傭兵ヴィルヘルム編
第2話 穀潰しヴィリー
「おい、この飯美味いな!」
三人は城下町で昼食をとった。
「そりゃ当たり前だろう。今まで味のついたものなんてまともに食ってなかったんだからな。」
元々大食いだったハインリヒはものすごい勢いで食らいついている。
周りの客が引くに程だ。
「そろそろ出ようか。すいません、お会計を。」
「いえ、お金は結構ですから。その代わり、当店にはもう来ないでいただきたい。」
俺たちは店員に追い出され、その上に出禁までくらってしまった。
「俺ら何かしたか?」
「私達じゃなくてハインリヒがでしょ。」
「よくわかんねぇけどただ飯食えたし、もうこの街は出るしでラッキーだったな。」
「おいおい、この先の街では同じこと繰り返さないでおくれよ。」
早速この先の旅が思いやられる。
「旅の物資も一通り手に入ったし、そろそろ出るか。」
「フリッツ、出ると言ってもどこへ行くかまだ聞いてないよ。」
「オーリエ川を北に行くとたしか村があった筈だからそこを目指すよ。」
なにせ300年ぶりだ、道のりなんて細かくは覚えていない。
城門を抜け、川沿いの街道を歩く。
並木が丁度花を咲かせており、まるで三人の旅立ちを祝ってくれているかのようだ。
「そういやハインリヒは同じ武器をずっと使っているけど、新調したりしないのか?」
「この槍斧はな、俺が故郷を出た時からずっと使ってるんだ、思い入れってやつがあるんだよ。エーデルハイトもわかるだろ?」
「私の杖は別になんでもいいけど。形さえしっかりしてればその辺の枝でもいい。」
「そういう割にはその杖、昔から変わってないだろ。」
「変える必要もないから。」
「思い入れか...」
「フリッツは何かそういうものがあったか?」
「いや。俺も武器は戦えればそれでいい。」
「冷たい奴らだな。」
「でも、二人には思い入れ?ってやつがあるさ。」
「よくわからないね。」
「エーデルハイトは確かに冷たい奴だ、そこは同情するよ。」
そんな話をしていれば、既に辺りは暗くなって遠くに灯りが見えた。
「半日で村が見えるとは思っていなかったな。思ったより近くてよかった。」
しかし村までの道のりは思っていたよりも長く、もう少しもう少しと歩くうちに夜は明け、たどり着いたのは昼過ぎだった。
「おい、あれはなんだったんだ。全然近くなかったじゃないかよ。」
「なんでもいいから休みたい、宿屋に先に泊まっているよ。」
エーデルハイトはさっさと宿屋に入ってしまった。
「流石に俺も夜通し歩くなんて考えてなかったし疲れたな。」
「俺らも宿屋に行くか?」
「いや、ハインリヒは先に行っててくれ。俺は少し村を回るとするよ。」
「俺たち二日は寝てないんだ。無理はするなよ。」
俺は村の広場へと向かった。
この景色、記憶の中と殆ど変わっていない。
俺はどこかに懐かしさを憶えて気を緩めた。
「まだあいつは寝てるのか?」
「あぁ、一体いつになったら働くのやら。さすがは穀潰しだな。」
「笑い事じゃないぞ、いい加減この村から追い出してもいいんじゃないか?」
村人が何やら話をしている。
「こんにちは、俺はしがない旅人なのですけれども。」
「あ、あぁ。ようこそ、オーリエ村へ。」
「何もない所だけどゆっくりして行ってくれよ。」
「どうも。それより、さっきは何の話をされてたのですかね。」
「何の話って、この村の穀潰しの話さ。」
「おい、旅人なんかに話さなくたっていいんじゃないか?」
村人のうちの一人が表情を曇らせた。
「いいじゃねぇか。どうせならこの機会だ、旅人さんに説得してもらおうぜ。」
「気は進まねぇけど... 暇があるならあの小屋で寝てるやつと話でもしてきてくれよ。」
「誰が居るんですか?」
「見ればわかるさ。」
俺は言われた小屋に入った。
そこには使い古されたベッドが一つあるだけで、そこに一人の男が横たわっていた。
「誰だい、あんた。」
「しがない旅人ですが。」
「出てってくれないか、寝てる最中だ。」
「もう昼過ぎだぞ、起きてもいいんじゃないのか?」
「うるさい、旅人如きが村の事には口を挟むなよ。わかったら出て行ってくれ。」
なんとなく村人の言っていたことが分かる。
俺は広場へと戻った。
「おい、旅人さんよ。どうだった?」
「どうだったって、ふてぶてしい男でしたよ。」
「だろう?あいつ、村の傭兵のくせに見回りもろくに一日中せずぐうたらしてるんだ。」
「勇者さまがこの村に結界を張ってくれたおかげでモンスターも出ることはなくなったし、もう用済みだよあいつは。」
「なんとなく事情は分かりましたよ。」
俺は村人と軽い世間話をしてから宿屋へ向かった。
夕暮れの光が部屋に差す。
二人は既に寝ている。
俺もベッドに倒れこみ、半ば気絶するかのように眠りについた。
キーン、キーン...
俺は武器がぶつかる音で目を覚ました。
窓には月景色が映り、二人はまだ眠っている。
おそらく俺は一日中眠っていたのだろう。
キーン、キーン...
武器のぶつかる音はやはり聞き間違いではない。
俺は外へ様子を見に行くことにした。
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