67 入籍まで残り1日
ルナと初めてデートした勇太。ほとんど日が暮れたパラレル山の展望台で2人たたずんでいる。
前世では当然の礼儀であったし、女の子の話ではルナ自身の話題しか出さなかった。
だけど、別れ際にルナから梓のことを言われた。
「勇太、もうすぐ梓の誕生日だよね」
「・・うん」
満面の笑顔でルナが言った。
「今日ね、私は勇太を独占できて楽しかった。だからね」
「・・?」
「梓の誕生日も私にしてくれたみたいに最高の1日にしてあげてね。そして幸せな気持ちで入籍してね」
ルナは優しい目をしている。
男女比1対1の前世なら、絶対に含みがある言葉。だけどルナの目には嘘偽りは感じない。
男子を女子数人でシェアすることも当たり前の世界。その上に、この世界の中でも嫉妬心が少なさそうなルナ。
自然に、こういう言葉が本心から出てくるようだ。
勇太は受け入れることにした。しかし、たまにいやいや待てよという気持ちも沸いてくる。
自分の学校と茶薔薇学園で柔道、早朝からパンのウスヤ、リーフカフェの仕事。そしてパラ横商店街で、純子とパンの歌を歌った。
そして義務化している精子提供に行った帰り、看護師軍団との会食もあった。
目まぐるしく動いているうちに、7月30日を迎えた。
◆◆
スケジュールは勇太の実母が眠る海辺の街に行って、山の上にあるお寺でお墓参り。ご飯を食べて一泊。
31日の梓の誕生日に、海辺近くの市役所で婚姻届けを出す。っして観光して帰宅。
着ていく服、次の日の服は勇太がプレゼントした。
これはルナのアドバイス。
新婚旅行は梓の希望で、ルナとカオルも入れて4人一緒ということになる。
というか、勇太はルナにはプロポーズの返事はいまだにもらってない。それにカオルには告白すらしていない。
ただ、自分とのお泊まりと入籍を楽しみにしてくれる梓に余計なことは言わない。
29日に梓と出かけ、パンツスタイルのサマースーツ、ワンピースをプレゼントした。靴も買った。
30日はゆったりと家を出た。
「お母さん、行ってくるね」
「じゃあ、葉子母さん行ってきます」
「うん。勇太、梓をよろしくね」
「任せといて。明日帰ってきたら葉子母さんは、お義母さんだね。ま、呼び方は変わんないか」
「そうだね。これからもよろしくね、婿殿」
「はいな、お義母様」
叔母葉子は、本当に感慨深い。
勇太が頭に怪我を負ってから、わずか2か月半。その間に色んなことが好転した。
同居から4年、葉子どころか梓までないがしろにしていた勇太が、本当にいい男に変身した。
いい男になりすぎて花木ルナ、今川カオルと次々と女性が現れたけれど。約束通りに梓を1番目の妻にしてくれる。
実は葉子は、もう一つの懸念も取り除かれて安心している。
別居している夫に梓の入籍決定を知らせた。2か月前で、その時点では難色を示していた。
梓の父親は、1度だけパラレル勇太と会ったことがある。
梓の父は、やや上から目線な男だけど、男子にしては気遣いもある。それにハンサムで資産も持っているし妻の中の2人が共同で会社をやっている。
彼に紐付けされる『家族』にはかなりの財産がある。
葉子と梓が住んでいる家も生前分与で梓のためにくれた。
梓の父親は、勇太と梓が籍を入れるのはいいが、家の名義等は絶対に勇太に書き換えるなと厳命してきた。
まだ未成年ということを差し引いても、以前の勇太をまったく信用していなかった。
葉子が去年、夫に渡された勇太と梓の結婚した場合の制約書がある。誓約書でななく制約書だ。
これは、重婚法と同時にできた制度。
重婚の穴。それは多数の配偶者がいたとして、その誰かが別の婚姻を同時にできること。これを野放しにすると、どこに繋がっていくか分からない。
由緒ある家の行事に、男性当主の婚姻者の、そのまた婚姻者の、その婚姻者の身内を名乗る反社会的な人が縁者として現れたりした事例もある。
だから、婚姻には同時期配偶者の有無、所在を確認した証明書が必須。
けれど縁を持ちたくない人間と、配偶者本人、または配偶者の血縁者に婚姻されてしまう可能性もある。特に家が絡むとき。
そのときに、付き合いも含めた一切の権利を放棄、制限させる書面を一方的に突きつけるのが制約書だ。
簡単に言えば、重婚で繋がってしまっても、特定の個人から繋がった人には親戚とさえ名乗らせないこともできる制度。
勇太と梓が結婚するなら、梓の父が親戚としては制約をかけようと考えた。
しかし、誰からか聞いたのか、勇太がいい具合に変わったことを知った。
梓の父親が勇太ともう一度会って、制約書を見直したいと言ってきた。態度が軟化していた。
少なくとも梓と、梓の父親は縁が切れなさそうだと、葉子は胸をなで下ろした。
◆◆
勇太と梓は、勇太の実母の墓前で籍を入れることを報告した。
「おばちゃん、明日、ユウ兄ちゃんと本当の家族になります」
「安心して下さい。お母さん」
勇太は今になって気付いた。ひどい話だ。
亡くなった母親の顔をパラレル勇太の記憶から引き出してみると、見覚えがない女性だった。
そしてパラレル勇太は人工受精児で父は限定できない。
「パラレルなお母さん、息子さんに乗り移って申し訳ありません」
そう呟きながら、冥福を祈った。
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