第4話 もういらない

「おい、この村何もねぇな。」


「王都から少し外れるとだだっ広い平原が広がってるだけだからな。こんなところに村があること自体驚きだよ。」


「別に少し休むくらいだし、別に何もなくたっていいんじゃない?」


「それじゃ少し散歩でもしようか。」


「お前たち。この村に用か?」


「俺たちは魔王討伐の為に旅しているんだ。少し立ち寄らせてもらうよ。」


「私はこの村の傭兵として、変な真似をしたら容赦しないからな。」


「えらい排他的だな。少しぐらい歓迎しろよな。」


「ハインリヒ、最近この辺りにも魔物が増えていてピリピリしているんだ。物資の補給が出来たら少し休んでここを出るぞ。」


「私は別に旅人を歓迎しないわけではない。必要ならばゆっくりして行ってくれ。」


「傭兵さん、あんた立派だな。俺らに雇われないか?」


「まさか。俺には村の幸せを守るという仕事があるんだ。」


「そうかい。」


「この村に傭兵が要らなくなるような時代が来ればいいのだが。」


・・・・・


少し眠っていたみたいだ。

日は既に傾いている。


「フリッツ、魔法円を描いて来たよ。」


「ありがとう、あとは発動させるだけだな。」


「術式のキーを何かに移したいのだけど、何かいいものないかな。」


「この村で大切にされているものでいいんじゃないか?」


二人で悩んでいると、部屋にハインリヒとヴィリーが戻ってきた。


「そうだヴィリー、この村に代々伝わる宝物とかないか?」


「宝物? 報酬は出ないと言っただろう。」


「結界を張った後、術式を固定するための物が欲しい。宝石とかだとやりやすいんだけど。」


「それは失礼した。この村には宝と呼べるものなんて何もないが、これはどうだ。」


ヴィリーは首から下げていたペンダントをエーデルハイトに渡した。


「これはいい、少し借りるよ。」


エーデルハイトがペンダントの宝石に魔力を籠める。


「もうこれで大丈夫。」


「それじゃ、問題も解決したんだし俺たちと旅しないか?」


「俺には俺の仕事があると言っただろう?」


「それじゃその仕事が必要なものか村人に聞いてみようじゃないか。」


俺たちは村の広場へ向かった。


「穀潰し、随分と速いお目覚めだな。旅人さんと村を出るのか?」


ヴィリーは首を横に振る。


「いや、そのつもりはない。」


「お前な、この際はっきり言わせてもらうけどな。この村にもう傭兵は要らないんだ。勇者さまの結界もあるし、俺たちは平和に生きていけるようになった。」


「今まで村を守ってくれた傭兵にその言い方はねぇだろ!」


「ハインリヒ、もういい。」


ヴィリーがハインリヒを抑えた。


「村長のところへ行ってくる。」


「フリッツ、こんなのあんまりだろ?」


「本人がそれでいいと言うならば俺たちに口出しする権利はない。戻るぞ。」


宿屋で夜を過ごしたが、ここ最近の昼夜逆転生活のせいで中々眠ることが出来なかった。


「結界、うまく働いているみたいだな。」


「当たり前でしょう。誰が掛けたと思っているの?」


エーデルハイトは自信にあふれた返事をしてきた。

ハインリヒはとっくに眠ったが、彼女は俺と同じく眠れないようだ。


「でも、結界を張る魔法なんてどこで覚えたんだ?」


「私の故郷だったと思うけどあんまり覚えてないや。」


「エーデルハイトの故郷か、その話はしたことなかったな。いったいどこにあるんだ?」


「クナッハ地峡の先にある森の中。」


クナッハ地峡と言えばここからずっと北だ。

この後通ることになるだろう。


「それならせっかくだし、いつか寄ろうか。」


「もうないよ。跡地すら残っているか怪しいし。」


「残念。」


しばらくの静寂が辺りを包み夜が明けた。


「もうそろそろ村を出ようか。」


「思ってたより長くここに居たな。」


「時間はあるんだしいいじゃないの。」


「次は何処に行こうかな。」


「待ってくれよ!」


甲冑の擦れる音がこちらへ聞こえてくる。

後ろからヴィリーが走ってきたようだ。


「仕事はどうした。」


「村長も傭兵はもういらないってさ、昨日限りでクビになったよ。それと、ペンダントは置いてきた。」


「それじゃ俺たちについてくるか?」


「お前たちが俺を雇うならな。」


「報酬は出せないぞ。」


「いや、報酬ならもう貰った。」


ヴィリーは振り向いて村を眺めた。


「いい眺めだな。」


「そうだな、お前が守った景色だ。」


「よし、このヴィルヘルム、命に代えてそなたらを守ろう。と言っても、お前たちは守られれる程弱くないだろうけどな。」


「いや、丁度前衛が欲しかったんだ、防御特化の。」


「ハインリヒは敵に突っ込んでいくばかりで私達を守ってくれたりしないものね。」


「おい!」


「せっかく格好つけたんだからもうちょっといい反応してくれてもいいだろ。」


そうして俺たちは村を出た。


「次向かうのはここから西、クレーベン山地の麓にあるヘンツの街だ。」


「花の街だね、私はあの街好きだよ。」


「俺は花なんかに興味ないぞ。」


「知ってるさ。でも少し寄るくらいいいだろ。」


「なぁいいか。」


ヴィリーが足を止めた。


「どうしたヴィリー。」


「このパーティの役割分担だが、皆のクラスはなんだ?」


「クラス?」


「クラスってなんだ?」


「そんなの聞いたことねぇぞ。」


「お前たち本当に冒険者か?」


「冒険してたのも300年前の事だからな。」


ヴィリーがため息を漏らす。


「クラスってのはな、そうだな... 俺は盾持ちのナイト、エーデルハイトは明らかに魔法使い、ハインリヒは戦士だな。」


「私は魔法使いじゃなくて魔女だから。」


「俺は確かに戦士だ。」


「俺は?」


「フリッツは戦闘の時何をしているんだ?」


言われてみれば、俺は基本的に二人の動きを見ているだけだ。


「特に何も。」


「本当に何もしないのか?」


「回復したり簡単な補助魔法を使ったり、エーデルハイト程いろんな魔法は使えないけど。たまに遠距離攻撃をしたり、ハインリヒと接近戦をしたりもするかな。」


「めちゃくちゃだ、そんなの聞いたことないぞ。」


「分かってないな、フリッツは気分だったり状況によっていろんな事してくれるんだ。余計な手出しはしないから俺の獲物を奪うこともないしな。」


「頼もしいが、昔の冒険者ってのは分からんものだな。」


「いや、私もこんな奴初めて見たし、こいつ意外で見たことない。」


「こんな奴とかこいつとか、なんだかひどくないか?」

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