永のフリッツ
ケソメキ
プロローグ
第1話 300年ぶりの旅立ち
ここはどこだ。
そうだ、ここは魔王城。
俺たちが魔王に敗れて呪われたあの日だ。
何度夢でこの景色を見ただろうか。
俺は何度でも負け、何度でも呪われるのだろう。
この腕の呪紋が消えない限り。
「...」
「...おい!」
「おい!いい加減起きろフリッツ!」
「もう朝か?」
「それどころじゃない、とにかくこっちだ!」
俺は寝起きの体を半ば引きづられるような形でハインリヒに連れていかれた。
木々の隙間から月光が道を照らしている。
「やっと来たのね。」
小高い丘の上にエーデルハイトが立っている。
「なんだあの灯りは、もう真夜中だというのに。」
丘のふもとに広がるオーリエ平原、オーリエ川の畔にあるクラッハ王国の王都は今まで見たことが無い程に盛り上がっていた。
「フリッツ、聞いて驚くなよ。」
「勿体ぶらずにさっさと言ってくれよ。」
「魔王が死んだらしい。」
「今なんて?」
「だから魔王が死んだんだよ!勇者なんちゃらって奴が討伐したんだ!」
「勇者ペートルね。今王都は凱旋パレードの真っ最中ってわけ。」
いままでの眠気はどこかへ消えてしまった。
それから俺は腕をめくり、呪紋を確認する。
「おい、どういうことだよ。魔王が死んだのに呪いが解けてないじゃないか!」
「そう、私達はまだ年をとれないの。」
「本当に勇者は魔王を倒したのかよ。」
ハインリヒが槍斧を地面にたたきつけた。
「明日王都へ確認しに行こう。」
二人とも俯いたままで返事は帰ってこなかった。
「俺たちの修行って何のためだったんだろうな。」
ハインリヒの呟いた一言に俺は答えることが出来なかった。
それから夜は明け、日が昇り始めた。
三人とも横になったものの、おそらく誰も眠ることはできなかっただろう。
「さて、行くか。」
「何年振りだろうな、街に出るなんて。」
「何十年、いや何百年ぶりでしょ。」
「俺たちの事を知っている奴なんてもうこの世に居ないからな。俺たちはただの無名冒険者だ。」
歩いて半日ほどで王都へとたどり着くことが出来た。
普段から慣れていない街の賑わいに、少し頭が痛くなる。
「懐かしいな、この感じ。」
「どうした、ハインリヒ。」
「昔俺たちはこの街に集まって旅を始めたんだ。街並みも変わって前の街とは思えないけどな。」
「君、面白い武器を持っているじゃないか。」
突然見知らぬ男が声を掛けて来た。
「誰だお前。」
ハインリヒが警戒し、槍斧を握る手に力を籠める。
「ハインリヒ、待って。」
「どうした、エーデルハイト。」
「こいつ...」
「こいつだなんて、酷いなぁ。」
目の前の男はため息をついた。
「あなた、名前は?」
「君は話が通じるようで。何事もまずは挨拶からだろう?」
「俺はフリッツ、彼がハインリヒで彼女はエーデルハイト。」
「僕はペートル。一応勇者と呼ばれているんだけどね。」
「やっぱり、こいつあの”勇者”だよ。」
「だから、こいつって呼ぶのやめてくれないかな。」
「おい勇者さんよ、魔王を倒したって本当か?」
「あぁ。冷やかしなら間に合っているけれども。一応これが証拠だよ。」
そう言うとペートルはペンダントを取り出した。
「まぁこれ見ても分からないだろうけど、これは...」
「これはあの魔王がつけてたペンダントだ...」
「君、これがわかるのか?」
「俺たちも一応魔王と戦ったから。」
「負けたんだね、残念。」
「お前!」
殴りかかろうとするハインリヒを必死でエーデルハイトが抑える。
「まぁ一応このペンダントがわかる人が居たからいいけどさ。皆これを見せただけでなんとなく魔王討伐に成功したんだって信じ込んでさ。こんなんじゃ簡単に騙されちゃうよな。あ、もう時間みたいだ。左様ならばまたどこかで。」
そう言うと、ペートルは人ごみの中へと消えてしまった。
俺たちは宿を取り、部屋で休みながら話し合った。
「何だったんだよあいつ!」
「まぁ勇者だからといって性格がいいとは限らないし。」
「でも、これで魔王を倒したことは本当だと分かった。」
「これからどうすんだよ。」
「どうしよっか。エーデルハイトはどうしたい?」
「どうしたいって、とりあえず呪いを解きたいとしか言えないでしょうに。」
「ハインリヒは?」
「あの野郎をぶん殴って一泡吹かせてやりたい。できれば今すぐだ。」
ハインリヒは血の気が多くて大変だ。
「まぁまぁ、それじゃまた旅をするのはどうだ?」
「呪いの解き方も分からないのに?」
「それじゃ今までと変わらないよ、一つの目標に固執するんじゃなくてさ。なんとなく旅するんだよ。そうすればきっといつかは呪いの解き方もわかるさ。」
「俺は別にいいけどさ、不老のままだって。」
「ハインリヒ、お前も嫌と言うほど体感しただろう、この呪いの恐ろしさを。周りの人間はいつか死ぬというのに、自分たちだけが取り残される恐怖を。」
「別に死ねないわけじゃない。嫌になったら自分の首を掻っ切るさ。」
「その時が来ればきっと俺たちは完全に人間でなくなってしまう。こんなこと、あってはならない。そうだろ?エーデルハイト。」
「私はとにかく呪いを解く方法を探したい、それだけ。」
「わかった、二人とも。俺についてきてくれ、それ以上は何も望まない。」
「なんだかこの台詞、昔にも聞いた気がするな。」
「ついて行った結果がこれなんだけどね。」
エーデルハイトが笑いながら言った。
「そんなこと言うなよな。でもこれでいいだろ?」
「ああ。」
「うん。」
「それじゃ改めてよろしくな。魔女エーデルハイト、戦士ハインリヒ。」
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