第15話 魔女の魔法が見せた夢
「ここがその部屋だ。」
ロータルに案内されたのは城の地下、誰も使っていないような通路の先だった。
もちろん明かりなどはなく、先導役のたいまつのみが唯一頼りになる。
エーデルハイトが恐る恐る扉を開くと、部屋の中の光景に四人は目を丸くした。
「これは... 外?」
リュシルの言う通り、そこに広がっていたのは夜の草原だ。
足を踏み入れると、そよ風を感じる。
「その昔、魔女イルメラは夜の国を造ったときと同じく、この部屋に別世界を造り上げたそうな。」
「あの月は、あの星は本物?」
「この国の者からすれば本物になるだろう。 儂らは魔女の魔法で作り上げた世界が全てじゃからな。」
「でも、なんで城の地下に?」
エーデルハイトが話していると、ハインリヒが先の方で皆を呼んだ。
「おーい、こっちに魔法の本みたいなのがあったぞ!」
ハインリヒの元へ向かうと、そこにはだだっ広い平原の中に台座がぽつんと立っており、その上に魔法の書が置かれている。
「でもこの本、何も書かれてないぞ。」
確かに、ハインリヒと中身を確認しても白紙のページが続いているだけだ。
「確かにここには何も書かれておらぬな。」
俺たちは仕方なく本を台座に戻した。
「エーデルハイト達も読むか?」
「もちろん。」
エーデルハイトとリュシルが本に手をかけようとした途端、本が台座から浮いた。
次の瞬間ものすごい速さでページが捲れてゆく。
エーデルハイトとリュシルは無我夢中でページを読むが、俺達にはただ浮いている本が光り輝いているようにしか見えない。
一体彼女らには何が見えているのだろうか。
すると途中でリュシルが後ろに倒れこんだ。
エーデルハイトが急いで本を閉じる。
力任せに閉じたせいで、本は台座にたたきつけられた。
「どうした!」
リュシルは意識がなく、エーデルハイトも鼻と目から血を出している。
「わかった、わかったよ。 こんなくだらない魔法、どうかしている。」
そう言うと、リュシルと同じようにそのまま倒れこんでしまった。
二人を宿屋まで運びこみ一夜が過ぎた。
「頭が痛い...」
先に目を覚ましたのはリュシルだった。
「大丈夫か? あの時は突然倒れこんで大変だったぞ。」
「わかっている。 私にはあの本の内容に記された魔法の情報を処理しきれなかった。」
リュシルは悔しそうに顔をしかめる。
「俺たちが文字すら読めなくてよかったよ。」
「あれは魔女だけが読むことのできる魔法書だから。」
エーデルハイトも目を覚ましたようだ。
「エーデルハイトはどうだった?」
「私はなんとなくわかったけど、もっと詳しく解析したいからあの本をもらってこようかな。」
エーデルハイトが別途から立ち上がろうとした途端、再び倒れてしまった。
「まだ本調子じゃないみたいだな。」
「立ち眩みがね。 やっぱりもう一夜休ませてもらうよ。」
「それがいい。」
突然ドアが強く開かれた。
「おいハインリヒ、ここには病人が居るんだからもう少し静かに...」
「それよりエーデルハイト!」
ハインリヒは見事に話を遮って話した。
「ほら、これもらってきたぞ。」
大きく両手で掲げたのは例の魔法書だった。
「ロータルとか王様は許したの?」
「もちろん。」
「もちろん?」
「許さなかったからロータルと戦ってもらってきたよ。」
ハインリヒは誇らしげに話した。
「それはもらった訳じゃなくて、奪ってきたんだろ?」
「それにハインリヒ、今回は何ともなかったみたいだけど魔法書が魔法の鍵になっていることもあるから勝手に持ち出したりはしない方がいいよ。」
「今回は何もなかったんだし、いいじゃねぇか。」
ハインリヒはそのままベッドに突っ伏して眠ってしまった。
よく見ると服には無数の焼け跡がある。
「派手に戦ったんだろうな。 それじゃ俺も寝るか。」
それから一晩が明けた。
「おい、起きろ!」
俺はハインリヒに蹴飛ばされて目を覚ました。
「眩しい!」
久々の日の光が目を突き刺す。
「周りをよく見てみろよ。」
目が明るさに慣れるまでかなり時間がかかった。
「おい、これはどういうことだ? 夜の国はどうなった、なんでこんな野っぱらに...」
突然の出来事過ぎて頭がよく回らない。
そこは今まで休んでいたはずの宿屋などではなく、暖かい風が吹きすさぶ昼間の平原だった。
「フリッツも起きたね。」
エーデルハイトが向こうから歩いてきた。
「これがイルメラの魔法の正体。 私たち、300年前にはもう騙されていたみたい。」
「詳しく教えてくれよ。」
「ほら、この辺りところどころに石が転がっているでしょう? ここにあった国はずっと昔に魔物によって滅びていたんだよ。 彼女の魔法は夜の間にしか見ることのできないただの幻だったんだ。」
「それじゃ、ペートルのパーティに居た僧侶は?」
「あれは本物だよ。 すごく昔にこの街に生きた僧侶だからね。」
後ろに立っていたリュシルに驚いた。
「俺が魔法書を持ってきたからこんなことになったんだろうけど、これでよかったのかな。」
ハインリヒは難しそうな顔をしている。
「さぁ、でも私らが魔法書を起動させちゃったし、遅かれ早かれこうなっていたのは変わらないと思うけど。」
「そうだよな。」
ハインリヒは歩き始めた。
「さっさと行こうぜ、こんな廃墟に何日も居たってもう意味ないぞ。」
「その通りだ、それじゃ行こうか。」
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