68 梓と、とうとうなのか?

7月30日。

勇太の実母の墓参りに行って、梓と一緒に今日泊まるシティホテルに向かった。


勇太は緊張してきた。


梓とバイトや学校、買い物から一緒に帰ることもよくある。やっぱり、そんな日常とは違う。


すごくお互いを意識している。いつものように会話が弾まない。


ホテルのレストランで1日早いが、ケーキも含めて料理の用意をお願いしている。


ホテル到着。


海沿いにあり、観光用としても人気がある。女性同士の簡易な結婚式などにも使ったりする施設も併設し、フロントスペースが広い。


「あれ、あの男の人って、隣の県に現れたっていうカフェ店員さんじゃない?」

「実物って、なんか映像で見るよりもエロ可愛い」

「今までの目撃情報って、パラレル市ばかりだったよね」


パラレル市すら出ていなかった勇太の出現。


正装した梓を連れて、本人もネクタイをしている。常識としては見知らぬふりが正解なのだが、やはり勇太は目立つのだ。


しかし勇太は、今日は梓のためだけに過ごす日だと思っている。


現在は午後6時。食事を予約している7時まで1時間ある。


フロントに荷物を預け、ホテルのテラスに出て2人で海を眺めたりした。


「・・なんか、緊張しちゃうね」

「・・うん。一緒に住んでるのに不思議だな」


「私だけじゃなかったんだね・・」


パラレル梓の笑顔が可愛い。前世梓と違って、女の色香も感じる。


食事はおいしかった。最後にケーキを食べ終えたところで、勇太は梓を見た。


目が合った。目をそらされ、赤い顔で下を向かれた。ああ、梓の緊張も解けてないなと思った。


「梓・・」

「なに?ユウ兄ちゃん」


「ありがとう」


「・・なにに?」


「5月までのダメすぎた俺も、今の俺も、ずっと支えてくれてたことにかな?」

「なんで疑問形なの。あはは、変なユウ兄ちゃん」


「感謝してるぞ、ほんと」


この世界に来てモテている。それは勇太の人生の中のほんの短期間。前の世界でもモブ顔の童貞だった。


気が利いたことを言えないけど、梓には感謝してる。



1人目の妻になる女の役割だと言って、甲斐甲斐しく動いてくれる。


だからルナやカオル、純子&麗子ともスムーズに交流できている。改めて思った。


前世の記憶が色濃い勇太。一夫一妻の感覚ではおかしい。けれど、ここは男女比1対12の世界。


ルナとの初体験のあとも、怒るどころか喜んでくれた。妻同士で仲良く連携するのは当たり前と強調された。


勇太の嫁が増えたとき、意見を言う立場が欲しい。だから勇太の1番目の妻になることの方が重要だったそうだ。


「私が厳しい意見を出すことがあると思う。けれど、これだけは信じて。私はユウ兄ちゃんの幸せのために動くから」


そう言われて、今では納得がいく。


これから本当に、梓はエッチをするんだろうか。勇太は変な緊張感に突き動かされ始めた。


ルナとカオルには、頑張ってと言われている。


400年間も、男性が不特定多数の女性と性行為をすることが『善』となっている世界。勇太は改めて感じた。


人工受精が普及しても、男女の交流と恋愛は、社会を動かす女性のモチベーションを上げるためにも重要。


現在も日本政府は、男性と女性の性交受精を推奨している。


8割に届きそうになっている人口受精率は、人工減少の懸念を減らしてくれる。


代わりに高い技術力と設備が必要で、各国は大きな予算を割いて人工受精を行っている。


ただ、こちらの世界の2008年に起きた四国沖の地震では、死者はゼロに近かったが停電が長引いた。


電力をライフライン優先で使った3ヶ月間があった影響で四国、九州南部で保存していた精子が全滅した。


こうした不測の事態に備えるべきと、方針が見直された。人工受精、自然受精の割合を5割にする方策が立てられている。


なので梓やルナに、勇太の子供ができたら、支援金がもらえる。DNA鑑定も簡単にやれる。


女性の育児休学と復学も、当たり前の制度としてある。


あと、この世界には避妊具という物はない。


勇太としては、この世界に来て最初に梓がいてくれて良かったと感じている。


パラレル梓は決意が固いからか、芯が強く感じる。前世の妹だった梓とは、イメージが離れてきている。


食事を終えて、一度はテラスに出たが、海を見ていても落ち着かず予約した部屋に入った。



部屋に入るなり、梓に抱きつかれた。


いよいよかと思ったら、梓からいきなり謝られた。


「ごめんなさいユウ兄ちゃん、・・初エッチは、延期にしていい?」



「ん?」



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