第13話 消された種族
俺たちは結局街には戻らずに野宿をすることにした。
面倒事に巻き込まれて旅が中断されるのをハインリヒが嫌がったからだ。
「俺たちは300年以上も生きているんだ、たかが数年牢獄の中で暮らすのも悪くはないだろ?」
「何言ってるんだ。 自由の中でこそ生きていて楽しいと思えるんだ。」
「自由の中で生きられない人の方が多いというのにね。」
それから四人は焚火を見つめながら黙り込んでしまった。
暫くして最初に口を開いたのはハインリヒだった。
「そういや二人、自分の事を魔女だ魔女だと自慢げに話すよな。」
「俺はエーデルハイト以外に見たことがなかったし、他に魔女が居たことに驚きだよ。」
「それは...」
エーデルハイトが言葉に詰まった。
「それは魔女が消された存在だからだよ。」
リュシルは対照的に、何も気にしていない様子で話した。
「消されたって誰に?」
「誰にだと思う?」
「そりゃ魔族にきまってる。 魔法使いに勝てるのなんて魔族十二宮のの奴らだとか、王クラスの大悪魔だとかじゃないと無理じゃねぇか?」
「君ら人間に、だよ。 むしろ人間だからこそ勝てなかったのかな。」
リュシルの口元は笑っているが、目はただ遠くを見つめている。
「魔女と言ったって、人間の魔法使いと大して変わらないだろ。 ただ元々持っている魔力が多いだけで。」
「そう、人間より持っている魔力が多くて、少し長生きするだけ。 ただそれだけでも妬む対象になるには十分だったんだろうさ。 姿が人間と全く異なっていたならこんなことにはならなかったと思うよ。」
「俺たちが憎いと思ったりしないのか?」
エーデルハイトは難しそうな顔をして答えた。
「全く気にしていないと言えば嘘になると思う。 でも、私は今までフリッツ達と旅をしてきて、そんな風に思いたくても思えなくなったんだよ。」
確かにエーデルハイトこれまで一度も、このことを話さなかったし匂わせもしなかった。
「私は今でも恨んでいるよ。 私達魔女が存在した痕跡すらも歴史から消し去った人間をね。」
「それなのに今こうして話しているのはどうして?」
「勿論、当時の人間が目の前に居るなら惨いやり方で殺しているだろうけどね。」
焚火の炎が途端に大きくなった。
「でも、当時生きていた奴なんて皆死んだし、あなた達を恨んでも何も変わらないから。」
「魔女の迫害がいつ起きたか知らないけど、俺たちも昔の人間だよ。」
「知ってる。 でも、私とエーデルハイトはもっと前から生きているから。」
「なんだって? お前ら、本当は幾つなんだ?」
「レディーに年齢を聞くなんて無礼な男ね。」
「二人に出会ったのが63歳だったかな。」
ぼそりとエーデルハイトが呟いた。
「出会った時からおばあちゃんだったのかよ!」
「美魔女ってのは恐ろしいものだな。」
「褒めても何も出ないよ。」
「さぁ、暗い話はおしまいにしてこの後どうしようか。」
「このまま北に進むんじゃないのか?」
「私、モントレック城に行きたい。」
エーデルハイトの発言に俺とハインリヒは驚いた。
「なんで俺らが今野宿してるか、分かってるか?」
「そうだな、確かに今行くのはリスクが大きすぎる。」
「それじゃいいよ、私はリュシルと二人で行くから。」
そんなことを認めようものなら、この街が危ない。
先程の魔法を見るに、トラブルで戦闘が起こると確実に死人が出るだろう。
「分かった、ついて行くからおとなしくしておくれよ。」
「おいフリッツ、大丈夫かよ。」
「ハインリヒ、いつもの勢いはどうした? お前も変なところで弱気にならないでくれよ。」
「俺は弱気になんかなってねぇぞ!」
ハインリヒは単純で助かる。
「でもどうしてモントレック城に?」
「魔女イルメラがこの地にかけた夜の魔法の仕組みを見に行きたい。」
「私も大魔女の魔法は気になるよ。」
魔女の二人は夜の国の秘密に興味津々だ。
「少し休んだら行くか。」
4人は横になって眠った。
・・・
「戦士と魔法使いが揃えば怖いものなしだな。」
「だから、私は魔法使いじゃなくて魔女。」
「何が違うんだよ。」
「私は人間とは別の種族だから、一緒にしないで。」
「そう言われても姿形は人間そのものだろ?」
「人間とは比べ物にならない程の魔力を持っていてずっと長寿なんだよ。 そして何より、魔法を愛している。」
「でも魔女なんて見たことないし聞いたこともないよ。」
「だろうね。 だからこそ私は世界から完全に魔女という存在が消えてしまわないように魔女で在り続けるの。」
「まぁ、こだわりがあるなら別にそれでいいと思うけど。」
「私は何度でも訂正するから。」
・・・
俺は昔の夢を見た。
こうして再び旅をするようになってからというもの、300年前の夢を見るようになった。
エーデルハイトはあの宣言通り、魔法使いと呼ばれるたびに魔女だと訂正している。
それほどまでに、彼女にとって魔女と言うものは大切なのだろう。
「みんな起きたみたいだし、行こうぜ。 俺は嫌だけどな。」
「にしても、どうやって忍び込もうか。」
「魔法で姿を消せばある程度のところまでは進める筈。」
「それじゃ隠密行動だな。 ハインリヒの苦手なやつだ。」
「黙ってついて行けばいいんだろ?」
昔、眠っている竜の目の前を通り抜ける時に、ハインリヒが大きなくしゃみをしたことがあった。
その時は竜が目を覚まして暴れ、俺たちは死ぬ気で逃げまわった。
「それが今までできなかったから苦労したんだろ。 ”くれぐれも”隠密行動で頼むよ。」
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