第14話 魔法使いの自尊心
俺たちは城下町を抜けて、城へと侵入した。
「確かに街は大騒ぎだったな。」
「にしては城の中が静かすぎる。」
「そういえば、まだ城の中で衛兵を見かけてないよね。」
「これじゃ拍子抜けするな。」
城の中は広く、灯りの感覚が広いため誰も居ないと不気味だ。
衛兵は外に出て回っているのだろうか。
暫くホールを進むと階段が見えてきた。
「お目当てのものは上にあるのか?」
「分からない。 私はなんとなく下の方から魔力を感じるけど。」
「私は上から感じるよ。」
エーデルハイトとリュシルで意見が分かれた。
「二手に分かれるか?」
「私はエーデルハイトと行くから。」
リュシルは頑固だ、頑なにエーデルハイトと離れようとしない。
「それじゃ困る、魔女が一緒に行動されちゃ二進も三進も行かない。」
「目の前に階段があるんだし、上から行こうぜ。」
ハインリヒが階段を昇ろうとした時、何者かが降りて来た。
四人は動かず、静かに固まる。
これでも魔法で相手からは見えない筈だ。
「それで隠れたつもりか。」
その男は杖先から魔力を放った。
「グラン・マギー」
エーデルハイトが慌てて防御魔法を唱えたが、敵の魔法はそれをいとも簡単に貫いた。
とっさに槍斧で防ごうとしたハインリヒが宙を舞う。
彼は壁に頭を打ち付け気絶してしまった。
「儂はモントレック王に使える魔法使い、ロータルと申す。 おぬしら、この動乱に乗じて王を狙うつもりか?」
三人は内心焦った。
このまま捕まれば死罪は確実だ。
もちろん捕まることはないだろうが、二度とこの地に足を踏み入れることができなくなってしまう。
「そんな手荒なことはしない。 私は魔女がこの地にかけた魔法の解析がしたいだけ。」
急いでエーデルハイトが弁明する。
「そなた魔女を知っているのか?」
ロータルは驚き、杖を収めて寄ってきた。
「逆に爺さんこそ、魔女を知っているんだな。」
「魔女の存在など、魔法史を研究していれば誰でも気づくものだろう。 それを皆表に出さないだけだ。」
「私が魔女だと言ったら?」
「冗談は程々にしておきなされ、とにかくこれより先に進むことは儂が許さぬぞ。」
「そう言われたら倒して進まなければいけなくなるよ。」
エーデルハイトが杖を構える。
「爺さん、彼女と戦うのはやめておいたほうがいいぞ。」
「そなた名前は?」
「エーデルハイト。」
彼は目を見開き杖を握る力を強める。
「聞いたことがあるぞ、本物の魔女ならば長寿ゆえにこの状況もおかしくないのだろうな。」
「私のことを知っているの?」
「モントレックに魔女を名乗る者がその昔訪れたという記録を先代の手記に見たことがある。 その者の名をエーデルハイトと。」
「確かに私だ。」
「そうか、そなたは本物の魔女なのか。 ならばここは魔法使いとして手合わせ願いたい。」
「断るよ、そんな勝負に興味はない。」
「ヴァーリエ」
ロータルの魔法によってエーデルハイトと俺たちの間には結界が張られた。
「さぁ、後には引かせぬぞ。」
「もう。」
エーデルハイトは呆れた表情で杖を構える。
『グラン・マギー』
両者の攻撃魔法が大きな音を立てて衝突する。
途中でエーデルハイト側の攻撃が優勢になるとロータルは横へと避け、反撃してきた。
「グラーソン」
氷塊がエーデルハイトに向かって発射された。
「フレイム」
しかしエーデルハイトの魔法によって簡単に氷塊は溶かされた。
「爺さん、この結界頑丈?」
「並大抵の攻撃では崩れぬぞ。」
「そうか、それはいい。」
「グラン・フレイム」
彼女の杖の先からは再び炎の塊が放たれた。
その数は恐ろしく、ロータルは防御するのに手いっぱいで反撃する余地もない。
暫くして、結界が炎の圧に負けて割れてしまった。
「勝負ありみたいだね、私が出るまでもないや。」
リュシルはどこか残念そうだ。
「わかっていた、わかっていたさ。 魔女に敵うはずがないなど。」
ロータルは防御魔法で相当量の魔力を消費したようだ。
息切れが激しく、地面にへたり込んだ。
「後は好きにしておくれ、この城を守っているのは儂一人だ。」
「それじゃお言葉通りに。」
ここで気絶していたハインリヒが目を覚ました。
「おい! あのジジイはどこだ!」
「もうエーデルハイトが倒したよ。」
「なんだと!? いつの間に...」
不満そうなハインリヒは大きな足音を立てながら階段を昇って行った。
相当悔しかったのだろうが、リュシルといい、ハインリヒといい、このパーティは戦闘狂が多くて困る。
俺たちも続いて階段を上ると、そこには大きな両開きの扉が待ち構えていた。
「ここまで来たんだ、せっかくだし王にでも挨拶するか?」
「いやだよ面倒だし。」
エーデルハイトが引き返そうとする前にハインリヒが扉を開けた。
「ロータルが敗れたか。」
モントレック王は奥の玉座から立ち上がり、こちらへ歩いてきた。
「私に何の用だ、欲するのは金銀財宝か、それとも権力か。」
「知識だよ。」
王は眉間にしわを寄せながら顎をさする。
「知識か、面白い。 何を知りたい?」
「夜の国の秘密。 魔女がこの地にかけた魔法について知りたい。」
「ロータル!」
王の大声が大広間に響き渡る。
暫くすると、後ろから息切れをしながらロータルが歩いてきた。
「ロータル、この者らは何者だ。」
「それが...」
ロータルがどう説明しようかと考えていると、先にリュシルが答えた。
「私とエーデルハイトは魔女だよ。 あとはフリッツと戦士のハインリヒ。」
「そなたも魔女なのか!?」
ロータルは今にも卒倒しそうな勢いだ。
「魔女か。 ロータルが敗れたのだ、疑いの余地はない。 それにしても、私らは魔女などとうの昔に消えた種族だと聞いているが。」
「勝手に消えたわけじゃない、消されたんだ。 それくらいわかっているでしょう?」
リュシルの声からは明らかに不快感を感じられる。
「これは申し訳なかった。 そうだな、ロータル、この者らを地下に案内するんだ。」
「かしこまりました。」
「地下には何があるんだ?」
ハインリヒが王に尋ねた。
「行けばわかるだろう、そなたらの求めるものだ。」
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