エピソード II 【時空を駆ける彗星】

第10話『風前の灯火』

“ The best color in the whole world is the one that looks good on you. —— Coco Chanel”

(世界で最高の色は、あなたに似合う色である。—— ココ・シャネル)





「まっ……待ってください!あの実験の続きはどうするんですか!?まだ仮説すら出していないですし……!」

 研究所の廊下で、若い研究員が歩き続ける博士のような男に説得しつつ追いかける。

「アレか。アレはお前が担当しろ」

「ほらまたこうなるじゃないですか……いつも飽きたらほったらかして……」

 すると男は突然足を止め、研究員の方を見て話しかけた。

「別に今回は私の勝手ではない」

「まさか……」

 研究員は目を大きく開いて驚くと、男は再度歩き出した。だが、研究員は追いかけることはなかった。


「またやっと会えるな……『モーメント』」





 ………………

 …………

 ……

 深夜の狭い路地裏で少女が駆け抜けていく。

 タッタッタッタッ

「止まれぇぇ!!!!」

 その背後には、ある組織の警備員達の姿があった。少女は追いかけられているようだ。

 タッタッタッタッ…………タッ…

 少女は落書きのある大きな壁を前に足を止めた。追いついた警備員達は彼女を囲い込む。

「ははは、どうやら行き止まりのようだな」

「やっと捕まえたぞ……!」

 少女は振り返り、口を開く。

「もっと探りたかったけど、とりあえずここでタイムアップ……」

「?」

 警備員達は少女の言葉に戸惑とまどった。

 そして突然彼女の背後から光が出現し、その光に吸いこまれながら言った。

「また会えると良いわね。この世界で」

 少女の体は崩れ、光の中に消えていった。





 もう11月頃だろうか。カレンダーが発行されないせいか、皆んなの日付感覚が鈍ってきているのである。

 ネムとネコガミは暖房設備が備わっているカフェテリアでコーンスープを飲んでいた。

「それにしてもめっちゃ雪降ってんな」

「でも自分好きですよ、雪」

 ネコガミは外の雪結晶に見惚れている。

「ふーん、そうなんだ」

 ネムは適当に返事し、スマホを取り出して残高を見た。

 現在は現金制度が廃止されてお金が完全電子化されている。政府が崩壊した一時期、これが使えなかったが金融機関と管理会社がなんとか頑張って復旧させたらしい。

「うわぁ全然お金残ってないぜぇ」

「でも世界が滅びてもお金が残ってるだけマシじゃないですか、おかげで買い物が出来ますし」

「確かにそうだな」

 しばらく世間話していると、博士が階段を登ってきた。

「カラーパレット、そろそろ出番だぞ」

「コア見つかったのか?」

「いや、コアではないが関係はしてくる」

「?」

 ネコガミが疑問を顔に浮かべると、博士は続けて話した。

「最近近くのホームセンターにて空間異常の情報が見られる」

「それがどう関わってくるんだ?」

 二人は唾を飲んで博士の顔を見る。博士は一段と真剣な顔で伝えた。

「その空間異常から『色』が検出されている」

 これは確実に関係していると思った二人は、深く考え込んだ。

「どういうことだろう、なぜ空間から色が溢れているんだ……?」

「それもそうですけど……そもそも『空間異常』とは……?」

「だからお前らに頼むことにした。何か情報を掴んでくれ」

「それなら俺らの仕事だな、いくぞネコガミ」

 その後、全員集合をして作戦を軽く立てた。今までの無計画よりはマシになるだろう。

 そして、彼らはその現場であるホームセンターに向かった。





 ここは科学都市圏(元関東)の中でも広めのホームセンターである。最新の科学部品などが売られており、沢山の人々によって使われていたのだ。

「ここ何回か来たことがあるんですけどね……」

「なんか……廃倉庫みたいだね」

 今回はゼータが研究のお手伝いで来られなかったが、新しくシバを加えて三人の探索である。ネムとネコガミからすると、かなり心強い味方だろう。

「『異常空間』っていうのはどういう……これで検出できんのか?」

 ネムはヘッドフォンをタッチした。が、反応は無かった。便利機能搭載でもさすがにそんな機能は無かった。

「ダメかー」

「まぁ、自分の目で見て確かめろということだね」

「リスク高いなぁそれ」

「でも自分達はいつもリスク高いことしてますけどね」

 ネムはネコガミに共感した。

 「……ちょっと静かに」

 シバが二人を黙らせると、全員が棚に体を潜めて前方を見た。

「……カラモンだ、こんな所にもいるのか」

「……どうします?」

「……そこまで数はいないし、探索しやすくするためなら倒しておいた方が良さそうかもな」

「……なら、俺にまかせて」

 シバが体勢を起こし、カラモンの前に姿を現す。そして、光線銃を放った。

 ………………

「わぁ、すげぇ……」

 なんと単発撃ちでこの場にいる全てのカラモンを倒したのだ。百発百中である。

「さすがシバさん!」

「いやまだだ、まだ気を抜いてはいけないぞ」

 音に引き寄せられたせいか、他のカラモンたちが集まってきた。

「一旦引くぞ」

 ネムの言う通りにしてレジコーナーに戻ると、光の粒子のようなものが空中に漂っていた。

「……なんだこれは?」

「自分のイデクラの……光に似てますね」

「これよく見たらこの『色』……違和感ないか?」

 ネコガミとシバもよく観察してみると、光の粒子が一か所に集まって塊のなり始めた。

 (これは……この『色』は俺らの脳にインプットされた情報ではない!認識から消えたはずの『自然の色』だ……!)

 しかしそれはあり得ない。この世界の色の情報は『カラモン』と『カラーコア』でしか抽出できない。

 すなわち、この色は博士が言っていた『異常空間』から溢れたもの……

「おい、ちょっとこれはまずくないか……」

 塊はだんだんと大きくなっていく……

「やべぇ!しゃがめ!」

 全員がレジカウンターに体を潜ませた瞬間、塊が破裂し周辺の物が吹き飛んだ。

「まさか、異常空間の仕業ってアイツじゃ……」

 そこには虹色に輝くカラモンの姿があった。姿は小さいが絶対に何かしらの異常はあるはずだ。いやもう既に異常だ。

 ネムはカードを召喚して一直線に投げたが、カラモンは目にも止まらぬ速度でかわした。

 (はや!)

 もちろんシバとネコガミもエイムを合わせることは難しい。

「……ネコガミ様!俺が動きを止めるから誘き寄せて!」

「はっ、はい!」

 シバがネコガミに指示を出すと、ネコガミはカラモンをかこうように壁を生成した。

 シバは器具で手から糸を出し、見事にカラモンを掴んで捕まえた。

「今だ!クロ!」

「おう!」

 ネムは腕を振りかぶってカードを飛ばした。

 ゴォォォォォ……

 カラモンはブラックホールに吸い込まれていく。……が、ホームセンター内全体から色の粒子が再び一点に集まる。その量はさっきの数倍である。それだけではない、突然三人に頭痛が襲ったのだ。

「うっ……頭が……目がクラクラする……」

 ネコガミの脚が崩れ落ちる。

「まずい……推測だけど、俺らの脳内の色の情報まで吸い取られてしまっているかもしれん」

「どうする……!?クロ!」

(……このままだと諸共もろとも、廃人になるぞ……!)





【あとがき】

始まりました『エピソードII』!

さっそく情報量をたくさんぶっ込み、いきなりピンチです。『少女』とは誰のことか…?次回にご期待ください!(by 猫神くん)

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