第12話 星の渦巻く夜に
「僕はフリッツ、君を試すとしよう。」
ペートルは剣を構え、少しの間合いを取った。
「君も武器を取らないのか?」
「俺は別に強くない。 お前が期待するような奴じゃないんだ。」
「僕は殺すつもりでいくよ。」
ペートルは言葉通り、一足踏み込んで俺の首を狙ってきた。
俺はすかさず後ろへ下がったが、次々と来る連撃は確実に急所を狙ってくる。
「確かにその剣捌きは殺意で満ちているね。」
すると、ペートルの攻撃がやんだ。
「僕の太刀筋が見えるとは、君は決して弱い男じゃないだろう?」
「この戦い方だと一撃必殺が得意そうだね。」
「ご名答、僕の本気の一振りに反応出来た者は今まで10人も居なかったよ。」
ペートルが喋り終えた後、俺は無意識に体を反らした。
それと同時に刃が目の前を掠める。
今までと違い、一切の太刀筋が見えなかった。
「やっぱり、君は反応できるじゃないか。」
今のは反応出来たわけじゃない。
直感に体が反応しただけだ。
「次のも避けられるかな。」
その時、目の前に炎の壁が現れた。
突然の出来事で困惑したが、俺はこの間に距離を取ることにした。
「こんなので防げるとでも?」
ペートルは炎を切り裂きながらこちらへ進んでくる。
その姿はまるで魔王だ。
「ほら、君からも来てくれよ。」
「待って。」
2人の間に入ってきたのはリュシルだった。
おそらく、先程の壁も彼女かエーデルハイトが作ったのだろう。
「リュシル、邪魔しないでくれよ。 君も切らなくてはいけなくなる。」
「私はもう今夜であなたの元を離れるよ。」
「突然何を言う、僕が許すとでも?」
すると彼女は杖を振り上げ、呪文を唱えた。
「オービト・エトワール」
何が起こるのかと当たりを見渡すと、空の異変に気が付いた。
星々が北極星を中心に渦巻いているのだ。
その速さは段々と加速していき、辺りは夜とは思えぬほどの明るさに包まれた。
「これは分が悪いな、カンタン、フランソワ。 ここは退くぞ。」
その時、空から光の柱がペートルへ向かって一直線に降り注いだ。
その力は凄まじく、眩しくて目が開けられないまま吹き飛ばされそうになるほどだ。
暫くして目を開くとそこは再び夜の暗さで、先程の魔法が夢のように感じられた。
辺りの草が時計回りに倒れているのを見てハッとする。
「流石に僕も焦ったよ。」
目の前には盾を掲げるヴィリーと、それに守られたペートルが立っていた。
「ヴィリー、なぜペートルを守った?」
しかし返事は帰ってこない。
「無駄ですよ。」
後ろから歩いて来たのはフランソワだった。
やはり彼からは緊張感と言うものが感じられない。
「彼も私と同じく平和主義だったみたいで、よく話が合いましたよ。 なので、無駄な争いに巻き込まれることの無いよう我々の仲間になって頂きました。」
ヴィリーの顔ははっきりと見えない。
催眠でもかけられたのだろうと信じたい。
フランソワとカンタンは気付くとペートルの元へ集まっていた。
「それじゃ今晩は失礼するよ、また会おうじゃないか。」
「待て、ペートル! ヴィリー!」
彼らはヴィリーを連れたまま夜の闇の中へ消えてしまった。
「フリッツ!」
ハインリヒがペートルの消えた方から走ってきた。
「おい、今そっちにペートル達が行ったよ。」
「俺は見なかったけどな。 それよりなんでその女がそこに居るんだ。 それとヴィリーはまだ戻ってきていないのか?」
「ヴィリーなら丁度さっきペートル達に連れていかれたよ。」
「それじゃその女はなんだ? ヴィリーと交換でもしたのか?」
「そうだリュシル、街の人の眠りを覚ましてくれないか。」
俺はハインリヒの質問を無視してリュシルに尋ねた。
「もう解いたよ。」
「だから、なんで勇者の奴と一緒に居た魔法使いがここに居るんだよ!」
ハインリヒが苛々している。
「私は魔法使いじゃなくて魔女だから。」
「エーデルハイトと似たような事を言うんだね。」
「だって私たちは魔女だから。」
エーデルハイトは少し嬉しそうだ。
「それよりも、あなたたちの仲間の盾持ちは何者?」
「何者って、ただの傭兵だよ。」
「私の星魔法を盾一枚で防ぐなんて只者じゃない。」
確かに、ヴィリーの防御が破られたことは今までなかった。
あれほどの魔法を防ぐとは、リュシルの言う通り只者でなかったのかもしれない。
「そう言われても、ヴィリーの事を俺たちはそんなに知らなかったからな。」
「彼のこと、追いかけなくていいの?」
「どうせまた会うことになるんだ、その時に返してもらうよ。」
今からでは追いつくこともできないだろう。
「とりあえず休むために街に戻ろうぜ。」
「でも、衛兵に見つかってまた牢屋に戻るのは嫌だよ。」
「大丈夫だよ、きっと今頃それどころじゃないだろうから。」
それもそうだ、街の人々は今頃自分たちが眠っていたことに困惑していることだろう。
「その女は俺たちと来るのか?」
「私は魔女のリュシルだから、女って呼ばないで。 それと、あなた達について行く訳じゃなくてエーデルハイトについて行くの。」
「それじゃ俺たちと来るってことだ。 俺はまだお前の事信用していないからな。」
「私もあなたの事は好きになれなそう。」
「魔女って怖いだけじゃなくて面倒なんだよな。」
ハインリヒが呟いたとたん、彼の体は後ろへ吹き飛ばされた。
これから当分は怖い魔女が二人になり頼もしい反面、敵から受ける以外の傷が増えることだろう。
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