第11話『夢幻泡影』

「まずい……推測だけど、俺らの脳内の色の情報まで吸い取られてしまっているかもしれん」

「どうする……!?クロ!」

(……このままだと諸共もろとも、廃人になるぞ……!)

 ピカーン……

(!?)

 視界の前に一筋の光が差し込んできた次の瞬間、何もかもが一変した。

 瓦礫で溢れたホームセンターは一色だけの、仮想のような空間に変化し、一瞬で頭痛がおさまった。

「はぁ……はぁ……助かった……?」

「なんだこの空間は?シバさんが?」

「……いや俺じゃないし分からない」

 無限に続く空間。空らしきものはあるが、一面が翠色みどりいろで奥行きが見えない。ただ分かったのは……

「もしかして、ここが『異常空間』?」

 ネコガミが勘付くとネムはまた疑問を浮かべる。

「だとしたらなんでこの空間が出現したんだ?」

「それは私が原因ね」

「!?」

 突然女の声がして、三人は同時に振り返る。

 そこにはミント色の髪色で黒色のジャケットを着た高校生?ぐらいの女の子が立っていた。

(気配がしなかった……いやなぜか気配を感じ取れない……?)

 警戒するシバを見て、ミント髪の少女が口を開く。

「心配しないで。私は貴方たちの敵じゃない。カラモンあいつを倒したいんだったら、今は私の言う通りにして」

 ネムとネコガミは顔を合わせると、ヒソヒソと会話し始めた。

(どうします?嘘をついてるようには見えませんし……)

(そうだな……ここはコイツの領域っぽいし、結局のところは話を聞くしかないだろう……)

 二人は頷くと、ネムは覚悟をしたように話す。

「分かった。俺たちは何をすればいい?」

 ミント髪の少女は一瞬だけニコッとして、説明し出した。

 ……

 …………

 ………………

「……えっ?それだけでいいのか?それってほとんどお前が仕事してない?」

「そうですよ…もっとなんか自分らにやることがありません?」

「大丈夫。というか、これは私にしか出来ない」

「……悔しいが仕方ない」

「ならば……行くわよ」

 ネムとシバは関節を鳴らせ、ネコガミはゴクリと唾を飲む。ミント髪の少女が足を一歩前に出すと、その足元を基準にして、さきほどの異空間が崩れていき景色はホームセンターに戻った。





「よし!やるぞ!」

 三人はさっきの説明を思い出す。

 

「「まずは、出来るだけ継続的に攻撃して……」」

 

 ネコガミはバレットを構える。ネムは前方に飛び出し、至近距離でカードを投げた。続いてシバも光線銃を撃ちながら背後に回り込んで炎攻撃をするが、それでもカラモンはかわすことをやめない。しかし、カラーパレット達には考えがある。

 

「「アイツはかわした直後にほんの少しだけ硬直するの。そこを狙って当たれば、ひるませることができるわ。そしたら私に任せて」」

 

 本当なら、かわす場所を予測できたら良いが、それは困難だ。ならば……かわさせる場所を一つにすればいいのである。

(狙いは右から二番目の棚……ネムさんたちならここにかわさせるはず……!)

 ネコガミは照準を覗く。良い戦地適正とは言えないがそれでも撃ち抜く。撃ち抜いてやる。

 シバはカラモンの前方に三重のバリアを展開する。

(チャンスだ!)

 …………

 ネコガミは数秒、いや数コンマ、それよりも短い時の中で思考を巡らせる。

(『当たらない』……カラモンが予測場所から1メートル離れている。照準の中なら数ミリ、この差はかなりデカい。これじゃ……かすりもしない……)

 しかし、ネコガミは決して諦めなかった。数コンマという無限の時間の中で銃身を心臓の鼓動でズラした……

(まずい、ネコガミの照準がズレたか!ならば俺に出来ることは……)

「くらえ!!サウンドウェーブ!!」

 ネムの音攻撃でカラモンはほんの一瞬だけ動きを止めた。と言ってもほんの数コンマ。そう、十分である。

(ネムさんが稼いだ時間……無駄にしない!)

 ネコガミは引き金を引く。発射された弾丸はカラモンに向かって一直線に飛ぶ。

 

「「ど真ん中を当てなくていい。かすれば十分だわ」」

 

 カラモンは咄嗟にかわすが、弾丸は身体をかすった。

「ひるんだぞ!やれ!」

 ネムは姿のない少女に声を掛けた。

 しかし先手はカラモンだった。さっきと同じように色粒子を吸収し始めた。

「やばい……!さっきのが来る!」

 三人は吸収する風に飲まれないように体勢を低くする。

「よくやったわ。ありがとう」

「!?」

 天井の方から彼女の声が響く。ネムが天井を見上げるとそこにはグリッチをしょうじた異常空間、ポータルのようなものが出現し、そこからミント髪の少女が出てきた。そして、風圧を受けながら落下し、カラモンに近づく。

「『色』が欲しいのなら、あなたにこの世界はに似合わないわ」

 ミント髪の少女が落下姿勢を保つ。

 

「『リリース・ヒュー』」

 

 ……彼女が何かを呟いた瞬間、一帯は再び異空間に包まれた。ネムが目を開けると、ミント髪の少女とカラモンは、対面するように並んでいた。まだ、カラモンは周りの環境を吸い込んでいたが、彼女は全くその影響を受けていない様子だった。

「……アイツ、吸い込みを受けていないぞ……」

「これはすごい……」

 ネムが横を見るとシバが少女を感激していた。

 ミント髪の少女はゆっくりとカラモンに近づき、頭部に触れる。

 カラモンの実態は色の認識を吸収するとされている。ただでさえこの世界の僅かな色の情報を吸い取る能力は、少女が展開した色の存在する異世界ではあまりにも『過剰かじょう』である。すなわち、カラモンの色の情報がキャパオーバーし、その一定の容量から溢れ……

「カラモンが……崩れていく……」

 三人の見ている光景はこの世のものではないように感じた。実際『この世』のものではないのだろう。

「私たち人間は夢幻泡影むげんほうよう。壊れやすくてはかない。だがカラモンあなたも例外じゃない。もちろん『この世界』もね」

 周りの景色ごとカラモンはバラバラに崩れていき、最後は異常空間と共に消えていった。





【あとがき】

読んでいただきありがとうございます!現れた謎の少女と翠色の異空間……

もちろんカラパレたちの連携も見事ですが、あの子、何者!?てか地味に強い!(笑)

次回もお楽しみに!!(by 猫神くん)

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