろを確認して発砲する。

「おいおい!撃ったら大騒ぎにならないのか!?」

「大丈夫よ、これは実弾じゃないから」

(いやいやそういう問題じゃねぇ……)

「「おい!!そこのお前ら止まれぇ!!」」

「やっべ、あいつら足はやぇ!」

「ちょっと先に行ってて」

「無理しないでくださいよ!」

 猫神の心配に対して「問題ない」という合図を送ると、スイセイは一瞬で次元に入り消えた。

「っ!!女はどこに行った!?」

「「ここよ」」

 警備員の一人が後ろを振り向こうとするが絞め技で見事に体勢を崩れさせ、次元の出入りを駆使しながら次々と他の警備員もやっつけていった。

(体型はそこまで大きくはないが、逆にそこを利用して相手に近づいている。なかなかやるなあ…)

(うわぁ……なるべく喧嘩売らないでおこ……)

 シバがたたえて、ネムは恐れた。

「見た感じ、もう着いてきてなさそうだな」

「……まだ巡回してるかも。ここからは裏道よ」

 警備員から振り切り、カラパレたちは『ある目的地』にたどり着いた。





【あとがき】

読んでいただきありがとうございます。

一話一話推敲するたんびに思いますが、文字量が激増しです……

まぁ、それだけ内容が濃くなってるということなのでモウマンタイですね!

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