第8話

例の事件が起こり約半年が経った。季節も夏から冬になろうとしている最中大樹は達也の見解を聞きに行くため、達也の自宅に向かった。


「達也。そろそろ冊子の見解を聞かせてくれないか?」大樹は上がり框にしゃがみ込み靴を脱いでいた。


「あー分かったよ。」大樹は家に上がり達也の居るリビングに向かった。


「まずこの冊子だが、一部抜けている部分がある。」


「そうなのか、内容には影響ないだろ?」


「あー。あまり影響はなかったが一つ大事な所が抜けていた。一旦この冊子の概要を軽く説明する。」達也は簡単に冊子の説明を始めた。


「~という感じだな。」


「成程。研究内容が書いてはあるが殆ど日記みたいなもんだな。」


「そうなんだよ。ここに出てくる物質の状態変化は一般的なものではなく、究極の状態変化。

つまりここに書いてあるには、『究極の状態変化は自然力や人力を加えなくても状態変化が起こることである。』と書いてある。これが可能なのがあの鏡なのだと思う。」


「そうゆう事かあの鏡は研究材料ってことだな。でもなんで今尾の祖父は究極の状態変化を求めてたんだ。」


「おそらく今の自分が嫌だったんだろう。」


「どういう意味だい?」


「今尾の祖父は自分の体に究極の状態変化を取り入れようとしていた。この冊子を読む限り日記のように一日の出来事が書いてあるが、人と交流していたようなことは書いていない。つまり人付き合いが下手だったんだろう。それが嫌で自分を変えようとしてこの研究を始めたのだろう。」


「でも鏡を自分の体に取り入れるなんてどうやってやるんだい?」


「多分だが、状態変化を活用するのだと思う。」


「状態変化?人間にはそんな能力は無いけど。」


「本来なら存在しない能力でも、あの鏡を使えば人間にも状態変化の能力が備えられる。

しかしそれには膨大な年月が必要だと今尾の祖父は分かっていた。分かっていたにも関わらず鏡の状態変化を待っていた。」


「そもそも鏡の状態変化とはなんだい?」


「おそらくだが氷と同じだと思う。氷は個体、それが蒸発することで液体つまり水になる。またそれが蒸発すれば気体になる。このように氷は個体→液体→気体と状態変化を繰り返す。これと同じ原理であの鏡も状態変化を行う。しかし氷とは違い熱によって変化はしないだから膨大な年月が必要になる。」


「成程。ならいずれ鏡は液体になり気体にも変化するということだな。」


「その通りだ。だがあの鏡にはもう一つの能力がある。」


「それが“人格変化”」達也と大樹の声が被った。


「でも、何故努や今尾は鏡の事態を体に取り入れたわけではないのに顔や人格が変化したんだ?」

達也は考えていた。

「それが分からない。だが一つ目星は付いている。」達也は自信なさげに言った。


「聞かせてくれよ。その見解を。」


「何故鏡の前に立っただけなのに人格変化が起こっているのか。それは鏡だからだと思う。鏡の前に立てば自分が写し出される。しかし視点を変えれば鏡の中に自分が入っているという考え方もできるはず。もしこの考えで人格変化が起こっているのであれば今尾の祖父も人格変化を起こしていることになる。今尾の祖父は自分を変えたくてあの鏡を研究して人格変化を手に入れている、なのに鏡の状態変化を待っていた。」


「その目的は何なのか分からないが、もし達也の見解が正しければあの鏡は今現在も状態変化をしているはずだ。しかも今尾の祖父の時代からは長い年月が経っているあの鏡を放っておくわけにはいかない、確かあの鏡は今粉々になっているとか…。」


「粉々?まずいあの鏡は氷と原理は一緒だ。氷も粉々の方が溶けやすい。あの鏡も同じことが言える。」

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