第11話 魔族の血筋
「大人しく捕まったみたいだね。」
俺たちがのんびりと休んでいると、牢獄にペートルが現れた。
「どうしてここに?」
「君らが丁度宿屋を探していたようだから衛兵に部屋探しを協力してもらったよ。」
「俺たちをここに閉じ込めてどうするつもりだ。」
ハインリヒは檻にしがみついてペートルを睨みつける。
「別にどうしようというつもりはないさ、ただ今回は少し聞きたいことがあってね。」
「お前に話すことなんかねぇぞ!」
「少し黙っていてくれないか、今はこの...」
「フリッツだ。」
「そう、フリッツ君に話しているんだ。」
「それで要件は?」
「単刀直入に尋ねよう。 魔王はなぜ君らに不老の呪いをかけた? なぜこんな旅人如きを殺さずに生かしておいたんだ。」
「そんなの魔王に直接聞けばよかったじゃない。」
エーデルハイトが間に割って入った。
「聞いたさ、聞いてなお分からないからここへ来た。」
「それならもう誰にも分からないでしょう?」
「僕は今、君たちに強い憎しみを抱いている。 今すぐにでも殺したいほどだ。」
「奇遇だな、俺たちも同じ気持ちだ。」
「君たちさえいなければ、僕は血を流すことなくこの世界を統べることが出来るというのに。」
「勇者になった後、今度は王にでもなりたいのか? それなら勝手になっておけばいい。」
「僕はもうすぐこの街を出るが、その前に君たちを試したいとも思っている。 僕の父が期待をするほどの人間を、だ。」
「お前の父さんが誰だか知らないが、俺たちはそんなことに構っている余裕はない。」
「君たちが本当に僕への障害になりえる存在なのかを確かめさせておくれよ。 それと... 僕の父は魔王だ。」
「なんだと?」
辺りの空気が凍り付く。
今まで彼に会うたびに感じていた嫌な気はこのためだったのか。
「まさか、まだ魔王は死んでいないのか?」
「僕が殺したと、初めて会った時に話しただろうに。」
「その話が本当なら親殺しだぞ、そんなことをして平気でいられるのか?」
今まで黙り込んでいたヴィリーが口を開いた。
「僕ら魔族にとって親殺しなどおかしなことではない、殺される側が悪いんだよ。」
「今まで正義の味方だと思い込んでいた勇者が魔族だとは...」
ヴィリーは俯き、座り込んだ。
「人間のくだらない価値観で僕らを測るなよ。」
確かに、魔族は昔から人間とは相成れぬ存在だ。
違う感覚を持ち合わせているのは当たり前だろう。
「魔王の子はお前だけか?」
「僕らがみな殺した。」
ペートルは口角を上げた。
「親である魔王を殺して、兄弟までも殺して、お前は何をしたい?」
「言っただろう、今は君たちを試したい。 月が一周廻るまでに街の外へ来るんだ、来なければ分かっているね?」
そう言うと振り返って去ってしまった。
再び牢獄は静寂に包まれた。
「行くのか?」
ハインリヒが横目でこちらを見ながら聞いて来た。
「行くしかないだろう、さもないとこの国が危ないからな。」
「私達囚われの身だけど?」
「この程度の檻、抜けるのは簡単だろう?」
「まぁね。」
エーデルハイトは何処からともなく杖を取り出し構えた。
「ゼンデ・シャッテン」
エーデルハイトの体が檻の外の影と入れ替わった。
「やっぱり魔女の魔法は何でもできそうで怖いね。」
彼女に檻を開けてもらい、三人は外に出ることが出来た。
「そういや、あのおっさんどうする?」
ヴィリーと同じ部屋に入っていた男は泡を吹いて倒れている。
「気絶しているし、鍵をかけて放置しておこう。」
階段を昇り、地上に出て街の異変に気が付いた。
「皆眠っているな、しかも倒れるように。」
「魔法だね、やっぱり行かなきゃだめ見たい。」
「俺は逃げてもいいか?」
ヴィリーがハインリヒの後ろに隠れた。
「やい前衛、なに俺の後ろに引っ込んでんだ。」
「勇者ってだけで恐ろしいのに、それがいざふたを開けてみたら魔王の息子だったなんて戦っていい相手じゃないだろ!」
「いいか、俺たち三人はそうやって300年間修業という名目で魔王と戦うことから逃げて来たんだ。」
「そうだぜ、この面倒な状況も全て俺たちのせいなんだ。」
「だからこそ今戦わないといけないの。」
「逃げてもいいけど、俺たちはいくぞ。」
俺たちが街の門へと向かうと、ヴィリーはその後ろを何も話さずについて来た。
「思っていたより早かったね。 もっとかかると思っていたよ。」
「さぁ来たんだ、街に掛けられた魔法を解くんだ。」
「そうしたいのは山々だけど、僕らが戦う邪魔になってはいけないからね。 終わった後に眠りは解こう。」
「絶対だぞ!」
ハインリヒは既に槍斧を手にし、戦う準備は万端のようだ。
「そう焦るな、それカンタン。お前の相手だ。」
ハインリヒの相手のカンタンは大きな斧を持っており、戦士同士の対決だ。
二人は思い切り飛び上がると、空中で刃を交わした。
それからは幾度となく鉄のぶつかる音が聞こえるようになり、衝撃波と地面の揺れは鳴りやむ様子を全く見せない。
「彼は神話の時代に生きたとされる、ヨトゥンという巨人の血を引いていてね。」
「そんな奴がどうしてお前なんかの仲間に?」
「僕は契約をしたんだ、魔王を倒すためにパーティへ入ることを。」
「もう魔王なら倒しただろう?」
「そう、彼は魔王を倒した後の契約についてはっきりと明記しなかった。 だからこそ、今になっても彼を僕の仲間にすることが出来た。」
「魔族との契約は身を亡ぼすというのに。」
「さぁ、おしゃべりはおしまい。 彼には、フランソワの相手をしてもらおう。」
ペートルが指差したのはヴィリーだった。
「どうもこんばんは、フランソワと申します。 せっかくだし、そちらでお茶でもいかがでしょうか?」
「あ、あぁ。」
急な流れの変わり方にヴィリーは困惑している。
しかしこれは俺でも戸惑うだろう。
「安心してください、私は平和主義の僧侶ですので。 決してあなたに剣を向けたりはしませんから。」
二人は向こうへ歩いてゆくと、なぜか置かれていた椅子に腰かけて本当にお茶会を始めてしまった。
「彼はこの街出身の僧侶なんだ。 実力のある僧侶だったが、ある時攻めて来た魔物に殺されてしまってね、非常に惜しいものだよ。」
「それじゃあいつは...」
「そう、彼女が生き返らせたんだ。」
ペートルは隣に立つ魔法使いに視線を移した。
「死者の蘇生術はそもそも禁術だし、そのためには数多の魂が必要なはず。」
エーデルハイトが顔を顰めた。
「そう、禁術だ。 だけども術の為に消えた街は魔王を倒すための致し方ない犠牲なんだよ。 分かってくれるかな。」
ペートルの顔は月光に照らされて青白く、不気味に微笑んでいる。
「やっぱり狂っている。」
「それじゃぁ、その魔法に詳しそうなお嬢さんは魔法使いのリュシルと戦ってもらおう。」
「私は魔法使いじゃない、魔女。」
リュシルはペートルを睨んだ。
「分かっているじゃない、リュシル。」
エーデルハイトはリュシルに近づき、微笑んだ。
「あなたも魔女みたいね。」
「そう、私も魔女だ。」
「ペートル、私は彼女と戦いたくない。」
「君がそんなことを言うのは初めてだな。 仕方ない、僕はフリッツ、君を試すとしよう。」
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