死霊の館編

第7話 森の洋館

「さっきは本当に焦ったよ。」


ヴィリーがヘンツの街を出る直前に宿代を持っていないことに気付き、危うくお縄にかかるところだった。


「町長さんが太っ腹で助かったぜ。」


最終的に俺たちは町長に頼み宿屋代をタダにしてもらったのだ。


「こんなのだから俺たちは勇者になれないんだぞ。」


「それにしても、魔王が討たれたというのに変わらず多くの魔物が人々を襲うのだな。」


「よくわからねぇけど、残党が悪さしてるだけなんじゃ?」


「勇者さんにはその辺も退治してもらいたいものだけど。」


「さてフリッツ、次は何処に行くの?」


「何処に行こうかね、とりあえずクレーベン山地を超えてクナッハ地峡を目指そうと思うよ。」


「クレーベン山地まではこの森を超えないといけないんだな。」


俺たちは目の前に広がる森林に圧倒されていた。


「この森、行方不明になった人が結構いるらしいね。」


「フリッツ、大丈夫かよ!」


「大丈夫だよ、みんな強いんだから。」


俺は先頭に立って森へと足を踏み込んだ。


しばらく歩けば日の光は背の高い木々に遮られて届かなくなってしまった。


「なんとなく不気味だな。」


「ヴィリー震えてるぞ?」


「ハインリヒだって冷や汗を垂らしているじゃないか。」


「エーデルハイトはなんともなさそうだな。」


その時、木の陰から物音がした。


「グラン・マギー!」


「ちょっと待っ...」


エーデルハイトが普段ならあり得ない速度で魔法を放った。

その威力は凄まじく、辺りの木々が消し飛び大きなクレーターが出来た。


「さっきのはただのリスだったぞ。」


「エーデルハイトも怖かったみたいだな。」


彼女は顔を赤らめた。


「でもこれでやっと日の光が感じられるや。せっかくだし休憩しようぜ?」


「そうもいかないみたいだぞ。」


頭上から射す光はすぐに消えてしまい、雨が降り始めた。


「山の近くは気候が変わりやすくて困るな。」


「近くに雷も落ちたみたいだ。」


四人は駆け足で森の中を進んだ。


「あれ、ここさっきも来たぞ。」


少し道が開けたかと思えば、さっきエーデルハイトが作ったクレーターに戻ってきた。


「まっすぐ進んだ筈なんだけどな。」


「なんでもいいから行こうぜ!」


次第に雨脚は強まる。


「また戻ってきたな。」


「こうなったら後ろに戻れば森からは出られるだろ?」


「いや、無駄みたいね。」


エーデルハイトが呟いた。


「やってみなきゃわからねぇだろ?」


「分かるよ、だってもう敵の術中だもの。」


「どういうことだ?」


「敵の正体は分からないけど、もうこの辺りには結界が張られていて抜け出すことはできないみたい。」


「エーデルハイトがそういうなら仕方ない。」


俺たちは大雨の中立ち尽くした。


「もう夜みたいだな。」


夜になっても雨が降り止む気配はなく、むしろ雷と雨の勢いは激しさを増すばかりだ。


「待て、あそこに明かりがあるぞ。」


ヴィリーが指差した先には確かに明かりが見えた。


「もうなんでもいいから明るい所に行きてぇよ!」


ハインリヒが明かりに向かって走り出した。

俺たちも後をつけていくと、そこには立派な館が。


「夜になるまでこんな立派な館に気が付かなかったなんてありえない、きっと罠だよ。」


「罠でもなんでもいいから早く入ろうぜ。」


「罠と分かっていて入るのか?」


「俺たちは強いんだってフリッツが言ったんだぞ。」


そう言うとハインリヒは皆の制止を押しのけて館へ入ってしまった。


「入っちゃった、もう知らないよ。」


エーデルハイトがため息をつきながら中へ入る。


「俺たちも行く...のか?」


ヴィリーと少しの間顔を合わせて悩んだが、仕方なく入ることにした。


「やっと来たか。」


洋館の中はやはり広かった。

まず目に入るのは豪華なシャンデリアと二階へ続く大きな階段だ。


「入った限りだとなんともなさそうだな。」


「誰も居ないみたいだし、さっさと寝室を見つけて寝ようぜ。」


「なんともないわけないでしょうに。 なんでこんな広い館に誰も住んでないのか、なんで誰も居ないのに明かりがついているのか、なんでここまできれいに掃除されているか、考えないの?」


エーデルハイトが能天気なハインリヒとそれに流されるヴィリーにイライラしている。


「でも休みたいのは確かだし、寝れそうな部屋を探したいところだな。」


「フリッツまで...」


「エーデルハイト、そんな神経質になるなって。」


ハインリヒが先頭に立って部屋を探索している最中、エーデルハイトは常に一歩下がって行動した。


「この館、どれだけ広いんだ?」


「外から見たより幾らも広くて疲れてきたな。」


「だから言ったじゃない、ここはただの館じゃないって。」


少し先の方からハインリヒの声がする。


「おーい、ベッドがあったぞ!」


その部屋には丁度四つのベッドがあり、宿屋とは比べ物にならない程に綺麗な部屋だった。


「歓迎されているみたいで気持ち悪い。」


「細かいことは気にしない、着替えてさっさと寝ようぜ。」


エーデルハイトが着替えている間に俺たちは部屋の外で着替えた。


「エーデルハイトもピリピリしすぎなんだよな。」


「ハインリヒ、お前が疲れているのは分かるけどもな。あまりにも不用心じゃないか?」


「敵が襲って来ればその時は俺が倒してやるからな。」


「それも大事だが二人とも、こういう時って俺たちが外に出てエーデルハイトは一人部屋の中で着替えるのか?」


ヴィリーの場違いともいえる発言に俺は唖然としてしまった。

ハインリヒに次いでヴィリーも警戒心を持ち合わせていないようで困った。


「そうだけども?」


「街中の宿屋は分かるけど、こういう時は普通三人が中で一人が外なんじゃないのか?」


「一応彼女もレディーなんだ、我慢してやってくれよ。」


「何がレディーだ、マダムを通り越しておばあちゃんだろう。」


「この会話が聞こえていても知らないぞ。 一応遮るものはドア一枚しかないんだからな。」


「入ってもいいよ。」


エーデルハイトに声を掛けられて部屋に入った。


俺、ハインリヒの後にヴィリーが入ったが、後ろで打撃音が聞こえた。


「甲冑の弱点って打撃攻撃らしいよね。」


「確かにそうだが... 俺は兜を被っていないんだ。」


床に血が広がる。


「こんなのに回復魔法を使うこっちの身にもなってくれよ。」


もしかしたらエーデルハイトもハインリヒやヴィリーと同じなのかもしれない。

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