第3話 幸せを守る傭兵

「おい、二人とも起きろ。」


俺は二人をベッドから突き落とした。

こうでもしないと起きないからだ。


「お前日中寝っぱなしだったからって俺らを起こすなよ。」


「違うんだよ、外から妙な音がする。」


「本当だ、様子見に行くの? 面倒事の予感がするよ。」


エーデルハイトがもう一度寝ようとした。


「ハインリヒがキレる前に起きてきておくれよ。」


「わかったよ。」


ハインリヒは面倒事とあれば見過ごせない性格なのだ。

それに暴れるとエーデルハイトと同じくらいには厄介だ。


「宿屋の人ももう寝てるみたい。」


「当たり前だ、深夜ど真ん中だぞ。」


三人は宿屋から出た。


「音のする方向はこっちだ。」


村の所々に戦いの後が残っている。

やはり何者かが戦っているようだ。


「って、何なんだよあれ。」


俺たちが目にした光景はなんとも不気味なものだった。

数百を超える魔物が村に向かってくるのが見える。


「おいしがない旅人さんよ、危ないから宿屋に隠れてるんだ。」


「誰だ?」


ハインリヒが首を傾げる。


「お前、昼間の...」


振り向くとそこには甲冑を着た、あの”穀潰し”が立っていた。


「それともお前ら、腕に自信はあるか?」


「当たり前だ!」


ハインリヒはやる気全開だ。


「見ての通り、今回の襲撃はかなり大規模で俺一人だと少し厳しそうだ。」


「仕方ない、手伝うよ。」


「よし、よく聞け。俺たちはあいつらを殲滅しようだなんて到底できっこない。だから、夜明けまで持ちこたえるだけでいいんだ。あと、褒美は出ないからな。」


「わかってるさ。でもせっかくなら早めに片付けてゆっくり寝ようか。昼間に寝ることのないように。」


「何言ってるんだ、あの数だぞ!?」


「そうだな、ハインリヒ。お前はここに残って村を守れ。」


「俺は前衛なんだから派手にやらせてくれよ!」


ハインリヒが悔しそうに槍斧を地面へ突き刺した。


「騎士さんとエーデルハイトはこっちだ。」


「俺はヴィリーとでも呼んでくれ。」


「わかったヴィリー、村からできるだけあの大群を離してくれ。」


「そんなのどうすれば?」


「あの群れに突っ込んで、そのまま逃げるんだ。」


「囮かよ! あの大群だ、死んでもおかしくないぞ!」


ヴィリーの手が震えている。


「大丈夫、お前が死ぬことはなさそうだ。」


「それとエーデルハイト。」


「いや、なんとなく分かった。」


「そうか。それじゃ久々の実践楽しんで。」


「旅人さんよ、楽しんでなんて言ってる場合か?」


「俺はフリッツだ、とにかく見ていれば分かるさ。」


しばらくして覚悟が決まったのか、ヴィリーは馬に跨り奇声をあげながら敵の元へ突っ込んでいった。


「本当に大丈夫なの? あれ。」


エーデルハイトが心配そうにしている。


「さぁ?」


「フリッツは酷い奴だね。」


俺はエーデルハイトに魔法で飛ばしてもらい、二人で村の近くの丘へ向かった。


少しして、敵が動き始めた。

先頭ではヴィリーが全力疾走している。


「あ~あ、馬を失ったのね。甲冑を着ながら走るなんて地獄だろうに。」


「なんだか生意気だしフリッツも落としたくなるね。一緒に走ってきなよ。」


「冗談だって冗談!」


俺は一度同じような状況でエーデルハイトに落とされたことがある。

あの時は怒り狂ったドラゴンに追いかけながら体力馬鹿のハインリヒと走ったが死ぬかと思った。


「よし、もうそろそろいいよ。」


エーデルハイトが杖を構える。


「ヴィリー!伏せろ!」


「グラン・マギー!」


エーデルハイトの持つ杖の先からとてつもない大きさの魔力の塊が発射された。


辺りは閃光に包まれ、大きな爆発音とともに衝撃波が伝わってくる。


「無属性か、わかってるね。」


「火属性で火事を起こしたら面倒でしょう?」


「さて、ヴィリーは何処だか。」


「消し飛んでなければいいけど...」


抉れた地面の隅に盾を構えたヴィリーを見つけた。


「おい、大丈夫か!」


俺たちはヴィリーの元へ急いで駆け寄った。


「お、お前たちバケモンだ!ただのしがない旅人なんかじゃないだろ!」


声を震わせ、冷や汗をだらだらと額から流している。


「いや、バケモンはどっちだか...」


「そうね、結構強めに撃った私の魔法を盾一枚で完全に防ぐなんて、そっちの方がバケモンだよ。」


「なんでもいいから早く帰してくれよ...」


俺は足がすくんで立てなくなったヴィリーを担いで村へ戻る。


間もなくして夜が明けた。


「おい、俺だけ何の活躍もなしかよ!」


「あんなにうまくヴィリーが敵を引き付けるとは思ってなかったしな。」


「早速だけど彼に話を聞きに行こうか。」


「その必要はない。」


部屋の扉が開き、ヴィリーが入ってきた。


「丁度いい、全部話してもらおうか。」


「そのつもりだ。あれは何年前だったか、勇者一行がこの村に訪れた時だった。」


ヴィリーはベッドに腰を下ろし話し始めた。


「勇者一行は村に夜な夜な押し寄せる魔物へ対抗するために、村の周りを囲うように結界を張ったそうだ。」


「それは村人から聞いたよ。」


「しかし俺は知ってるぞ。あいつらは結界なんて張っちゃいない。魔物はそれからもこの村を襲ってきたし、数も前よりずっと増えた。俺はこの村を守るために毎晩戦わなければならなかった。」


「一人で、か?」


ハインリヒが眉間に皺を寄せた。


「あぁ。夜な夜な誰かさんが村を守るために戦ってるなんて誰も知っちゃいない。村の平和は皆、ありもしない勇者の結界のおかげだと思っているからな。」


「なぜ秘密にするんだそんなこと。」


「なんでだろうな。でも、皆偉大な勇者さまのおかげでこの村に平和が訪れたって思っていた方が幸せだろ? 俺はこの村の皆の幸せを守る契約して傭兵になったんだ。秘密にするのもそれが仕事だからだろうな。」


ヴィリーは俯きながらも微笑んでいる。


「そうか、わかったよ。ところでエーデルハイト、この村に結界を張れるか?」


「村を一周する魔法円を描くから時間はかかるけど日没までには完成させる。」


「なるだけ頑丈なやつを頼んだよ。」


「おい、お前たち俺の仕事を奪うつもりか?」


「お前傭兵だろ、俺たちに雇われないか?」


「何言ってるんだ。傭兵を雇うのにどれほど金がかかるのか知ってるか?」


「お前は飯を食わせてもらうだけで村の為に命を懸けて戦ってたんだ。そんなに高くはつかないだろう。」


「お前は本当に生意気な奴だな。お前、歳は幾つだ?」


「幾つだったかな。325前後だと思うけど。」


「300ってなんだよ。それじゃ老いぼれジジイじゃねぇか。」


「そうだよジジイだ。俺たち不死の呪いにかかってるから歳をとれなくてな。」


「それならそこの魔女はババアか?」


「あ~あ、知らないぞ。」


その瞬間、ヴィリーの体は窓を突き破って外へと放り出された。


「こりゃ弁償モノだな。」

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