66 ルナとの初デート

7月25日。


ルナのことで重大なことを忘れていた。


いつも一緒にいるが、買い物に行ったり映画を見に行ったりとか、普通のカップルのようなことをしていない。


「い、いえ、な、なんか勇太といるだけで、普通のデートなんか吹き飛ぶようなインパクトがあることばかりだから、別にいいよ」

「けどさ・・」


「男子にプロポーズされて、誕生プレゼントもらったり、エッチしたり、普通の女の子が経験してないことばかりだよ。十分にすごいよ」


前世でも幼馴染みの純子に、『ルナさんと、きちんとデートした?』と冷たい声で聞かれたことがある。今世でも気が利かない自分に反省する勇太だ。


そういう訳で次の日にお出かけすることになった。


ルナが梓にLIMEしたそうだ。


梓から勇太のところにパラレル山のロープウエーから夜景コース、今の人気映画など、ピックアップして送られてきた。


勇太はいまだに、この辺りの女の子達の感覚が不思議だ。


ルナ、梓は確実に嫁にする。そこにカオルまで加わったら、嫁が3人になりそう。カオルに関しては梓から、当たり前みたいに言われている。


どこのジゴロだよ、くらいの感覚だ。


だけど勇太の感覚に反して、3人が連携を取っている。お互いに足を引っ張るわけではなくて、その時に勇太と一緒にいる女の子が、より楽しめるように考えている。


そこに変な意図も悪意もなくガチだから不思議でたまらない。


色んなモノが前世そっくりなパラレルワールド。だけど、やっぱり異世界なのだ。


◆◆

次の日はルナと待ち合わせた。


梓の時と同じで、花を一輪持って駅で待った。これは梓が本当に嬉しかったから、ルナにもしてあげたらと言われた。


「ルナ、今日は来てくれてありがとう。はい」


「わあ、花なんて初めてもらった。うれしい。うふふ」


今日の勇太は上は白いポロシャツ1枚。ルナは青のワンピース。


今日はすごくオーソドックスにいこうということになった。まず映画。


オール女性キャストのハリウッダ映画。神秘の遺跡を発掘するやつだ。


同じ映画館で18歳男優主演の青春映画も上映されていた。そこも人気があるが客層は中学生まで。


高校生になると、さすがに男優の大根役者ぶりに気付く。それで高校になると卒業する女の子が大半だそうだ。


見方を変えると、男子の研鑽不足が目立つ世界である。


同じ理由で男性歌手も少ない。


「・・あれ、伊集院君って、もしかして奇跡の存在?」


今ごろになって、同姓の友人の凄さが、今まで考えていたより5段階上だと感じている勇太だった。


上映まであと30分。飲み物の販売コーナーに並んでいる。かなり注目されている。


「そういえばルナ、こんなメロディー知ってる?」


勇太は前世のクラシックの旋律を口ずさんだ。


やっぱりざわっとした。


前世では楽譜進行の、ひとつの極みと言われていた、パッヘルベルの『カノン』のフレーズを口ずさんだ。


「あ、クラシックの『シャロン』だね」


曲名は違っても、同じ法則で名曲を作った音楽家がいたと思った。しかし・・


「男子が一気に減少した直後、パッヘルベルコって女性作曲家が作ったんだよね」


あとで検索したら、パッヘルベルコの肖像画は、単なる縦巻きロールのオバサンだった。


女性に注目されたけれど、ルナの格好を見るときちんと理解してくれた感じ。


正式なデートをしている2人に突貫してくる無粋な人はいない。


この辺りは男子に取って都市部の方がいいそうだ。


田舎の方が男子の危険度が上がる。普段は男を見て過ごしていないヤンキー女子とかがいて、女連れでも男子にちょっかいをかけてくるらしい。


防犯という名目でスマホを向けてくる人が沢山いるのは、日常と化している。


映画のあとは、ルナのリクエストでパスタの店。次がプリクラ。


バスに乗って、標高623メートルのパラレル山のふもとへ。売店で名物のパラアイスを食べたあと、ロープウエーで8合目まで上がった。


終点駅横にある展望テラスの柵の前に並んで、市内を見渡している。


夕日で空が赤くなり始めている。


名前はパラレル市だけど、勇太が前世で住んでいた街にも見える。


体がギリギリ動いた頃、親に車を出してもらい山の展望台まで登った。


そのときは父、母、梓、そしてルナもいた。みんなに労られながら杖を付いて、ゆっくり歩いた。


すごく綺麗な景色が心に染みすぎて、涙がこぼれてしまった記憶がある。



今は、穏やかな気持ちで景色を見ることができる。そして横にはルナがいる。夕日に照らされた顔が可愛い。


ルナに肩をくっつけた。


「ルナ、一緒にここに来れてよかった」

「ふふ。私も勇太がいてくれて嬉しい」


そして・・。


そして、どちらともなくキスしそうになったのだけど。はっとして後ろを見ると・・


きゃっと、女性達の声。幼児からお年寄りまで、みんな勇太とルナを見ている。


「・・あはは」「い、いい天気ですよねー」


小学生くらいの女の子が言った。


「あのお兄ちゃんとお姉ちゃん、もう少しでチューするとだったよね。ね、ね」


赤面するふたりだったが、顔を見合わせて笑った。



ルナが思い出に残る1日だったと言ってくれて、勇太は満足だった。



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