夜の国編
第10話 明けない夜の国
「やっと登り切ったか、さすがに俺も疲れたぜ。」
俺たちはクレーベン山地の険しい坂道を丁度登り切ったところだ。
「途中で山小屋が無ければ凍え死んでたな。」
「昔からこのクレーベン山地を超えるのは難関とされていてね、俺たちも昔苦労したものだよ。 登り切ってしまえばなんてことないんだけど。」
「それにしても、なんであんなところに城があるんだ?」
遠くには立派な城とその城下町が見える。
「クレーベン山地一帯はモントレック王国の領域だからな。 あれはモントレック城だろう。」
「こんな辺境の高原に王国があったなんて驚きだよ。」
「割と知られていない国だからね。」
「にしても、もう辺りは真っ暗だし、夜が明けてから動いた方がいいんじゃないか?」
ヴィリーが腰を下ろし、荷物を広げ休む準備をした。
「それは無理だろうね。」
エーデルハイトが空を見上げながら言った。
「無理って、ここには居座らない方がいいのか?」
「ちげぇよ、モントレックの別名を知らねぇのか。」
「ここは別名”夜の国”と呼ばれているんだ。」
「そう、大昔に魔女イルメラがこの地から陽の光を奪ったんだってさ。」
「夜明けを待っていても来ることはないぞ。」
「夜明けがないなんてなんだか気分が滅入りそうだな。 でも俺は疲れたし、とりあえず休もう。」
俺たちは火を起こして休憩をとった。
暫くの間座ったり横になったりしたが、常に四人の顔は空を向いていた。
夜空にはいつもより月がいくらか大きく映り、数多の星々はてらてらと光り輝く。
人々の住む環境がいくら変わろうとも、どれだけ文明が発展しようとも、この景色は300年間変わらずにそのままだ。
向こう300年もこのままでいてくれると思うと、なぜか心が落ち着く。
もしこの呪いが解けなかったとしたら、俺はこの星と共に在りたいと思った。
「それじゃ行くか。」
「時間の感覚がおかしくなるや、早く街に行こうぜ。」
そうしてまた3日程歩き続けて街にたどり着いた。
「懐かしい、昔とはずいぶん街の作りが変わったね。」
「にしても賑やかだな、祭りでもやっているのか?」
「おぉ、旅人さんですか。 今丁度勇者様がこの街に来ていてですね、お祭り騒ぎですよ。」
「おい、この街からさっさと出ようぜ。」
ハインリヒが明らかに嫌な顔をしている。
「いや、そうもいかない。 ここには有名な僧侶が居るらしいんだ、もしかしたら俺たちの呪いについて何か分かるかもしれない。」
「それじゃ後で来るってのはどうだ?」
「大丈夫だろハインリヒ、勇者から会いに来なければ会うこともないんだし。」
「なんでそんなに勇者を避けたがるんだ?」
ヴィリーがハインリヒにそう聞いた時だった。
「また会ったね、君たち僕の話をしていたみたいだけども?」
そこに立っていたのは勇者ペートルだった。
「おまえ!」
ハインリヒが勇者に殴りかかろうとしたところ、ペートルの隣に立っていた男がそれを片手で止めた。
「挨拶がまだだったね、彼が戦士のカンタン、後ろの二人が僧侶のフランソワと魔法使いのリュシルだ。」
「それにしてもどうしてここに?」
「そりゃ、街に突然魔女が現れたら様子を見に行きたくなるものさ。 まさか君らとは思っても居なかったけど。」
「こいつと話していてもいいことないし、さっさと行こう。」
エーデルハイトもハインリヒと同じく勇者の事をよく思っていないようだ。
勿論俺もだが。
「もう行くのか。」
「申し訳ないけど、こちらも用がありましてね。」
ハインリヒとエーデルハイトの二人は俺たちを置いて先に行ってしまった。
「警告しておくけどな、これ以上目立ったことをするんじゃないぞ。」
勇者の声のトーンが下がった。
「と言うと?」
「お前たちの呪いを解く術はない、わかったら旅などやめて再び森の中で隠れて暮らすことだ。」
「なぜ?」
「これ以上旅を続けるならこちらも動かざるを得ないからな。」
「そうですかい。」
俺は先に行ってしまったハインリヒとエーデルハイトを追いかけて街の中へ進んだ。
「おい、勇者さんを怒らせて大丈夫なのか...?」
ヴィリーが心配そうにこちらへついて来た。
「大丈夫じゃないだろうけど、どうも彼らから嫌な感じがしてね。」
「旅は穏便に行こうじゃないか。」
ヴィリーの声が震えている。
「情けないな、穏便に済まなかった時のためのヴィリーだろ?」
「勇者を敵に回した時は俺もさすがに逃げるからな。」
「大丈夫さ、そんなことにはならないと思うから。 おそらくたぶんきっと。」
「おそらくたぶんきっとそんなことになる未来しか見えないぞ!」
「やっと来た、何か言われなかった?」
先を歩いていた二人に追いついた。
「特に何も?」
「特に何もじゃないだろ、勇者さんら俺たちに旅を止めろって言ってたじゃないか!」
「よくわからねぇけど、もちろんやめないよな?」
「やめないさ。」
「それならいい。」
俺たちは街の教会へ向かった。
「すいません、この街にとても優秀な僧侶が居ると聞きまして。」
「もういませんよ。」
教会の神父はきっぱりと言い放った。
「前は居たみたいな言い方ですが?」
「その通りです、前は居ましたが今は旅に出ているのでいません。 しかし、今なら丁度帰ってきているので会えると思いますよ。」
「その名前ってもしかして...」
「フランソワです、今じゃ知らない人はいないでしょうね。」
三人はげんなりした。
「まさか勇者パーティの僧侶だとは...」
「もう街を出てもいいかもね。」
「とりあえず宿屋で休もう。」
その時だった。
「お前がフリッツか?」
王国の衛兵が俺たちを取り囲んだ。
「フリッツですけども。」
「フリッツ、それとハインリヒ、エーデルハイト、あとは...」
「ヴィルヘルムだ。」
「とにかくお前たち四人に逮捕状が出ている!」
「俺たち何かしたか?」
「もしかして、300年前に国王の銅像を吹き飛ばしたのがバレたのか?」
「ごちゃごちゃ言うな、大人しく縄にかかれ。」
「ここは従おう。」
俺たちは訳も分からず牢獄へ入ることになった。
歯向かって大事になっては困る。
「四人一緒の部屋だったらよかったのにな。」
「そうもいかないみたいだ。」
「いつまでこうしているつもりだよ。」
「それ見ろ、大丈夫じゃなかったじゃないか!」
「新入り、うるせぇぞ!」
ヴィリーは運悪く強面の大男と同じ部屋になったみたいだ。
気の毒な事に、俺たち三人がどれだけ話していても、ヴィリーだけは会話に参加しなくなった。
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